第8話

文字数 1,870文字

 その()昼休(ひるやす)み。
 (ぼく)たちは、木戸口(きどぐち)さんのクラスに()った。
 木戸口(きどぐち)さん()るためだけに。
 けれど、木戸口(きどぐち)さんは、(おな)じく野次馬(やじうま)(かこ)まれていて、とても(はな)せる状況(じょうきょう)ではなかった。
 なので、一旦(いったん)大園(おおぞの)先輩(せんぱい)に、昨日(きのう)(はなし)()きに()くことになった。
 そして、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)のいる二年生(にねんせい)教室(きょうしつ)()いた。

「おー! みんな(そろ)ってどうしたの? 川上(かわかみ)ちゃんは今日(きょう)もおっきいねー」
「まりあ先輩(せんぱい)も、今日(きょう)もかわいいですよ」

 と、川上(かわかみ)さんと先輩(せんぱい)恒例(こうれい)会話(かいわ)()わしている。

「せんぱーい。()きたいことがあるんですけどいいですかぁ?」
「えっと?」

 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、佐藤(さとう)さんとは初対面(しょたいめん)だから、(こま)った(かお)をしている。

佐藤春奈(さとうはるな)ですっ」
春奈(はるな)ちゃんね!」

 二人(ふたり)(あいだ)で、(はげ)しいボディランゲージを(ともな)った、初対面(しょたいめん)挨拶(あいさつ)()わされた。
 ……(いま)一瞬(いっしゅん)で、二人(ふたり)(つう)()ったらしい。

「で、春奈(はるな)ちゃん! どうしたの?」
「タロちゃんに()いたんですけど、タロちゃんに()転校生(てんこうせい)()たってほんとですか?」

 先輩(せんぱい)一瞬(いっしゅん)(かんが)える素振(そぶ)りをしてから、(こた)える。

「うん! 木戸口(きどぐち)()()ちゃん!」
「その()って、どこがタロちゃんに()てるって(おも)ったんですか?」
「タロちゃん?」
峯村(みねむら)太郎(たろう)(りゃく)してタロちゃん」
「ああ! 峯村(みねむら)クンのことなんだね!」

 先輩(せんぱい)左手(ひだりて)(ひら)を、右手(みぎて)(こぶし)(たた)いて、納得(なっとく)した様子(ようす)だ。

「どこが()てたんですかぁ?」
「それがねぇ、よくわからないんだよね! でも()てたの!」

 佐藤(さとう)さんは、これは(はなし)にならないという表情(ひょうじょう)を、(ぼく)川上(かわかみ)さんだけに()える角度(かくど)でしている。

()いて()えば、どこですか?」

 と、川上(かわかみ)さんが援護(えんご)をする。
 すると、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、しばしの(あいだ)をおいてから(こた)えた。

「うーん、(はな)かな? うん! (はな)がどことなく()てる()がする」
「どう?」

 今度(こんど)は、川上(かわかみ)さんが(ぼく)(かお)()る。
 (ぼく)は、頑張(がんば)って村口(むらぐち)さんの(かお)(おも)()そうとする。
 けれど、記憶(きおく)(なか)村口(むらぐち)さんの(はな)は、(けっ)して(ぼく)()ていない。
 村口(むらぐち)さんの(はな)は、(たか)くはないが、(つぶ)れていなかった。
 (ちい)さな鼻頭(はながしら)に、綺麗(きれい)鼻筋(はなすじ)(かよ)った(はな)だった。
 (ぼく)はそんなに綺麗(きれい)鼻筋(はなすじ)をしていない。
 (ぼく)は、(だま)って(くび)()って、否定(ひてい)()(しめ)した。
 川上(かわかみ)さんと佐藤(さとう)さんは、それを()て、またも不思議(ふしぎ)そうな表情(ひょうじょう)()かべる。
 そうして(ぼく)たちが、思案(しあん)(がお)をしていると、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)(はな)()した。

「でもさ、峯村(みねむら)クンとあたしの()ってることが(ちが)うのって、そんなにおかしいこと?」
「え?」

 (ぼく)たちは、(かんが)えていたことを(ほう)()して、先輩(せんぱい)(ほう)()いた。

「あたし(おも)ったんだけどね。()(なか)には()てる(ひと)三人(さんにん)はいるっていうでしょ? それが、たまたま(かさ)なったんじゃないかな?」
「どういうことですか?」

 川上(かわかみ)さんが(たず)ねる。
 先輩(せんぱい)は、自分(じぶん)(かんが)えていることを(つた)えようと、(こころ)(はじ)めた。

「えっとね、世界(せかい)には、自分(じぶん)()てる(ひと)が3(にん)は、いるって()うよね」
()いますね」
「という(こと)は、峯村(みねむら)クンと村口(むらぐち)さんにも、それぞれ()てる(ひと)が3(にん)いるんだよね」

 川上(かわかみ)さんは(だま)って、(はなし)()いている。
 大園(おおぞの)先輩(せんぱい)はまだ説明(せつめい)(つづ)ける。

「だから、峯村(みねむら)クンと村口(むらぐち)さんに()てる(ひと)が、たまたま一緒(いっしょ)になっちゃったんじゃないかなって」
「なるほど」

 つまり、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)()いたいことは、こうだ。

 世界(せかい)には(ぼく)()(にん)が3(にん)いるとする。


 (ぼく)をAとしたとき、(ぼく)()ている(ひと)たちはA‘になる。
 つまり、()(なか)にはA’が(すく)なくとも3(にん)いるということになる。


 一方(いっぽう)、それは村口(むらぐち)さんにも()える。
 だから、村口(むらぐち)さんをBとすれば、村口(むらぐち)さんに()(ひと)はB‘となるわけだ。


 で、ここからが、大園(おおぞの)先輩(せんぱい)仮説(かせつ)だ。
 先輩(せんぱい)はそのA‘とB’の(ひと)(なか)に、(ぼく)にも()ていて、かつ、村口(むらぐち)さんにも()ている(ひと)
 つまり、A‘かつB’の(ひと)がいるのではないかと()っているのだった。


 なんだか、血液型(けつえきがた)(はなし)みたいだけど、可能性(かのうせい)としてはありえない(はなし)だった。
 ……可能性(かのうせい)としては。

「まあ理論(りろん)としては、おかしくはないですけど……」

 と川上(かわかみ)さんは、(ぼく)(おな)じく、一応(いちおう)(なっ)(とく)をしたらしい。

「そんなことがあったら(すご)いことですね」
「それは都合(つごう)がよすぎるにゃぁ」

 (つづ)いて、(ぼく)佐藤(さとう)さんも曖昧(あいまい)反応(はんのう)
 それを()大園(おおぞの)先輩(せんぱい)は、(こし)()()てて自信満々(じしんまんまん)に、()った。

「そう()うことがあってもいいんじゃないかな? 現実(げんじつ)小説(しょうせつ)よりも()なり! ってね!」
「「「う~~~~ん」」」
「あ、あれぇ?」

 結局(けっきょく)(ぼく)らは、理解(りかい)はできるけど納得(なっとく)出来(でき)ないままで、(ひる)(やす)みを()えた。
 そして昼休(ひるやす)みの()わりを()げるチャイムが()った(とき)
 川上(かわかみ)さんが、(ぼく)(ほう)()(かえ)って、

「やっぱさ、ありえなくない?」

 と()った。
 (ぼく)同意見(どういけん)だった。

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登場人物紹介

峯村太朗


主人公。

村口さんに告白したが失敗。

絵を描くのが得意。

川上瑠美


峯村を慰める、心優しい女子。

若干ギャルだが、根は真面目。

佐藤春美


峯村を慰める、心優しい女子2。

お気楽な性格は、ネガティブな本心の裏返し。

大園まりあ


峯村が所属する整美委員会の委員長。

背は低いけど、元気はいっぱい!

木戸口奈緒


中途半端な時期にやってきた転校生。

よく他の人に間違われる。

村口美音子


峯村の告白を断り、物語の始まりのきっかけを作った。

今はもう転校してしまった。

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