第13話

文字数 1,993文字

「……木戸口(きどぐち)さん」
「……?」

 木戸口(きどぐち)さんが、(なみだ)(そで)(ぬぐ)いながら、こちらを()いた。

峯村(みねむら)さん……?」
「……ごめん。ゴミ()てに()たら二人(ふたり)がいて。……全部(ぜんぶ)()いちゃった。
「……そうでしたか」
大丈夫(だいじょうぶ)?」

 (ぼく)は、ゴミを体育館(たいいくかん)(うら)(おく)にあるゴミ()()においてから、木戸口(きどぐち)さんの(そば)()った。

「……(すこ)し、(こわ)くて」
「そっか」
「…………自分(じぶん)って、なんなんでしょう」
「どういうこと?」
自分(じぶん)はいつも(だれ)かの()わりで……自分(じぶん)って、身代(みが)わりの人形(にんぎょう)みたいなもの、なんでしょうか」

 そんなことないよ。
 と、()えなかった。
 なぜなら、(ぼく)木戸口(きどぐち)さんに村口(むらぐち)さんを()ていたから。

「なんでなんだろうって(おも)ったんです」

 (ぼく)無言(むごん)のままだ。
 けど、木戸口(きどぐち)さんは(ひと)りごちる。

自分(じぶん)(むかし)から、(ひと)(きら)われるのが(こわ)くて、それで(きら)われないように、相手(あいて)(もと)める反応(はんのう)をするようになったんです。そしたら、いつの()にか、相手(あいて)(もと)めている(ひと)になりきろうとしちゃって。……そしたら、()てる、って()われるようになって」

 (ぼく)(だま)って、木戸口(きどぐち)さんの(はなし)()いている。
 (ぼく)にできることは同意(どうい)しかなかった。

自分(じぶん)、もう駄目(だめ)かもしれないです。自分(じぶん)があまりにも空虚(くうきょ)で。自分(じぶん)がないからこんなことになっちゃうのかなって。だから、自分(じぶん)はいつも(だれ)かの身代(みが)わりでしかなくて」
「……」
自分(じぶん)もう駄目(だめ)かもしれないです」

 そうして(ひざ)(かか)えて、木戸口(きどぐち)さんはまた()(はじ)めた。
 (ぼく)()っていて、木戸口(きどぐち)さんはうずくまっている。
 だから、木戸口(きどぐち)さんのつむじが()えている状態(じょうたい)だ。
 木戸口(きどぐち)さんが()きじゃくるたびに、(かみ)がさらさらと()れる。
 まるで、波紋(はもん)のように()れている。
 その様子(ようす)(ぼく)には綺麗(きれい)()えた。
 (ぼく)(だま)って木戸口(きどぐち)さんを見ている。
 しばらく()ってから、木戸口(きどぐち)さんが()()み、()()がった。

「……ごめんなさい」
全然(ぜんぜん)だよ」

 木戸口(きどぐち)さんが()れた()で、(ぼく)()た。
 ()充血(じゅうけつ)していて、白目(しろめ)(あか)()まっていた。
 (ひとみ)深紅(しんく)(ぼく)姿(すがた)反射(はんしゃ)している。
 それを()(ぼく)は、()かなきゃならないと(おも)った。

「ねえ、木戸口(きどぐち)さん」
「……はい」
「もしよかったら、木戸口(きどぐち)さんの()()いてもいいかな?」
「……()?」
木戸口(きどぐち)さんを(なぐさ)めたいんだよ。
 ……(なぐさ)めるって()うと(うえ)から目線(めせん)みたいだけど、でも、そう(おも)ったんだよ。
 でも、(ぼく)(こと)()上手(じょうず)じゃないから……。
 でも、()()くのはちょっとだけ自信(じしん)があって……。
 だから……その、よかったら()かせてほしい」
「……よく、わかりません」

 ()ってしまってから(おも)(かえ)すと、(けっ)して(いま)()うべき言葉(ことば)じゃなかったかもしれない。
 体育館(たいいくかん)(うら)()いている(おんな)()(まえ)にしながらの言葉(ことば)としては、この()(もっと)不適切(ふてきせつ)だと(おも)った。
 でも、(ぼく)出来(でき)ることは、それだけだと(おも)った。
 (ぼく)には、()くことしか、できない。

「そう、だよね。(きゅう)()っても(こま)るよね。(ぼく)素人(しろうと)だし。それにじろじろ()られるのは(こわ)いよね」
「……」

 木戸口(きどぐち)さんは(うで)()んで、かがんだ状態(じょうたい)()をすくめている。

「ごめんね。(きゅう)だったよね」
「……」

 それから、(ぼく)()(わけ)のような昔話(むかしばなし)(はじ)めた。

(むかし)ね、川上(かわかみ)さん――あ、昨日(きのう)木戸口(きどぐち)さんに()いに()った(とき)にいた、()(たか)(おんな)()だよ。
 でね、川上(かわかみ)さんが、学校(がっこう)をずっと(やす)んでた(とき)があったんだ。それで、(ぼく)はたまたま道端(みちばた)()いている川上(かわかみ)さんと()ったことがあったんだ」
「……」
「その(とき)川上(かわかみ)さんが()いてる(とき)(おも)ったんだ。なんとかしなきゃって」
「……」
「それで、川上(かわかみ)さんの()()かせてもらったんだ。そしたらね、川上(かわかみ)さんが(よろこ)んでくれて、(いま)みたいに仲良(なかよ)くなれたんだ」
「……そう、ですか」
「でね、(おな)じようにして大園(おおぞの)先輩(せんぱい)とも、佐藤(さとう)さんとも、仲良(なかよ)くなったんだ」
「……」
「だから、木戸口(きどぐち)さんの()()きたいと(おも)ったんだ」
「……自分(じぶん)()いてるからですか」
(ちが)うよ。ただ――」
「ただ?」
()いてる(ひと)(ほう)っておけないから、かな」
「……」

 それでも木戸口(きどぐち)さんは(だま)っている。
 (ぼく)はそれを拒否(きょひ)()()った。
 それじゃあ、と()って()()ろうとした(とき)
 (ぼく)木戸口(きどぐち)さんに()()められた。

「……()ってください」

 (ぼく)()(かえ)った。

「どうすればいいですか?」
「え?」
自分(じぶん)()いて()しいです、峯村(みねむら)さんに、自分(じぶん)()
「……いいの?」
「お(ねが)いします」

 そう()って木戸口(きどぐち)さんは、両手(りょうて)(ひざ)(まえ)にして(れい)をした。
 木戸口(きどぐち)さんが(かお)()げる。

「ただ、(ひと)()きたいことがあるんです」
「なに?」
「どうして峯村(みねむら)さんは、(ひと)のために()きるんですか?」
「いや、(べつ)に――」

 と()おうとした(とき)


 ――「あなたは、自分(じぶん)のために()きるべき」


 そんな言葉(ことば)脳内(のうない)()()まされた。
 (いま)はもう、どこかに()ってしまった(ひと)(こえ)
 (ぼく)はその言葉(ことば)()われた(とき)は、(なに)()えなかった。
 けれど、(いま)(こた)えを()すことができた。

(ぼく)(ひと)のためになんか()きてないよ。(ぼく)自分(じぶん)()きたいから()くんだ。自分(じぶん)()くために、(ぼく)()きてるんだ」
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登場人物紹介

峯村太朗


主人公。

村口さんに告白したが失敗。

絵を描くのが得意。

川上瑠美


峯村を慰める、心優しい女子。

若干ギャルだが、根は真面目。

佐藤春美


峯村を慰める、心優しい女子2。

お気楽な性格は、ネガティブな本心の裏返し。

大園まりあ


峯村が所属する整美委員会の委員長。

背は低いけど、元気はいっぱい!

木戸口奈緒


中途半端な時期にやってきた転校生。

よく他の人に間違われる。

村口美音子


峯村の告白を断り、物語の始まりのきっかけを作った。

今はもう転校してしまった。

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