第16話 「とうとうコスプレさせられる僕」~俺が妹になるってめちゃ恥ずかしい~

文字数 5,339文字

 コスプレ花火大会の当日の午後三時。コスプレは女の子限定らしい。なんか大荷物を積んだ柴崎さんのキティ柄の恥ずかしい痛車で葉山の会場近くの駐車場に到着。白のノースリーブのブラウスと、シフォンのミニスカート姿で、筋肉も殆ど消えてしまって細く白くなった腕で、僕用に用意してもらった大きなトランクとバッグを汗たらたらで引っ張りつつ、柴崎さん達に続いて、更衣室の有る会場の浜辺横のホテルへ行く僕。もう人前でスカート履くも慣れちゃったけど…。
 いつの間にか水村さんは僕の名刺まで作ってくれていた。あの日着替えてポーズ取った所を写真に撮られたんだけど、まさかこんな所に使われたなんて。しかも名前が
(Kyouko 京子って)
 僕の男の子の時の名前の右京から勝手にもじって…どうせならもっと可愛い名前…、ううんもうどうでもいい。
「更衣室って、ホテルの個室?」
「違うわよ。畳敷の大宴会場」
「え?」
「そこが女子更衣室になってんの」
「えー!」
 柴崎さんの言葉に僕の足が止まる。
「僕も、そこに…」
「あたりまえじゃん!」
「…女の子って何人位…来るの?」
「まあ、百人は硬いんじゃない?大丈夫よ、ちゃんと女性警備員いるし」
 そんな事じゃない!この前の海のイベントの時は更衣室は僕の他三人だけだったし、風呂の時はそんなに人いなかったけど、今回百人なんて…。
「やだ!僕車の中で…」
「おめー、コスの着付けとか化粧とか一人で、しかも車の中で出来ると思ってんのかよ!」
 おもむろに僕の首の後ろを掴んで言う柴崎さん。水村さんはその横で笑ってるだけだった。
「大丈夫だよー、杏奈さんもう股間だって目立たないし、ちゃんと胸出てきてるしー」
 半分泣きそうになりながら二人の後をついていく僕だった。
 
(うわぁ、何これ…)
 女性警備員に挨拶してチケットの半券渡して、区分けのテープ張ったブルーシートの敷かれた大広間に入ると、むっとする女の臭い。既に端から順番に二十人位が着替えの真っ最中。時間が迫ってる上に一人畳一敷スペースだから、もう女の子達は他人の目なんか気にせず、下着一枚とか、胸を露にしてブラ付け替えてたり。
 と僕のスペースの横に一人のショーパンにブラウスの女の子が。そして後からもぞろぞろと数人の女の子達が来る。
「あ、澪(みお)ちゃん、自縛霊さんこんばんわ」
「あー、春李(しゅんりー)ちゃんこんばんわー」
「お久しぶり」
 僕の横に来た春李ちゃんと呼ばれてその女の子、ほっそりした身体に可愛い男の子みたいな顔立ちだった。それにしても、
「澪ちゃんて誰だよ」
「あたしの源氏名に決まってるじゃん」
 僕の言葉に水村さんが早くもTシャツを脱ぎながら答える。柴崎さんはここでも自縛霊なのかよ。
「あ、春李ちゃん、この子京子っていうの。今日始めてなんだ」
「あ、それじゃ…」
 春李ちゃん、源氏名だろうけど、彼女はカバンの中の財布を取り出して僕に一枚の名刺をくれる。
「あ、ぼ…あたしも」
「あ、僕っ娘なんですか?」
「いえ、あの…」
 僕も薫君の変身後の衣装着た、水村さんの作ってくれた名刺を取り出し、春李ちゃんに手渡すと、
「あ、そういう事なんだ」
 ふふっと笑う彼女。
「京子さんですね。そっか、マジックスリーの薫ちゃんなんだ。だーかーら、僕っ娘、ね」
 僕は顔に水村さんに教わった満面の笑みを浮かべ、
「よろしくです」
 と彼女に挨拶。そしてその名刺を見た時、
「えー、可愛い」
 と思わず声を上げてしまう。
 アニメとかは普段全然見ないけど、多分何かのアニメのヒロインだろう。ミニのメイド風の衣装に拳銃とライフルを両手に持つ彼女の写真。男の子に見える容姿からは想像できない。
「じゃ、失礼しますね」
 そう言うと持ってきたトランクを開けて衣装を取り出し始める彼女。
「杏…じゃなくて、京子!早くしないと!化粧も有るんだし!」
 既にショーツとブラ姿になった柴崎さんが赤いマジックレッドの衣装を手に持ちながら僕を突きながら言う。
「柴崎さんて、こんな趣味有ったんだ」
 僕もようやくブラウスのボタンに手をかけながら言う僕。
「ストレス解放には丁度いい遊びよ。特に何百人の悩みを聞いてきたあたしにはね」
 へえー、苦労してなさそうに見えるのに…。
 ブラとショーツだけ、あるいはブラの付け替えの為にショーツ一枚になってる女の子達を見ながら、僕もびくびくしながらスカートを脱ぎ、ブラを外しにかかる。ショーツの下には退化した男性自身を潰す為にスイムショーツをつけてるけど、もうこんな小さな布着れでごまかせる位になったんだとため息付く僕、
 そしてスボーツブラに付け替えようとしたけど、よく観てみるとブラの付け替えてる子は誰も上半身シャツで隠したりして着替えてる人はいない。あれ、結構面倒だし時間かかるは。
(えーい、じゃ僕も!)
 慣れた手付きで背中に手を当てブラのホックを外すと、ふわっとした感覚がAカップ一杯になった胸に広がる。
(うわ、すごい開放感)
 本当ブラなんて窮屈でしたくない。でもしないとバストトップがこすれて痛んだり、変な声が出るから仕方なく…と思ってふっと横の春李ちゃんの方を見ると、彼女もブラを外した所で上半身裸になったばかりらしい。彼女の目線は僕の両胸にあった
 そて僕の目線も彼女の両胸に。春李ちゃんの胸は、赤黒いバストトップこそ小指の先位有るけど、乳輪も殆ど無く、胸の膨らみもかろうじてAあるか位。
「あ」
「あ…」
 お互いの胸と目を見て一瞬二人とも動作がストップ。でもさすがに先に折れたのは僕。指先にぷるぷる柔らかくなった脇の下の肉を感じながら、恥ずかしそうにうつむいて両胸を思わず手で隠す僕。だって、僕まだ完全な女の子じゃないし、第一恥ずかしい!
「胸無いと、お互い苦労しますよね」
 胸を隠す事もなく春李は僕の顔を見てにっこりと微笑んだ。見ると彼女のヒップも女の子らしい丸みは有るけどボリュームは僕と同じ位?
「ね、ほら春李ちゃん。あなた位の女の子っているでしょ。そのうち大きくなるからさ」
 早くも赤い秋葉系のアイドルの女の子の衣装みたいな上着を着てスカートを手にした柴崎さんが、春李ちゃんにそう言って笑う。そんな柴崎さんににっこりと笑って、春李ちゃんはバッグから何やら丸い容器を取り出し、その中からなにやら大きなゴムの塊を取り出した。
「あ、ヌーブラ。付けた事ないですか?」
 その様子をじっと見ている僕に笑いながら春李ちゃん。
「あ、京子(杏奈)ちゃんまだ高校だし」
「高校生ですか。あたしなんか大学生ですよ」
 柴崎さんと同じく秋葉系アイドルみたいなブルーの服を着た水村さんの言葉に、少し羨ましそうに言って手馴れた様子でそれを胸に付け、フロントのホックを付ける春李ちゃん。胸にくっきりした谷間が出来ると、その上からチューブトップのブラを付けると、たちまちDカップの胸に変化する彼女の胸。
「何やってんのよ!早く着替えて!」
 柴崎さんが再び僕に向かって怒鳴るけど、その横で水村さんがぼそっと呟く。
「そだ、ヌーブラにしよう」
「え?」
 僕の言葉に水村さんが傍らの自分のバッグをごそごそしだす。
「ヌーブラ付けよう」
「ヌーブラって、めい(水村)ちゃんDあるじゃん?」
「あたしじゃない。杏奈じゃなくてここでは京子ちゃんか…」
「なんで持ってきてるのよ?」
「うん、なんか有れば何か役二たつかなって。誰かに貸したげてもいいし」
「サイズは?」
「BからDにするやつ」
「さすが、京極商事の社長秘書、気が利くわ」
 柴崎さんがコス服のスカートを履きながら水村さんとそんな会話してる。
「じゃ京子ちゃん、壁の方向いてくださいな」
 そう言ってはケースから何やら濃い肌色のぷるぷるした物を取り出す彼女。
「小さいけど可愛いおっぱいになりましたねー」
 そう言って水村さんは僕の小指の先位になって苺色に色着いたバストトップをそっと触り、白く柔らかくすべすべになった胸元を指で押し、冷たくてやわらかなそれを僕の胸に付けていく。
(あーあ、僕とうとうこんなものまで付ける様に…)
「予備のブラ有る?」
「一応あたしのが…」
「サイズは?」
「七十五のD」
「大きいわね。あたし七十のDだから、それ貸したげるわ」
「…ぶーぶー」
 柴崎さんより太ってるという事を暗に言われてぶーたれてる水村さんの横で、しゃがんで自分のトランクケースをあさる柴崎さん。
(女って、あんなにお尻大きくなるんだ)
 マジックレッドの衣装着た柴崎さんの華奢な上半身と大きなヒップを見つめながらそんな事思う僕。
「はいこれ」
 なんのためらいも無く僕に手渡される畳まれたピンクのレースいっぱいのブラ。カップにキティちゃんのワンポイントがあるのが彼女らしい。
「はい、いきますよー」
 そう言って僕のヌーブラのホックを留めると、
(うわー…)
 僕の胸にくっきりと谷間が出来る。そして胸感じるずっしりと重い偽のおっぱいの重み。
「京子(杏奈)ちゃん、ブラ着けてみてくださいな」
 もう手馴れた手付きでストラップに手を通し、花の香りのする柴崎さんのブラのカップをヌーブラで大きくなった胸にあてがい、背中のホックを一回で留める僕。ふとあたりを見ると、近くにいる女の子も壁に向かってヌーブラを着けている光景が見える。他の人も素肌を露にして着替えたり、化粧したり。
(そうなんだ、ここ、女子更衣室なんた)
 誰一人僕を特異な目で見ていない。僕はもう一人の普通の女の子として皆に認められている。ちょっとぼーっとなる僕。
「あ、丁度ぴったりですねー」
 水村さんの言葉も耳に入ってこなかった。
「お先に失礼しまーす」
 ふと横でそんな声。見ると別人の様にぱっちりメイクしてすっかり準備を整えた春李ちゃんがペコッとおじぎして、混雑している女子更衣室の中をカートを転がしていく。見ると僕達より先に来た横の女の子達も丁度部屋を出て行く所だった。
「みんな可愛いよね」
 衣装を取り出して、女の子らしく両手にもって無意識に体に当てながらぼそっと僕が言うと、
「何言ってるんですか、京子、いや杏奈さまでいいか。杏奈さまもそんな可愛い一人になるんですよー」
「そっか…」
 ゴールデンウィーク前、まさか僕が女子更衣室で、こんな可愛い服着替えてるなんてどうやって思えただろう。
「みんな着替えに夢中で、僕の事気にしてなかったみたい」
「えー、違いますよー。結構みんな見てましたよ」
「えー!」
 周囲に着替えの女の子がいなくなったからか、ちょっと水村さんと際どい話が始まる。
「変に思われなかった?」
「みんなにおっぱい見せたからですよー。まああたしの計略でもあるんですけど」
 そう言いながらヌーブラで大きくされた僕の胸をブラ越に触る水村さん。
「バストトップこそ女の子だけど、胸の膨らみがあんま無いでしょ。あ、あの子には勝ったってそんな顔でみんな見てましたよ」
「そんなもんなの?」
「そーれーにー」
 可愛いミニのスカートを履く僕に、水村さんが例のイエローにしかないパンツを手にして続ける。
「高校生の女の子って、結構まだ体が男の子とさほど変わらないですよ。体は皮下脂肪付いてまるっこくなってますけどー、若干筋肉は残ってるし、肌の色だって浅黒い子なんていっぱいいますよー」
「そうななの」
「もー、杏奈さん男の子時代にどれだけエッチな女の子の写真とか見たのか知りませんけど、あんな娘なんて殆どいませんよー。肌メイクしたりとか、写真加工したりとか、そんなもんですよー」
 水村さんて、こういう世界結構知ってる様に思えなかったけど。
「はい、これ履き替えてください。人に見せてもいい見せパンですからね。チアガールさんとかが履いてるパンツだと思ってください。あスイムショーツの上から、大丈夫ですよね」
「う、うん」
 スカート履いたまま薄い綿パンを脱ぎ、結構きつめのマジックイエローの見せパンを履く僕。あ、でも股間がきゅっとなって、あ、履いてるって気分。
「めい(水村)ちゃん。京子(杏奈)の化粧とかはあたしがやるから早く着替えて。ほら京子!さっさと上着着る!」
 いつのまにかすっかり身支度を整えた柴崎さんが僕達をせかすと、
「杏奈さまも体は女になってきたんですからー、そろそろ女の掟を覚えてくださいな。学校の勉強より難しいですよー。ほら、あさっては真帆ちゃんと再会するんでしょー」
 あ、そうだった。すっかり忘れてた。
 
 あれから何時間経ったんだろう。柴崎さんの車の中で、夜の海の漁船の灯火を見ながら、僕は今日一日のお祭りの事を疲れでぐったりしながらも思い出している。。生きていて一番楽しいひと時だった。
 どういうわけか、今の僕は薔薇柄のピンクの浴衣に赤い帯。髪はお団子でシルバーのかんざしまで刺さっていた。
まさか浴衣まで用意してくれてたなんて、さすが水村さん。唯の腐女子じやなかったんだ。
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