第18話

文字数 581文字

露華(ろか)という名前は、雨上がりに葉や花弁に残った露が、ガラス玉のように美く見える季節に産まれたかららしい。

なぜ、母はもう誰も使っていない、カナイ語で名前をつけたのか。最初から興味はないし、露華という名前も好きではない。

ヴァーチャルでも、リアルでも"ベル"と名乗ることにしている。

二日ぶりにクレイドルから抜け出し、アイランド型 キッチンに立つ。

料理を作るためではない。面倒なことは、家政婦や専用のアンドロイドがやってくれる。

棚から手前のグラスを取り出し、ピーチリキュールとオレンジジュースを適当に混ぜ合わせた。

ピーチのまどろっこしい甘さが喉に残り、途中でオレンジジュースを足した。

気分を変えたいから飲んでいる訳ではない。ただ、喉が渇いたから飲んでいる。

ショートドリンクだとすぐに酔いが回り、立っていられなくなるから、大体ファジーネーブルかカルーアミルクの二択になる。

露華は窓を開けて風に当たる。高層マンションの最上階からの眺めは、相変わらず。

ゲートの存在も、外側にいる人達のことも、露華は認識している。
ゲートのを作ったことは、露華にとっては良いことだと思っている。

戦争で国は滅茶苦茶になって、資源も食糧も不足していているのだから、国民全員を守る余裕はないことぐらい理解できた。

自分は内側に、しかも資産家の元に産まれた選ばれた側の人間だということも。
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