第12話

文字数 231文字

 それから樹が、どこか懐かしい歌を口ずさんだり、独り言のように何かを呟いたりしていた。耳には入っていたけれど、微睡んだ脳には入ってこなかった。うん、とか、そうだね、とか、相槌だけを返す。
 瞼の裏では、ふわふわした現実味のない景色が、露で湿った草の上で秘密の話をして、それから、大きな恐竜の化石を見て。ふたつの糸を結んでも結んでも結び目が消えない、と笑って。でも、そのほうがかっこいいよ、とまた笑って。何度でも結び直して。
 そのうちに僕は、眠りに落ちていた。
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