第12話

文字数 1,717文字

「じゃあ、お(ねが)い!」
「うん。それじゃあ、板書(ばんしょ)はお(ねが)い」
「わかった~」

 日直(にっちょく)相方(あいかた)板書(ばんしょ)(たく)して、(ぼく)はゴミ(ぶくろ)()って教室(きょうしつ)()た。
 ()かうのは、体育館(たいいくかん)(うら)にあるゴミ()()だ。
 本当(ほんとう)は、昨日(きのう)日直(にっちょく)()てておくべきなんだけど、()(わす)れてしまったらしい。
 昨日(きのう)のゴミがずっと教室(きょうしつ)(すみ)()いてあるのは、なんとなく気分(きぶん)(わる)いということで、(ぼく)()てに()くことにした。
 ゴミは(あさ)回収(かいしゅう)されるから、(ぼく)はゴミ()()ヘと(いそ)いでいる。
 校舎(こうしゃ)()て、体育館(たいいくかん)()かう。
 そしてその(うら)のゴミ()()に――と、体育館(たいいくかん)()がり(かど)()がろうとした(とき)
 体育館(たいいくかん)(うら)(だれ)かがいることに()がついた。
 (ぼく)(おも)わず、(かく)れてしまった。
 体育館(たいいくかん)(かど)背中(せなか)をぴったりとつけて、(みみ)をそばだてて、様子(ようす)をうかがう。

木戸口(きどぐち)さんって……に……てるよね」
(べつ)に……、そうじゃ……です」
「でも……てる、そっくり」
(いろ)んな(ひと)に、……って……われます」
(おれ)友達(ともだち)も……、……って」
「……そうですか」

 体育館(たいいくかん)(うら)にいるのは木戸口(きどぐち)さんだ。
 (ぼく)はそのことを察知(さっち)すると、なぜかドクンと心臓(しんぞう)()ねて、血液(けつえき)活発(かっぱつ)(はこ)びだそうとし(はじ)めた。
 木戸口(きどぐち)さんは、(だれ)(おとこ)といるらしい。
 それがわかると、二人(ふたり)会話(かいわ)がより()になった。

「マジ、木戸口(きどぐち)さん()てるよ、アイドルの下関(しものせき)ゆまに」
「アイドルですか……?」

?」
()われない、です。自分がアイドルなんて……」

 より集中(しゅうちゅう)して(はなし)(ぬす)()きしようとすると、鮮明(せんめい)会話(かいわ)()こえてくる。

「そのさ、自分(じぶん)って()うのなんなん?」
「え?」
普通(ふつう)は、(おんな)()自分(じぶん)って、ゆわんくね?」
「ああ……、そうですね」
「じゃあ、なんでなん?」

 (たし)かにそうだ。
 木戸口(きどぐち)さんの一人称(いちにんしょう)が自分なのは、木戸口(きどぐち)さんの()()にも性格(せいかく)にも、()っているようには(おも)えない。
 と()っても、(ぼく)から()木戸口(きどぐち)さんは村口(むらぐち)さんに()ているから、本当(ほんとう)木戸口(きどぐち)さんはどんな(ふう)なのかはわからないけど。
 でも、とにかく、()っていない()がした。
 二人(ふたり)会話(かいわ)は、(おとこ)7:木戸口(きどぐち)さん3の配分(はいぶん)(すす)む。

「わかりません。でも、自分(じぶん)って()うのは大事(だいじ)()がして」
「そうなんや。でも、ギャップがいいんじゃない。なんかキャラが立ってていいってか、面白(おもしろ)いし」
「……そうですか」

 そう木戸口(きどぐち)さんが(こた)えてから、ほんの一瞬(いっしゅん)だけ、(みょう)()があった。
 (ぼく)()になって、その一瞬(いっしゅん)使(つか)って、体育館(たいいくかん)(かど)から(かお)()して、二人(ふたり)様子(ようす)垣間見(かいまみ)る。
 それから(おとこ)がとある提案(ていあん)()()けた。

「でさ、もしよかったら()()わない?」
「……(なに)にですか?」

 ()()した(おとこ)はもう(もど)ることはできない。
 (おとこ)(くち)から桃色(ももいろ)吐息(といき)(こぼ)している。
 その(のう)(しょく)()(うご)(せん)となって、木戸口(きどぐち)さんへと()(すす)む。

(おれ)()()ってくれない?」

 (おとこ)提案(ていあん)には傲慢(ごうまん)があった。
 (こえ)調子(ちょうし)から言葉(ことば)(おも)みを(かん)じなかった。

「……え?」

 やっと、(おとこ)()意味(いみ)()づいた木戸口(きどぐち)さんは、ありえないという(ふう)に、()(くち)()てる。
 その(あし)(ふる)えていた。
 木戸口(きどぐち)さんは明確(めいかく)(おび)えていた。

「どう?」

 そう()(おとこ)は、品定(しなさだ)めしているかのような、ベタついて(いと)でも()きそうな()(せん)

「……ちょっと、いまは、その」

 木戸口(きどぐち)さんはそう(のが)れる。
 (くる)(まぎ)れだ。
 でも、()げの口実(こうじつ)には十分(じゅうぶん)だ。

「そっか。じゃあ、いつまで()てばいい?」
「えっと……」
「じゃあ、来週(らいしゅう)までには、(こた)えを(おし)えて?」
「……はい」

 (おとこ)はもっと上手(うわて)だった。
 木戸口(きどぐち)さんは来週(らいしゅう)までに(こた)えを()さなければならない。
 そうなれば、自然(しぜん)と、木戸口(きどぐち)さんが(おとこ)について(かんが)える時間(じかん)()える。
 そう()()って、(おとこ)用事(ようじ)()んだらしい。

「じゃあね。また、来週(らいしゅう)、ここで」

 (おとこ)はどんどんこっちへ()かってくる。
 やばい!
 (ぼく)はとっさに体育館(たいいくかん)()(ぐち)へと()()いた。
 そこは(すこ)(くぼ)みになっていた。
 ここならバレないかもしれない。
 (ぼく)(いき)をひそめる。
 (おとこ)(かど)から()てきた。
 (おとこ)軽薄(けいはく)さが顔面(がんめん)()()ていた。
 瞬間(しゅんかん)感覚(かんかく)でしか()きていない(かお)つきだった。
 (おとこ)(ぼく)()づかずに校舎(こうしゃ)(ほう)へと、()をポケットに()()んだまま、小走(こばし)りで()っていった。
 (ぼく)はほっと、(いき)()いた。
 そして、(おとこ)()てきた体育館(たいいくかん)(うら)へと(いそ)ぐ。
 そこでは、木戸口(きどぐち)さんが、(ひざ)(かか)えて()いていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

峯村太朗


主人公。

村口さんに告白したが失敗。

絵を描くのが得意。

川上瑠美


峯村を慰める、心優しい女子。

若干ギャルだが、根は真面目。

佐藤春美


峯村を慰める、心優しい女子2。

お気楽な性格は、ネガティブな本心の裏返し。

大園まりあ


峯村が所属する整美委員会の委員長。

背は低いけど、元気はいっぱい!

木戸口奈緒


中途半端な時期にやってきた転校生。

よく他の人に間違われる。

村口美音子


峯村の告白を断り、物語の始まりのきっかけを作った。

今はもう転校してしまった。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み