第3話

文字数 2,793文字

 それから、(ぼく)は、佐藤(さとう)さんと一緒(いっしょ)教室(きょうしつ)(もど)った。
 (すで)に、(ひる)(やす)みは()わりに()()かっていた。
 (ぼく)はいつも学食(がくしょく)でお(ひる)()べているから、()べそびれちゃったな、と(おも)っていると、川上(かわかみ)さんが購買(こうばい)()っただろうパンをくれた。

「ありがと。いいの?」

 と、(ぼく)感謝(かんしゃ)()げると、

「どうせ何も持ってないと思ったから。いいよ、あげる」

 と()って、川上(かわかみ)さんは()()なくそう(こた)えた。
 けれど、佐藤(さとう)さんは、川上(かわかみ)さんがパンを()っていたことに納得(なっとく)がいかないようで、川上(かわかみ)さんに()って()かる。

()()って、タロちゃんに(あま)いよね」
「……(べつ)にそうでもないけど」
「そうかにゃあ? 春奈(はるな)にはそうは()えないけど」
春奈(はるな)も、わざわざ峯村(みねむら)様子(ようす)()()くなんて、(やさ)しいじゃん」
春奈(はるな)は、タロちゃんが大丈夫(だいじょうぶ)()になったからねー」
(わたし)だって、()にはしてたよ」
「それなら、どうして、春奈(はるな)一緒(いっしょ)()なかったの?」
一人(ひとり)になりたいときだってある、と(おも)ったから」
「そうかにゃあ。(つら)いことがあったら()いてあげた(ほう)がいい、と(おも)うけどなぁ」
「まぁまぁ、二人(ふたり)とも」

 (ぼく)は、手元(てもと)のパンをちぎって、佐藤(さとう)さんの(くち)にねじ()んだ。
 ムグッと()って、佐藤(さとう)さんがパンをむしゃむしゃと咀嚼(そしゃく)する。

川上(かわかみ)さんの言葉(ことば)にしない(やさ)しさも、佐藤(さとう)さんの()()うような(やさ)しさも(うれ)しかったよ」

 (ぼく)はそう()って、椅子(いす)(すわ)ったまま、二人(ふたり)(あたま)()げた。
 (かお)()げると、佐藤(さとう)さんはもうパンを()()んでしまっていた。
 そして、二人(ふたり)とも(うれ)しそうだった。

「そっか」

 と、川上(かわかみ)さんはわずかに口角(こうかく)をあげて、ただ、それだけ()った。
 一方(いっぽう)で、佐藤(さとう)さんは満面(まんめん)()みだ。

「タロちゃんも、()うようになりましたなぁ」
「そんなことないよ」

 と()って、(ぼく)(わら)(かえ)した。
 すると、突然(とつぜん)教室(きょうしつ)後方(こうほう)から、(ぼく)(こえ)()ばれた。

峯村(みねむら)クンはいますかぁ?」

 そこにいたのは、背丈(せたけ)平均(へいきん)よりもが(すこ)(ひく)い女の子だった。
 (とびら)()をかけて、教室(きょうしつ)(なか)をキョロキョロと見渡(みわた)している。
 その(うご)きにしたがって、彼女(かのじょ)(くろ)(かみ)左右(さゆう)()れている。
 肩口(かたぐち)()りそろえられた(かみ)は、(ほそ)いけれどしっかりとした質感(しつかん)(かん)じさせた。
 (こえ)反応(はんのう)して、(ぼく)(とびら)(ほう)()る。
 すると、その(おんな)()()()った。

「あ、峯村(みねむら)クン!」
「どうしたんですか? 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)

 教室(きょうしつ)突然(とつぜん)として(あらわ)れたのは、(ぼく)所属(しょぞく)する、(せい)()委員会(いいんかい)先輩(せんぱい)である大園(おおぞの)まりあ先輩(せんぱい)だった。

「あのね! 今日(きょう)は、放課後(ほうかご)なにしてるかな?」
「どうしてですか?」

 今日(きょう)は、さっさと(かえ)ってしまおうと(おも)っていた。
 だから、予定外(よていがい)のことで時間(じかん)()られるのは正直(しょうじき)(いや)だ。
 でも、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)にはいろいろとお世話(せわ)になっている。
 そのうえ、(せい)()委員会(いいんかい)では副委員長(ふくいいんちょう)任命(にんめい)されているから、(ことわ)りずらさもあった。
 そうやって、思惑(おもわく)義務感(ぎむかん)狭間(はざま)()ったり()たりをしていると、そこに川上(かわかみ)さんが()()んできた。

「すいません、まりあ先輩(せんぱい)今日(きょう)峯村(みねむら)体調(たいちょう)(わる)いみたいなんです。午前(ごぜん)保健室(ほけんしつ)にいってたんで」

 川上(かわかみ)さんは(ぼく)(かた)()()きながら、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)にそう()った。
 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)若干(じゃっかん)小柄(こがら)だから、川上(かわかみ)さんの()(たか)さが、より()()っている。
 実際(じっさい)大園(おおぞの)先輩(せんぱい)見上(みあ)げるようにして、川上(かわかみ)さんを()ていた。
 川上(かわかみ)さんは(ぼく)よりも(すこ)()(たか)い。

「お! 川上(かわかみ)ちゃん! 今日(きょう)もおっきいね!」
「まりあ先輩(せんぱい)も、今日(きょう)もかわいいですよ」

 そう()って、川上(かわかみ)さんは(ひざ)()げ、視線(しせん)()わせるようにして、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)()でた。
 それから(はなし)は、(ぼく)のことに(もど)ってきた。

峯村(みねむら)クン、保健室(ほけんしつ)()ってたの?」

 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)(まる)中心(ちゅうしん)(てん)()ったような()にして、(ゆたか)かな表情(ひょうじょう)(おどろ)いている。

体調(たいちょう)はもう大丈夫(だいじょうぶ)?」
「はい。なんとか」
(ねつ)とかはない?」

 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、かかとを()げて、(ぼく)(ひたい)()()わせようと、背伸(せの)びをしている。
 しかし、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)()(とど)(まえ)に、川上(かわかみ)さんが、その手首(てくび)(にぎ)った。

「まりあ先輩(せんぱい)峯村(みねむら)(ねつ)はないですよ。()(やまい)です」
()(やまい)? それって、(こころ)病気(びょうき)ってこと?」
「そんな(かん)じです」

 川上(かわかみ)さんはそう()って、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)()(はな)した。
 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)はブルブルと(からだ)(ふる)わせ(はじ)めた。

「ええ! あたしいつの()にか、峯村(みねむら)クンに迷惑(めいわく)かけてたかな⁉ パワハラ上司(じょうし)!?」

 その()も、一言(ひとこと)二言(ふたこと)(さわ)いでから、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)(あたま)(かか)えて、またブルブルと(ふる)(はじ)める。

大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。まりあ先輩(せんぱい)関係(かんけい)ないです」

 川上(かわかみ)さんがそう()っても、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)()(みみ)()たない。

「ああ! あたしが峯村(みねむら)クンを酷使(こくし)しすぎたから!」
「そんなことないですって! 先輩(せんぱい)にはいつもお世話(せわ)になってますよ」

 (ぼく)もそう()ったのだけれど、(おも)いは(つう)じず。
 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)はそのまま()げるようにして()って()った。
 (ぼく)()いかけようとした。
 けれど、川上(かわかみ)さんに(かた)(つか)まれて、阻止(そし)された。

「どうして⁉」

 (ぼく)批判的(ひはんてき)目線(めせん)を、川上(かわかみ)さんに()ける。
 川上(かわかみ)さんは、教室(きょうしつ)前方(ぜんぽう)(ゆび)さした。
 その(ゆび)(さき)には時計(とけい)があって、その(はり)昼休(ひるやす)みの()わりが(ちか)いことを(しめ)していた。

(いま)()ってもどうしようもないよ」
「……そっか」
()くなら放課後(ほうかご)()って、色々(いろいろ)()いてもらいなよ」
「うん。そうする」

 (ぼく)たちは(せき)(もど)った。
 (ぼく)たちが大園(おおぞの)先輩(せんぱい)(なに)(はな)しているのを、佐藤(さとう)さんは、(せき)に座ったまま()いていた。
 (ぼく)たちが(せき)(もど)ると、佐藤(さとう)さんは何があったのか説明(せつめい)(もと)めた。

「あの(ひと)、タロちゃんの委員会(いいんかい)先輩(せんぱい)だよね」
「うん。大園(おおぞの)まりあ先輩(せんぱい)

 (ぼく)大園(おおぞの)先輩(せんぱい)名前(なまえ)()すと、佐藤(さとう)さんは、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)のことを(おも)()すように、人差(ひとさ)(ゆび)()(はじ)めた。

「ちっこくてかわいい先輩(せんぱい)だよね」
「でも、立派(りっぱ)先輩(せんぱい)だよ」
「そうなんだ」
「うん。委員会(いいんかい)仕事(しごと)をこなしながら、ちゃんと部活動(ぶかつどう)もしてるんだよ」
何部(なにぶ)なの?」
演劇部(えんげきぶ)だって」
「えー、ウチの演劇部(えんげきぶ)って、結構(けっこう)(いそが)しくて有名(ゆうめい)なのに、すごいにゃあ」
最近(さいきん)は、委員会(いいんかい)(ほう)(いそが)しくて、()けてないらしいけど、ちゃんと演者(えんじゃ)としての練習(れんしゅう)もしてるみたいだよ」
「ほんとに、すごいにゃあ」
(わたし)たちとは(ちが)うね」

 川上(かわかみ)さんがそう()った。
 その()(かた)は、やけにキッパリとしていた。
 だから、そうだねー、と佐藤(さとう)さんが()うと、(ぼく)たちは(わら)った。

「それにしても、そんな多忙(たぼう)先輩(せんぱい)(なん)用事(ようじ)だったの?」

 と、佐藤(さとう)さんが(たず)ねてくる。
 けど、(おも)(かえ)してみると、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)がなぜ(ぼく)たちのクラスに()たのか、その理由(りゆう)()いていないことに()づいた。

「そう()えばなんだったんだろう」
「それも放課後(ほうかご)()きに()くしかないね」

 川上(かわかみ)さんは、(うで)()みながら、そう()った。

「さっきの誤解(ごかい)()かなきゃいけないし、やっぱり、放課後(ほうかご)()いに()かないとね」
「うん」

 と、(ぼく)(こた)えた。
 その(とき)教室(きょうしつ)隙間風(すきまかぜ)()いてきた。
 キューッという甲高(かんだか)(おと)がなった。
 (だれ)かが、(まど)(はん)(びら)きにしてしまっていたらしい。
 (おと)()ると、また(だれ)かが()づいて(まど)()めた。
 ふと(まど)(そと)()ると、(あき)(かぜ)(つよ)いみたいで、(くも)(なが)れが(はや)かった。

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登場人物紹介

峯村太朗


主人公。

村口さんに告白したが失敗。

絵を描くのが得意。

川上瑠美


峯村を慰める、心優しい女子。

若干ギャルだが、根は真面目。

佐藤春美


峯村を慰める、心優しい女子2。

お気楽な性格は、ネガティブな本心の裏返し。

大園まりあ


峯村が所属する整美委員会の委員長。

背は低いけど、元気はいっぱい!

木戸口奈緒


中途半端な時期にやってきた転校生。

よく他の人に間違われる。

村口美音子


峯村の告白を断り、物語の始まりのきっかけを作った。

今はもう転校してしまった。

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