第10話

文字数 1,411文字

 また、翌日(よくじつ)
 (ぼく)川上(かわかみ)さんは、HR(ホームルーム)(まえ)()だるげな教室(きょうしつ)でぼーっとしていた。
 すると、川上(かわかみ)さんが、昨日(きのう)(はなし)唐突(とうとつ)(はじ)めた。

昨日(きのう)のさ、木戸口(きどぐち)さんの(はなし)なんだけどさ」
「どうかしたの?」
(わたし)さ、(かえ)ってからも(かんが)えたんだけど」
「うん」
木戸口(きどぐち)さんは、(わたし)たちの錯覚(さっかく)(うつ)ってるのかなって」
錯覚(さっかく)?」
「うん。(わたし)たちが、()k――いや(ちが)う……」
「うん?」
「……その(とき)(おも)()かべてる(ひと)っていうとわかりにくいかもしれないけど、(わたし)たちの心理(しんり)とか脳内(のうない)とかが、木戸口(きどぐち)さんの外見(がいけん)反映(はんえい)されるんじゃないのかな」

 (ぼく)は、川上(かわかみ)さんの()うことを、ゆっくりと反芻(はんすう)した。
 ――となると、(ぼく)木戸口(きどぐち)さんにあった(とき)は、村口(むらぐち)さんにフラれた(あと)だったから、木戸口(きどぐち)さんが村口(むらぐち)さんに()えてしまったという(こと)らしい。
 だとすれば……。

「じゃあ、どうして、川上(かわかみ)さんたちは、(ぼく)()えたんだろう」
「それは……(ちか)くに峯村(みねむら)がいたからじゃない?」

 川上(かわかみ)さんはやたらと、(ぼく)()()てくる。
 (ぼく)は、あまりにもじっと()つめられるから、目線(めせん)(はず)した。

「そっか」

 と、(ぼく)(こた)えると、会話(かいわ)(いと)がプツンと()れてしまい、沈黙(ちんもく)()占拠(せんきょ)した。
 (だま)ったまま川上(かわかみ)さんの(ほう)()いているのも、()まずさに(さお)さしている。
 だから、沈黙(ちんもく)から()げるように、(ぼく)(かんが)(ごと)(はじ)めた。
 川上(かわかみ)さんの意見(いけん)は、あっているような()もするし、(ちが)うような()もする。
 ――(まえ)にも、こんな感想(かんそう)()った()がした。
 もともと根拠(こんきょ)のないことだから、ああだこうだ()っても仕方(しかた)ない。
 でも、なんとなく()になってしまう。
 どうして(ぼく)木戸口(きどぐち)さんに村口(むらぐち)さんを()て、川上(かわかみ)さんたちは木戸口(きどぐち)さんに(ぼく)()たのか……。
 思考(しこう)坩堝(るつぼ)(ころ)()んだ(とき)
 (となり)から()きなれた、周波数(しゅうはすう)(たか)(こえ)

「おはよー、タロちゃん、()()―」
「おはよう、春奈(はるな)

 佐藤(さとう)さんは、そのままカバンを()げるように(つくえ)()いて、(ぼく)たちの会話(かいわ)参加(さんか)する。

(なに)(はなし)?」
(いま)木戸口(きどぐち)さんについて(かんが)えたんだ」

 と、(ぼく)(こた)える。
 すると、佐藤(さとう)さんは(あきれ)れたように、両手(りょうて)(たいら)(うえ)()け、(くび)()った。
 英語圏(えいごけん)(ひと)がするボディランゲージだ。
 そんな(おお)げさな表現(ひょうげん)(あと)に、佐藤(さとう)さんは(もっと)もなことを()()した。

二人(ふたり)ともさぁ、そんなに(かんが)えなくてもよくない? 昨日(きのう)さ、木戸口(きどぐち)さん(いや)そうだったじゃん?」

 (たし)かに、木戸口(きどぐち)さんは積極的(せっきょくてき)ではなかった。
 でも、佐藤(さとう)さんも、木戸口(きどぐち)さんに質問(しつもん)をしていたのに……。
春奈(はるな)もノリノリだったじゃん」

 と、(おも)(かえ)していると、川上(かわかみ)さんが佐藤(さとう)さんにやんわりと()(かえ)す。
 けれど、佐藤(さとう)さんは()にしない様子(ようす)だ。

「それは、どんな(かん)じなのか()きたかっただけなのだよー」

 と、佐藤(さとう)さんはお道化(どけ)ながら(かえ)す。

(わたし)たちもそうだった」
(ちが)うよぉ。春奈(はるな)はほんとのことなんて(べつ)にどうでもいいのだー」
「なんで?」
春奈(はるな)()になったのはねぇ、タロちゃんが()ってることが、ほんとなのか()になっただけだのだー」
(わたし)だってそうだってば!」
(ちが)いますー!」
「あぁ?」

 ナメた態度(たいど)佐藤(さとう)さんに(たい)して、川上(かわかみ)さんがピキリと青筋(あおすじ)をたてる。
 (あお)りに(よわ)いのが、川上(かわかみ)さんの弱点(じゃくてん)だ。

「まあまあ」

 (ぼく)(あいだ)(はい)ることで、(なん)とか川上(かわかみ)爆弾(ばくだん)暴発(ぼうはつ)()けられた。
 と、その(とき)

峯村(みねむら)くーん。日直(にっちょく)仕事(しごと)手伝(てつだ)って(もら)っていいー?」

 (こえ)教室(きょうしつ)前方(ぜんぽう)から()けられた。
 (こえ)(ぬし)は、日直(にっちょく)相方(あいかた)(おんな)()だ。
 (ぼく)今日(きょう)日直(にっちょく)だった。

「ごめん、ちょっと()ってくる」

 とだけ()(のこ)して、(ぼく)()ばれた(ほう)()った。
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登場人物紹介

峯村太朗


主人公。

村口さんに告白したが失敗。

絵を描くのが得意。

川上瑠美


峯村を慰める、心優しい女子。

若干ギャルだが、根は真面目。

佐藤春美


峯村を慰める、心優しい女子2。

お気楽な性格は、ネガティブな本心の裏返し。

大園まりあ


峯村が所属する整美委員会の委員長。

背は低いけど、元気はいっぱい!

木戸口奈緒


中途半端な時期にやってきた転校生。

よく他の人に間違われる。

村口美音子


峯村の告白を断り、物語の始まりのきっかけを作った。

今はもう転校してしまった。

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