第9話

文字数 2,219文字

 それから。
 緩慢(かんまん)午後(ごご)授業(じゅぎょう)()えて、放課後(ほうかご)
 (ぼく)たちは、また、木戸口(きどぐち)さんのクラスへと()ていた。
 放課後(ほうかご)来訪(らいほう)には、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)もついてきた。
 ついてきたと()っても、ばったり()ったというだけで、()()わせていたわけではなかった。
 4(にん)()()って、木戸口(きどぐち)さんのクラスに()いた。
 流石(さすが)放課後(ほうかご)ともなると、(うわさ)転校(てんこう)(せい)である木戸口(きどぐち)さんの(まわ)りは、すっきりとしていた。
 それでも、まだ何人(なんにん)かが、周りにいた。
 木戸口(きどぐち)さんは、その(ひと)たちの対応(たいおう)()われて、(かえ)ることが出来(でき)ていないらしい。
 そんな(ふう)様子(ようす)(うかが)(ぼく)(たい)して、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)(なに)()にせずに木戸口(きどぐち)さんを()んだ。

木戸口(きどぐち)()()さんはいますかー!」

 先輩(せんぱい)がそう()って、木戸口(きどぐち)さんを()んだ。
 すると、木戸口(きどぐち)さんとその(まわ)りの女子(じょし)が、(ぼく)たちの(ほう)()()いた。
 女子(じょし)たちは、(かお)()()わせていた。
 木戸口(きどぐち)さんだけが、(せき)から()って、(ぼく)たちの(ほう)へ近づいてくる。

「えっと、大園(おおぞの)さんでしたよね……」
昨日(きのう)はありがとうね!」

 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)が、元気(げんき)いっぱいの挨拶(あいさつ)をした。

「こちらこそ。自分(じぶん)(たす)かりました」

 そう()って、木戸口(きどぐち)さんはペコリと(あたま)()げた。

(なに)かご(よう)ですか?」
(たい)した用事(ようじ)じゃないんだけどね! 昨日(きのう)のことが()になったから()たの!」
「……昨日(きのう)のこと?」

 木戸口(きどぐち)さんは、いったいなんだろう、と(いぶか)しむ。
 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)がより(くわ)しく事情(じじょう)説明(せつめい)する。

「ほら! 昨日(きのう)さ、あたしと峯村(みねむら)クンで、()てる(ひと)(ちが)うってことがあったでしょ? あれがね、()になったの」
「……ああ」

 木戸口(きどぐち)さんが(ぼく)(ほう)をチラッと()た。
 (おび)えた(あか)()一瞬(いっしゅん)だけ(ぼく)(とら)えた。
 まだ(おび)えられているのか、と(ぼく)(かな)しくなった。
 けれど、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)はそんなことは()にせずに、(はなし)(すす)めていく。

「それでね、(ほか)(ひと)だったらどうなのかな、と(おも)ったから、()れてきちゃった」

 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)(うなが)されて、川上(かわかみ)さんと佐藤(さとう)さんが挨拶(あいさつ)をする。
 木戸口(きどぐち)さんは、二人(ふたり)(かる)会釈(えしゃく)をしたが、(うれ)しそうには()えなかった。

「どうしたんですか?」

 と(ぼく)(たず)ねる。

「いえ、そんな質問(しつもん)を、今日(きょう)(おお)くされたので」
「え?」

 (ぼく)()(かえ)した。
 けれど、木戸口(きどぐち)さんは、その(おどろ)きには(なに)(かえ)してくれない。

「そんな質問(しつもん)って?」

 さらに(ぼく)()いた。
 すると、木戸口(きどぐち)さんは、しぶしぶと()った(かん)じで、(こた)えてくれた。

自分(じぶん)、よく(ひと)間違(まちが)えられるって、昨日(きのう)()いましたよね」
「はい」
「だから、今日(きょう)は、そんな質問(しつもん)ばっかりで(つか)れたんです。みなさん(おな)じことばっかりで……」
「どんなに(ひと)()てる、って()われたの?」

 と、佐藤(さとう)さんが()くと、木戸口(きどぐち)さんは、(すこ)しも(かんが)える素振(そぶ)りを()せずに(こた)えた。

(おぼ)えてないです。みなさん、()うことが(ちが)うので」
「……全員(ぜんいん)が?」

 佐藤(さとう)さんが、木戸口(きどぐち)さんの()ったことを、そのまま()(かえ)した。
 木戸口(きどぐち)さんは(うなず)く。

「でも、どうしてそんなことになるんだろうねぇ?」
「わかりません。……(わたし)にも、(なに)(なん)だか」
(むかし)からなの?」
「……はい。……(ちゅう)学校(がっこう)ぐらいからです」
「じゃあ、(ぎゃく)に、()てると()われなかったことはないの?」

 木戸口(きどぐち)さんは、()だけを上向(うわむ)きにさせた。
 (おも)()しているようだった。
 そして、

「いました」

 と()った。
 佐藤(さとう)さんがそれを追及(ついきゅう)する。

「どんな(ひと)だったの?」
今度(こんど)は、自分(じぶん)がよく(おぼ)えてません。……どんな人だったのか……」
「……なるほどにゃあ」

 佐藤(さとう)さんはそう()って、(ぼく)らの方に()(かえ)った。

「って、()ってるけど、どうなんだろうにゃあ」
春奈(はるな)は、(だれ)()てると(おも)った?」
春奈(はるな)は、なんとなく、タロちゃんに()てると(おも)ったけど……」

 佐藤(さとう)さんは、木戸口(きどぐち)さんを()感想(かんそう)()べてから、川上(かわかみ)さんに()(かえ)した。

()()は?」
(わたし)峯村(みねむら)()てると(おも)う」
「どこが?」
()()てる」
「そうかなぁ?」

 佐藤(さとう)さんは、木戸口(きどぐち)さんの(ほう)(からだ)(もど)した。
 (あご)()()てて、まるで骨董品(こっとうひん)鑑定(かんてい)するかのように、まじまじと観察(かんさつ)する。
 木戸口(きどぐち)さんは、佐藤(さとう)さんを(こわ)がって、(からだ)をのけ()らせた。

「みんな峯村(みねむら)クンに()てる、と(おも)ったってことだよね!」
「そうですね。でも、峯村(みねむら)は、村口(むらぐち)さんに似てると()ってるし……」

 川上(かわかみ)さんは、(みみ)たぶを(さわ)りながら(だま)りこくってしまった。
 (かんが)(ごと)(はじ)めたらしい。
 (なな)(うえ)()ながら、ずっと(からだ)()すっている。
 川上(かわかみ)さんのいつもの(くせ)だった。
 テスト(ちゅう)とか、(かんが)える(とき)川上(かわかみ)さんは、いつもこの(くせ)発揮(はっき)している。
 子供(こども)()みた仕草(しぐさ)だけど、不思議(ふしぎ)と、クールな川上(かわかみ)さんのイメージにぴったりと()っていた。
 だから、(ぼく)は、(かんが)(こと)をしている川上(かわかみ)さんの姿(すがた)が、()()っていた。
 そんな(かたわ)らでは、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)が、(なに)かを(おも)いついたようで、木戸口(きどぐち)さんに質問(しつもん)をした。

「ねえねえ、()()ちゃんは、(おとこ)(ひと)間違(まちが)われたことは、これまでにあったの?」
「あります。(おんな)(ひと)は、いつも(おとこ)(ひと)()てるって()うんです」
「みんなが?」
「はい。たまに(ちが)(ひと)もいますけど」
「じゃあ、(おな)(ひと)間違(まちが)われたことはあるのぉ?」

 大園先輩(おおぞのせんぱい)(つづ)いて佐藤(さとう)さんが()いた。

「それもたまにあります。こんなに一度(いちど)()われることはありませんけど……」

 木戸口(きどぐち)さんがそう(こた)えると、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)佐藤(さとう)さんも、うーん、と(うな)(はじ)めてしまった。
 それ以降(いこう)は、(なに)発展(はってん)もなかった。
 川上(かわかみ)さんも、(かんが)(ごと)をしただけで、(なに)(おも)いつきはしなかったらしい。
 そして今日(きょう)はもう(かえ)ろうか、という(こと)になった。
 (ぼく)たちは、木戸口(きどぐち)さんとその(まわ)りにいた(ひと)たちへの謝罪(しゃざい)もそこそこに、(ぼく)たちは帰路(きろ)()いた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

峯村太朗


主人公。

村口さんに告白したが失敗。

絵を描くのが得意。

川上瑠美


峯村を慰める、心優しい女子。

若干ギャルだが、根は真面目。

佐藤春美


峯村を慰める、心優しい女子2。

お気楽な性格は、ネガティブな本心の裏返し。

大園まりあ


峯村が所属する整美委員会の委員長。

背は低いけど、元気はいっぱい!

木戸口奈緒


中途半端な時期にやってきた転校生。

よく他の人に間違われる。

村口美音子


峯村の告白を断り、物語の始まりのきっかけを作った。

今はもう転校してしまった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み