第23話

文字数 626文字

多くの子供たちは過激派集団に利用され、傀儡となり兵器となり最終的に捨てられ、誰からも認識されることなく消えていく。

壁を造ったことで反乱分子を抑え込み、コントロール下に置くことで、辛うじて国家滅亡は逃れたが、暗雲は目の前まで迫っている。

人類が誕生してから現在まで、争いが起こらなかった期間はたった数百年もないと言われている。
戦争は人間の本能なのだろうか。

「先輩、こっち。こっちのほうが早いです」

 ハルが指を差す方に目線を向ける。
何十年過ごしていても、その狭く険しい道の存在を知らなかった。

だからといって、いつもの光景の延長線でしかないはずなのに、抜けた先に仄かな希望の気配がした。

二人に躊躇いなどなかった。
今ならどこにでも行けるような、そんな大げさな期待感が二人を突き動かした。

***

 どこで道を間違えたのか。

ー俺の人生、こんなはずじゃなかった

なぜ自分はここにいるんだ。
なぜ自分はこの枯れたアスファルトを踏み、汗を流しているんだ。
有名大学を卒業し、エリートたちと共に約束された人生を送るはずだったのに。

十部夏弥(とべなつや)は代わりの小型浮遊全自動移動装置(通称・レヴィークル)が来るのを今か今か振り返る。

「十部君、さっきの角を右に曲がるべきじゃない?」

ただ一つ、誤算があるとしたら、この女性(ひと)と二人きりで仕事をしていることだ。

桜坂(さくらざか)クレンは自前のブロンドエアをかきあげた。透明感のある緑色の瞳と、奥行きのあるホワイトムスクの香りが相まってミステリアスな雰囲気を醸し出す。
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