第6話

文字数 2,526文字

木戸口奈(きどぐちな)()ちゃんだね!」
「はい」

 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)が、彼女(かのじょ)申請書(しんせいしょ)()いた名前(なまえ)()ながら、そう()う。
 すると、村口(むらぐち)さんに()女子(じょし)生徒(せいと)――木戸口(きどぐち)さんは(うなず)いた。

「こんな時期(じき)転校(てんこう)なんて、(めずら)しいね」
「はい」

 木戸口(きどぐち)さんは、普通(ふつう)(こた)えたように(おも)えた。
 けど、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、()いてはいけないことを()いたかと(おも)ったようで、咄嗟(とっさ)に、()(つくろ)言葉(ことば)(つづ)けた。

「あ! でも、事情(じじょう)は人それぞれだよね!」
「いえ、両親(りょうしん)喧嘩(けんか)するたびに、どちらかに()()られて転校するのは、(むかし)からなので」


 ――()れてます。
 

 と、木戸口(きどぐち)さんは()った。
 その()(かた)がとても無機(むき)(しつ)(かん)じられた。
 だから、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、もう()れない(ほう)がいいと判断(はんだん)したらしい。

「そうなんだねー」
「はい」

 そう()って会話(かいわ)途切(とぎ)れる。
 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、申請書(しんせいしょ)()って、(つくえ)()かった。
 (なに)かを()いているようで、ペンが(かみ)をこする(おと)だけが室内(しつない)(ひび)いている。
 その(あいだ)(ぼく)は、()ちつかなかった。
 木戸口(きどぐち)さんを(ぬす)()るようにして、チラッと視界(しかい)(はし)(とら)える。
 ……やっぱり、()ている。
 村口(むらぐち)さんに。
 (ぼく)が好きになってしまって、(ぼく)がフラれてしまった(おんな)()
 その(ひと)に、木戸口(きどぐち)さんは、あまりにも、()ていた。

「……あの、さっきから、どうしてそんなに()るんですか」
「え?」

 (ぼく)は、木戸口(きどぐち)さんにそう()われてキョドってしまう。

「いや、その」
自分(じぶん)(なに)かおかしいですか?」
「……そういうわけじゃ、ないんだけど」
「じゃあ、どうしてですか?」

 木戸口(きどぐち)さんは、あくまでも不思議(ふしぎ)だから()いている。
 そんな(かん)じだった。
 それなら、と(おも)って、(ぼく)は、(おも)っていることを

()うことにした。

木戸口(きどぐち)さんが、(ぼく)()っている(ひと)に、()てて」

 と、(ぼく)()うと、(つくえ)()かっている大園(おおぞの)先輩(せんぱい)(かお)をあげた。

「え! 峯村(みねむら)クンも?」
「え? 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)もですか?」
「うん。最初(さいしょ)廊下(ろうか)()(とき)から(おも)ってたんだよね」
「そうだったんですか」

 (ぼく)大園(おおぞの)先輩(せんぱい)()()がる。
 けれど、(ぼく)対面(たいめん)にいる木戸口(きどぐち)さんは、()かない(かお)だ。

「……やっぱりそうですよね」
「やっぱり?」

 (ぼく)先輩(せんぱい)(こえ)(かぶ)る。

「やっぱりって、どういうことですか?」
自分(じぶん)、よく言われるんです。(だれ)かに()ているって。どこにいっても」
「……へぇー」

 と、(ぼく)()()けた返事(へんじ)をする。
 すると大園(おおぞの)先輩(せんぱい)生徒(せいと)手帳(てちょう)()ってきた。
 先輩(せんぱい)は、木戸口(きどぐち)さんに生徒(せいと)手帳(てちょう)(わた)すと、椅子(いす)()せて、(ぼく)(となり)(すわ)った。

「それが生徒(せいと)手帳(てちょう)だよ! 初回(しょかい)発行(はっこう)学費(がくひ)(ふく)まれてるから無料(むりょう)だよ!
 ()くしたりすると、(つぎ)からは330(えん)かかるから、()をつけてね!
 風紀(ふうき)検査(けんさ)とかでも、チェック項目(こうもく)だから、学校(がっこう)ではいつも()ってるようにね!
 たまに、シャツのポッケに()れたままにして洗濯(せんたく)しちゃうことがあるから、(あら)(もの)()すときは、ポッケの(なか)(そら)になってるか、()るようにね!」
「ありがとうございます」

 木戸口(きどぐち)さんは、生徒(せいと)手帳(てちょう)()()ると、カバンのポケットに生徒(せいと)手帳(てちょう)をしまった。

「それで、さっきの(はなし)だけど! 峯村(みねむら)クンは、(だれ)()てると(おも)ったの?」
「え?」

 まさか、そんな急転回(きゅうてんかい)して(はなし)(もど)ってくるとは、(おも)ってなくて、(ぼく)は、(おお)げさに反応(はんのう)してしまった。

「あたしは、峯村(みねむら)クンに、()てると(おも)ったんだけど」
「ええ! (ぼく)にですか⁉」
()てない? (ぎゃく)に、峯村(みねむら)クンは(だれ)(おも)ったの?」
「……その、村口(むらぐち)さんに()てるな、(おも)って」
「……村口(むらぐち)さんかぁ」

 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、そう()って(うで)()んで、(あたま)をひねった。
 (ぼく)も、(まゆ)()せて、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)()ったことを、なんとか理解(りかい)しようとする。
 けれど、木戸口(きどぐち)さんのどこを見ても、(ぼく)()ているところは、()つけられなかった。

大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、木戸口(きどぐち)さんの、どこが(ぼく)()ていると(おも)ったんですか」
「え? そうだなぁ……。どこって、()われると(むずか)しいけど……。雰囲気(ふんいき)だよ! 雰囲気(ふんいき)がそっくり!」
「どんな雰囲気(ふんいき)ですか」
「それも説明(せつめい)できないけど! とにかく()てるの!」

 そう(おお)きな(こえ)誤魔化(ごまか)して、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、(ぼく)(おな)質問(しつもん)(かえ)してくる。

峯村(みねむら)クンはどこを()て、村口(むらぐち)さんに()てると(おも)ったの?」

 と()われて、(ぼく)(すこ)しだけ自信(じしん)()って(こた)えた。

「まず()です」
()?」
()(じり)が、さっと(よこ)一線(いっせん)()いたようになってるのが、()てます。まつげが(なが)いのも()てる。あとは(かみ)(なが)さとか、艶感(つやかん)とかも、村口(むらぐち)さんの(かみ)()えたみたいに()てます」

 (ぼく)は、自分(じぶん)観察(かんさつ)結果(けっか)を、ありのままに()った。
 ……のだけど、()いすぎてしまったらしい。
 木戸口(きどぐち)さんは、生徒会室(せいとかいしつ)(はい)るときよりも、(かお)不健康(ふけんこう)(いろ)になっていた。
 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)も、ウーと(くち)をとんがらせて、(おどろ)きを(かく)せない様子(ようす)だった。

「……まぁ、なんとなく、ですけど」
「……よく()てるんですね」

 といったのは、木戸口(きどぐち)さんだった。

「いや、その、ついというか」
「……つい⁉ つい、で()めるように観察(かんさつ)をしてるんですか⁉」

 また余計(よけい)なことを()ってしまったと、後悔(こうかい)しても、もう(おそ)かった。
 木戸口(きどぐち)さんは、いよいよ(ふる)えだしてしまっている。
 その木戸口(きどぐち)さんの様子(ようす)()て、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)(なん)とか弁明(べんめい)(こころ)みる。

「ごめんね! 峯村(みねむら)クンも、悪気(わるぎ)があったわけじゃないんだよ!」
「……そう、ですか」

 それでも、木戸口(きどぐち)さんは()()(しま)もない対応(たいおう)だ。

峯村(みねむら)クンはね、()()くのが(じょう)手だから、こんな風に、よく誤解(ごかい)されちゃうんだよ!」
「よく!? よくしてるんですか! こんなことを⁉」

 木戸口(きどぐち)さんが(しん)じられないものを()るような()(ぼく)()る。
 (ぼく)は、なんとか弁解(べんかい)しようと、

「いや、その……。た、たまに! たまにだよ!?」

 と、()ったけれど、大園先輩(おおぞのせんぱい)が、

「そうだよ! たまに変人(へんじん)だと(おも)われたり、ナンパだと(おも)われちゃうこともあるけど、いい(おとこ)()なんだよ!」
「ナンパ(ぐせ)のある(おとこ)……⁉」
先輩(せんぱい)、ちょっと(しず)かに!」
 
 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)暴走(ぼうそう)(はじ)めた。
 (あわ)てて、(ぼく)()めに(はい)ったけれど、もう(おそ)かった。

「……じ、自分(じぶん)、もう、(かえ)りますね!」

 と()(のこ)して、木戸口(きどぐち)さんは、生徒会(せいとかい)(しつ)から()げるように、()ていった。

「あ、ちょっと!」

 ガンッと(とびら)が、(おと)()てて()じられた。

「なんだか……ごめんね……?」
最悪(さいあく)だあああ!」

 (ぼく)は、自分(じぶん)不運(ふうん)(なげ)いて()いた。
 変態(へんたい)汚名(おめい)(かぶ)されたことを(なげ)いて一晩(ひとばん)(じゅう)()いた。
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登場人物紹介

峯村太朗


主人公。

村口さんに告白したが失敗。

絵を描くのが得意。

川上瑠美


峯村を慰める、心優しい女子。

若干ギャルだが、根は真面目。

佐藤春美


峯村を慰める、心優しい女子2。

お気楽な性格は、ネガティブな本心の裏返し。

大園まりあ


峯村が所属する整美委員会の委員長。

背は低いけど、元気はいっぱい!

木戸口奈緒


中途半端な時期にやってきた転校生。

よく他の人に間違われる。

村口美音子


峯村の告白を断り、物語の始まりのきっかけを作った。

今はもう転校してしまった。

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