第16話

文字数 1,481文字

 (ぼく)(もど)ってきたとき、みんなの(あいだ)には微妙(びみょう)空気(くうき)(なが)れていた。

「どうしたの?」
「なんでもないよー。ささ! 早速(さっそく)()(はじ)めましょうぞ!」
「え? あ、うん」

 佐藤(さとう)さんに(うなが)されるまま、(ぼく)は、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)用意(ようい)してくれたカンバスの(まえ)(すわ)る。
 すると、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)(あわ)ただしく部屋(へや)()ていく。

「ごめんね! わたし委員会(いいんかい)仕事(しごと)があって!」
先輩(せんぱい)準備(じゅんび)ありがとうございました」
「いいよー! 今度(こんど)(なに)かおごってね!」
学食(がくしょく)でいいですか」
「やだ! カフェで!」
「……(かんが)えときますね」
「よろしくね!」

 そう()って、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、バタバタと足音(あしおと)をさせながら、教室(きょうしつ)から()ていった。
 (ぼく)はその足音(あしおと)()こえなくなってから、木戸口(きどぐち)さんの(ほう)()(なお)った。

「じゃあ(はじ)めるね」
「は、はい」

 そう()って木戸口(きどぐち)さんは、(すわ)姿勢(しせい)(ただ)した。
 けれど、(くび)()(みょう)(かたむ)いている。
 緊張(きんちょう)しているのか、木戸口(きどぐち)さんは(ゆか)()ていた。
 (すこ)()がかりだったけど、(ぼく)()にせず()(はじ)めることにした。
 最初(さいしょ)はゆっくりと、手探(てさぐ)りをするように(せん)()いてゆく。
 自分(じぶん)(なか)(さぐ)るように、(せん)()いてゆく。
 ()いては()し、()してしまっては()(なお)す。
 ()(はじ)めは、川上(かわかみ)さんたちに()られているのが、()になっていた。
 けれど、そのうちに川上(かわかみ)さんたちが、(ぼく)(まわ)りにいるのも(わす)れてしまうほどに、(ぼく)集中(しゅうちゅう)(はじ)めた。
 そして、あらかた方向性(ほうこうせい)()まって、(ふで)()れようとした(とき)
 川上(かわかみ)さんが、(ひさ)しぶりに(こえ)()した。

(わたし)(かえ)る」

 室内(しつない)全員(ぜんいん)視線(しせん)が、川上(かわかみ)さんに(あつ)まる。
 (ぼく)は、そっかとも、じゃあねとも()わないで、(なん)()えばいいのか(まよ)っていた。
 すると、佐藤(さとう)さんが川上(かわかみ)さんに、なにかを()(はじ)めた。

「もういいの?」
「うん」
「どうだった?」
「やっぱり、(わたし)間違(まちが)えてないと(おも)う」
()えたんだね」
「うん」
「そっか」

 すると、佐藤(さとう)さんも川上(かわかみ)さんと(おな)じように(かえ)ると()(はじ)めた。

「じゃあ、あたしも帰るー」
「いいの?」
「のめり()まないだけで、春奈(はるな)()()(おな)じなのさー」
「そっか」

 そう()って二人(ふたり)は、二人(ふたり)(あいだ)だけで(なっ)(とく)したらしい。
 そして二人(ふたり)ともカバンを()って、部屋(へや)から()ていこうとする。

「それじゃねー」
頑張(がんば)ってね、峯村(みねむら)

 最後(さいご)川上(かわかみ)さんが、木戸口(きどぐち)さんにこう()った。

()()るのは、自由(じゆう)だよ。(こわ)くないことだから」
「……わかりました」

 (ぼく)には(なに)()からない。
 けれど、木戸口(きどぐち)さんには(なに)かが(つた)わったようだった。
 ガラガラと(とびら)()まり、(ぼく)木戸口(きどぐち)さんだけが教室(きょうしつ)(のこ)された。

(つづ)けるね」
「はい」

 それからはお(たが)いに無言(むごん)だった。
 (ふで)水彩紙(すいさいし)(うえ)(はし)(おと)だけが心地(ここち)よく(ひび)く。
 そして()が7(わり)ほど完成(かんせい)した(ころ)
 木戸口(きどぐち)さんが沈黙(ちんもく)(やぶ)って、(くち)(ひら)いた。

「……(ことわ)りました、告白(こくはく)
「……そうなんだ」
(こわ)かったですけど、ちゃんとしなきゃと(おも)って」
「……すごいよ」

 (ぼく)は、(くち)(うご)かしながら(ふで)()()えて、木戸口(きどぐち)さんの(ほう)()た。
 (いま)まで(ぼく)足元(あしもと)彷徨(さまよ)っていた()(せん)が、一直線(いっちょくせん)(ぼく)()つめていた。
 木戸口(きどぐち)さんの()(あか)()が、(ぼく)()つめていた。

「どうしたの?」
「いや、なんでも、ないです」

 木戸口(きどぐち)さんはそう()ったっきり、また()(せん)彷徨(さまよ)わせる。
 それからまた無言(むごん)時間(じかん)(つづ)いた。
 ()()(はじ)めて、もう(ひかり)()しでは()くことが出来(でき)ないほど薄暗(うすぐら)(ころ)
 そんな時間(じかん)に、やっと()完成(かんせい)した。

出来(でき)た……」

 (ぼく)がそう()うと、木戸口(きどぐち)さんはダラリと姿勢(しせい)(くず)した。

「ずっと(おな)姿勢(しせい)ってやっぱり(つか)れるんですね」
姿勢(しせい)なんて、()えてもよかったのに」
「え? でも()くなら……」

 そう()って、木戸口(きどぐち)さんが()()がり、(ぼく)()(のぞ)()む。

「……なんですか、これ?」
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登場人物紹介

峯村太朗


主人公。

村口さんに告白したが失敗。

絵を描くのが得意。

川上瑠美


峯村を慰める、心優しい女子。

若干ギャルだが、根は真面目。

佐藤春美


峯村を慰める、心優しい女子2。

お気楽な性格は、ネガティブな本心の裏返し。

大園まりあ


峯村が所属する整美委員会の委員長。

背は低いけど、元気はいっぱい!

木戸口奈緒


中途半端な時期にやってきた転校生。

よく他の人に間違われる。

村口美音子


峯村の告白を断り、物語の始まりのきっかけを作った。

今はもう転校してしまった。

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