第8話

文字数 540文字

バスタブを覗く。
「うっ…」
腐敗臭がした。ここで絶命したのか。底にはまだいくつかの水滴が乾かないでいる。

「先輩…?」

外からハルの声がした。

「バケツを外に出しておいてくれる?雨水で流そう」

「え?雨水で?」

「水道が止められているんだ。しょうがない」

「なんか色々と悲惨ですね…」

「そういうもんだよ。こっの世界はね」

ハルはどうしても無理だと言って外の空気を吸いに出た。透日はバケツに雑巾を潜らせ、濯いでは黒くなる水を交換し、汗だくになりながら作業をした。

この仕事が終われば日給が貰える。アパート代と一日の食費、光熱費がかさむ。明日も仕事がある保証はない。

頼れる親戚もいない。今はひたすら目の前の事に集中するしかない。

 懸命な透日の姿を見て、ハルもいつの間にか家具を運び出していた。すると、黒く平たい何かを持ち「あ、これ、ニュースで見たことある!本当にこんなのあったんだ」と埃を拭う。

持っていたのは何十年も前に流行った携帯用ゲーム機だ。ディスプレイにヒビが入っていて、とても動きそうにないが、ハルはお宝を発見したようにはしゃぐ。

「それ何に使うの?」

透日は当然、見たことも触ったこともない。

「ゲーム機らしいですよ。まだゴーグルが開発される前、こうやってゲームを楽しんでいたんですね」

「ゲーム?」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み