第25話 「バイバイ、男の子の僕」~僕が妹になるってめちゃ悲しい?~

文字数 8,609文字

 屋敷に戻ったのはもう夜の八時を回っていた。
「どこに行ってたのよ!みんな心配したんだからさ!」
「あ、ごめんなさい…」
 屋敷の玄関に出て来たそう言って柴崎さんに素直に頭を下げる僕。と彼女の横に大澤さんと水村さんが何かそわそわしている様子。
「あの、何か?」
 僕の問いに大澤さんが声を小さくして答えてくれる。
「奥様が、事故に会われたんです」
「えー!」
 そんなに会いたくなかった人だけど、ちょっと驚いて声を上げる僕。
「一度奥様がここに戻られてから、酔った田柄さんを大学の寮に送り届ける途中で、車を電信柱にぶつけられまして。車はかなり凹んで多分もうだめかと思われます。エアバッグのおかげで幸いかすり傷程度ですが、一応念のため救急車で病院へ」
「田柄さんは?」
「はあ、本当に最近困った事されますね。あの人も」
 そして大澤さんが続ける。
「今どこにおられるか分からないんですが、多分事故の後自分で駅かバス停かに行かれてそのまま帰ったかと思われます。電話が通じないもので。私も今から奥様と、あと田柄さんの安否を確かめに行くところです。それでは」
 そう言って大澤さんは送迎用の車のある屋敷の駐車場の方へ。残された柴崎さんと水村さんのうち水村さんがちょっと神妙な顔つきで僕に話す。
「奥様、多分事故のせいだと思うんだけど、すごく怯えてるんです。震えた声であたしに電話してきて。今日多分病院に泊まると思うんですけど、私と大澤さんに一晩ずっと付き添って欲しいって」
 そう言って柴崎さんとちょっと顔合わせた後彼女が続ける。
「たいした事ないと思うんですけど、一応入院の準備して、あたしも病院行ってきます」
 そう言って玄関の奥に消えていく彼女。人気も無くがらんとした京極邸の庭ではそろそろ秋の気配が感じられ、コオロギが鳴き始めている。
「そうそう、九月になったらさ、京極不動産の本社ビル建て替えでさ、その間ここに暫く本社機能を置くらしいから結構賑やかになるわよ。それでさ、不動産の人が是非杏奈ちゃんをキャンペーンギャルとして使いたいって言ってるの」
「そう…」
「奥様はともかく、京極社長はすごいやり手だよ。一代で今の京極グループ作り上げたんだからさ」
「そうなんだ…」
 僕のあまり気に乗らない返事に顔を曇らせる柴崎さん。
「早乙女(早乙女美咲研究所)ってさ、普通は自分の所の研究生以外の人に女性化の施術はしないんだけど、あんたの場合は特別だからさ、但し…」
 少し押し黙った後彼女が続ける。
「女性化トレーニングの後で卵巣と子宮移植するのが早乙女のやり方なんだけど、杏奈ちゃんの場合先にそれやっちゃってるの。それに移植されたのが妹の生殖器という事で、異例で初めての事でさ…」
「それで…」
 相変わらず気の無い返事する僕。だって女になったらさ、田柄さんと無理くりくっつけられるんだもん。
「ある意味実験的施術なの。もちろん散々テストとかやってるし危険は無いはずなんだけど」
「いいよ…」
 少しうつむいた後顔上げて続ける僕。
「もしうまくいかなかったらさ、妹の所へ行かせてよ」
「またもう、そんな事…」
「だって最初柴崎さん言ってたじゃん!やっぱ嫌だったらお酒飲ませて雪山連れて行くってさ…」
「あ、あんなの、ジョーク…冗談に決まってるでしょ!」
 怒った様に僕に言う彼女だけど、再び僕に笑顔向ける。
「明日の施術、受けてくれるよね?」
 そんな事言われなくたってさ!僕の体もう殆ど女だし!もう戻れないし…。
 悲しい気分になって軽くうなずくだけの僕。
 
 翌朝九時、
「おはようこざいまーす」
 屋敷の玄関のインターホンから元気な声が聞こえる。僕と柴崎さんを迎えに来てくれた早乙女美咲研究所の渡辺真琴さんだった。
(出来るだけ、元気が出る格好で行こ…)
 白にレースのいっぱい付いたブラパンに、シフォンのミニスカート、胸元が大きく開いたTシャツ姿で真琴さんの前に現れる僕。
「どうしたの?元気ないわね?眠れなかった?」
 そう言ってあまり元気の無い僕に笑顔で話しかける彼女に、
「いえいえ、そんな事ないですのよぉー、ちょっと緊張してるだけですよぉー。ねぇー、杏奈ちゃん?」
「うん…」
 柴崎さんの問いかけに力無い返事をする僕だった。
「杏奈さま、戻ってきたら本当のお嬢様ですよね?」
「う、うん、そうみたいです」
 水村さんが元気付けてくれるけど、やっぱり昨日の事が有って僕はあまり元気にはなれなかった。そして手を振る水村さんを後に、真琴さんの運転する車は京極邸をとうとう出発する。
 東京方面へ向かう車の中、僕も柴崎さんもあまり喋らなかった。
「杏奈ちゃん、静かですね。早乙女の子なんて女の子になる手術の日になったらさ、車の中で武者震いしたり気分がハイになって喋り続けたりするのに」
 運転中の真琴さんが助手席の柴崎さんに語りかけ始める。
「ま、まあ、いろいろとね」
 ぼつそっと呟く柴崎さん。
「うち(早乙女美咲研究所)も今大変ですよ。四月に入所した子がもうそろそろ半年。性的にもう男の子に戻せなくなった子がそろそろ出てきてね。それでそこまできて、たまに女の子になるのが怖いなんて言い出す子がいるから」
「えー、そういう時どうすんの?」
「萌さん所に送って、もう無理矢理女の子を覚えてもらうの」
「あー、あいつ!」
 柴崎さんがそれを聞いて大声上げて続ける。
「聞いてよ真琴さん!先日杏奈ちゃんをあいつの所に届けたらさ、あのバカ杏奈にあたしの一番嫌うタイプの格好させて送り返してきやがってさ!」
 それを聞いた僕はぷいっと頬膨らませて窓の方へ目をやる。
(萌さんがさせたんじゃないもん。自分でこの格好で行くって言ったんだもん)
 柴崎さんが怒って話すのを真琴さんが笑って受け流しているのを聞きながらそう思って、道の横の海をぼーつと眺める僕。ほどなく逗葉新道の入り口に入った彼女がまた話を続ける。
 「十月になったらうちの子達も女の子デビューだからね。手術とかはまだ先だけどね」
「そっちの男の子達って半年で女になるもんなの?」
「うちは教育しっかりしてるからねー。でも一番気を付けてるのは胸の成長」
「へ?胸?おっぱいの事?」
「そうよー」
 車を運転しながら楽しそうに真琴さんが続ける。
「やっぱ女の子が女である証拠だからねー。三ヶ月位でAカップになってバストトップが擦れる様になるからさ、その頃にブラの着用を義務付けるの。男の子とはいえ、その頃になるともう乳腺炎心配だからさ」
「ふーん…」
「面白いよー。どんな男の子でもさ、ブラ無しでもう生活出来ない体になったと思ったら途端におしとやかに女の子っぽくなっていくの。可愛いわよー」
「へーぇ、こんな脂肪の塊がね。あたしなんて邪魔で邪魔で仕方ないと思ってるのにさ。真琴さんだってその胸邪魔じゃない?どう見てもDはあるでしょ?」
「別に?それにさあたしも元男の子だったからさ。胸が膨らんでいく時の気分なんてさ、そういう人にしかわかんないよ。あー、女の子になってきたんだーってさ」
「そっか、真琴さんもそう言えば元男の子だったよね」
「今はすっかり女だけどね、ふふ…」
 そう言って真琴さんはバックミラー越しに僕の顔をちらって見る。
「杏奈ちゃん、今のブラのサイズは?」
「今AだけどそろそろB付けさせてもいいかなって」
 僕の替わりに答える柴崎さん。
「えー!はやーい。やっぱり本物の女の子の卵巣と子宮移植したからかなー。あ、そろそろ時間。次のサービスエリアでちょっと停めるね」
 そう言って真琴さんは車をえ?時間て何なんだろ。
 サービスエリアで車を停めた真琴さんは意外にもバッグから一本の注射器とアンプルを取り出して後部座席の僕の横に座る。
「これわかる?毎週杏奈ちゃんに打ってる薬」
 そう言えば卵巣が成長して女性ホルモンの注射が不要になっても、これだけは真琴さんか替わりの人が僕のお尻とか肩に注射しに来てた。今お尻は無理だから肩に打ってもらう僕。
「さあ、これでこの注射も最後。お疲れ様」
「あの、これって何だったんですか?」
「ああ、これ?」
 注射器をしまいこみ、ちょっと間を置いて僕に話す真琴さん。
「実はね、これもうち(早乙女美咲研究所)の一種の実験として行って来たんだけど」
 そう言って彼女は一呼吸おいておごそかに驚愕の事実を僕に告げる。
「これはね、亡くなった本当の杏奈さんの脳から抽出した、ある物質が元になってるの」
「ええーーー!」
 その言葉を聞いて僕は暫く真琴さんの顔を凝視したまま動けなかった。
「だから、杏奈ちゃんの記憶とかなんとなしに頭に宿った感じ有ったでしょ?服とか食べる物とか、言葉もだんだん杏奈ちゃんに似てきてるし」
「だからさ、杏奈ちゃんが観た本当の杏奈ちゃんの幽霊って、多分この注射で起きた幻覚のせいよ」
 真琴さんに続いて、助手席に座って前を見ながらぼそっと喋る柴崎さん。
「…嘘だよ…違うよ…」
 呆然としている僕を尻目に運転席に戻る真琴さん。
「いるよ…杏奈はいるって!」
 彼女は僕の言葉を聞き流す様にして運転の準備をし始める。
「だって!だってさ!海開きの時さ、僕の股間さわろうとした人が海の中で倒れて、足元に幽霊がいたって…」
「海草にでも足とられたんじゃないの?」
 すかさず柴崎さんが反論。
「京極不動産のさ、二箇所のアパートの物件紹介の写真のあちこちに杏奈が写って心霊写真だって騒いだじゃん!」
「ボブヘアの女の子がたまたま二箇所にいていたずらで映りこんだんでしょ」
「昨日僕が田柄さんに襲われそうになった時、田柄さんの後ろにいたじゃん!」
「さあ、あたしは見てないわよ」
「絶対いるって!杏奈はさ、自分の墓も無いし、亡くなった事自分のクラスメートも知らないし、お別れだってしてないし!だから彷徨ってるんだよ」
「行きましょ」
 僕の言葉をことごとく無視して最後に真琴さんに出発を促す柴崎さんだった。
「真琴さん!真琴さんは…どう思うの?」
 半分泣き声で真琴さんに訴えかけるけど、
「さあ、あたしはまだ幽霊なんて見た事ないから」
 とうまくかわされてしまう。もう何言っても無駄らしい。
「あ、そうそう、杏奈ちゃんの手術って何するの?」
「たいした事無いみたい。もう卵巣と子宮入ってるから。精巣切開して中身を取り出して、男性自身の中の尿道を外して、中身出した精巣の中に移した後、クリトリスに変える下準備して、あとでIPS細胞を埋める。それだけよ。だから局所麻酔でOK。
「そんなでいいの?大丈夫なの?」
「うん。ここまで来るのに相当量のテストとかやってるから。万一おかしくなったら早乙女美咲研究所に特別に迎え入れる」
「そうなの、一安心だわ」
「只ね…」
「え?」
「万一考えて、全身麻酔とか鎮静剤は使わないの。なんかIPSと相性良くないみたいでさ、それ自体の機能が一緒に低下したり停止したりする可能性あるから。あとね…」
「え?まだあるの?」
「IPS細胞埋め込んだら即座にあそこを女の子にし始めるんだけどさ、神経が繋がる時に脳が一時的に拒否反応示すの。繋がったらなんとも無いみたいなんだけど、鎮静剤使えないからそれだけが心配…だけど。まあ大丈夫だって。ね。杏奈ちゃん。心配しないで!」
 そう言って笑顔でバックミラーを覗き込んで笑顔で僕に言う真琴さんだけど、
「杏奈…いるもん…」
 そう一言だけ答えて僕は押し黙った。
 車は都内の首都高速に入り、そしてどこかの出口で降りた。その時真琴さんは車を止めて後部座席のドアを開ける。手にはなんとアイマスク。
「杏奈ちゃん。これから行く所は秘密だから目隠ししてね」
「えー…そんなの僕言わないって」
「だーめ。こういうの何かの拍子で言っちゃうものだから」
 渋々アイマスクを付ける僕。車はやがてどこかの駐車場に付いて、目隠しをされたまま僕は車椅子に乗せられてどこかの建物の中に入り、そのまま足首を何かに固定されてベッドの上に寝かされた。その後足が上に上がっていくのがわかる。そこでやっとアイマスクを外された。
 そこは明らかにどこかの病院のベッド。しかも僕が寝かされてるのは何かで見た産婦人科にある足を上げて固定するベッド。何人かのマスク付けて白衣着たお医者さんとか女性の看護師さんが見える。
「ご本人の最終の意思は取れてますか」
「はい」
 お医者さんらしき人の問いに柴崎さんが答える。
「じゃあ時間も推してるので始めます」
 とうとうこの時が来てしまった。僕は恥ずかしさと怖さと、そしてこれから先が見えない不安で思わず目を瞑る。
 
 局所麻酔の後、最初に精巣にメスが入る。そこから小さくしわくちゃになった僕の精巣が取り出された。
「杏奈ちゃん。これ、もう取ったからね」
 トレイに乗せられたそれをわざわざ僕に見せる真琴さん。
 実は僕、ひょっとしてまだ男の子に戻る事が出来るかも知れないって思ってたけど、それを見た時、もうそれは不可能なんだって思い知らされた。 
 次にすっかり包茎状態になった男性自身の余った皮を切り取られていく。小指の先程になって綺麗なピンク色の突起みたいになったそれは、中の尿道を完全に塞がれた後、中身がなくなった精巣の上に移動させられる。
 そして、卵巣と子宮移植時に作られた子宮に繋がる小さな穴がちゃんと今でも繋がっているか確認され、その上に小さな穴を空けられて尿道と繋がれた。
 最後に何かゼリーの様な冷たい感覚のものを精巣の内側に丁寧に貼り付けられていく。
 手術はたったそれだけで終わり、精巣に血と尿を一時的に排出するドレーンを入れられ、溶ける糸で軽く留められる。
「終わったよ」
 下半身を包帯でぐるぐる巻きにされている僕の頬を真琴さんと柴崎さんがかわるがわる頬ずりしてくれた。
 少しの間意識が有ったけど、僕は車での長旅と気苦労のせいか、そのまま気を失う様に眠ってしまった。
 
 これから暫くの事は後で聞いた話なんだけど不思議な事に僕は全く覚えてない。只、僕自身信じられない事をしていたらしい。
 
 手術の後、頭と胸に検査用の電極を付けて個室の病室のベッドに寝ていた僕を真琴さんと柴崎さんが付きっ切りで見守っていてくれる。一時間程たった時僕は何かにうなされた様にうめき声を上げたらしい。
「杏奈ちゃん、起きたの?」
 真琴さんの言葉に答える事なく、暫くうなされ続ける僕。
「ドクター、呼んだ方がいいかな」
 柴崎さんが不安げにそう言った時。
「い、いやだあ!」
 突然僕は大声で叫ぶ。
「どうしたの、ねえ!杏奈ちゃん!」
「いやだ!いやだ!」
 すっかり可愛くなった女声で体を震わせながら叫ぶ僕。下半身はベツドに固定されて動かせないけど、両手をばたばたと動かして大声上げる僕。
「と、とりあえず点滴の針外す!」
 真琴さんがそう言って僕の手からすっと針を抜く。
「杏奈ちゃん!」
「いやだ!女になんかなりたくない!」
 そんな予想外の僕の言葉に驚いて顔を合わせる真琴さんと柴崎さん。
「と、とりあえずナースコール!」
 そう言って柴崎さんがボタンを押すと、待機していた女の看護師さんが飛んで来た。
「あー…まさかこれ…ドクターの言ってた拒否反応?」
 そう言って看護師さんが胸に端末の付いた心電図を確認。
「大分興奮してる…」
「杏奈ちゃん!ねえ!落ち着いて!」
「やだ!やだ!」
 相変わらず上半身ばたばたさせ、ベッドがぎしぎしときしむ音がする。
 程なく病室のドアが開いて、外人と日本人の二人のドクターが入ってきた。外人の医師の方が暴れている僕の手の脈とか心電図とかを見て何やら喋っている。日本人の医師も、真琴さんも柴崎さんも英語はわかるけど、要はこのまま落ち着くまで待つしかないとの事だったらしい。
 只、僕の股間に埋め込まれたIPS細胞は順調に子宮に繋がった細い穴の表面を覆って膣に作り変える準備をしているみたいだった。尿道と男性自身の表面、そして精巣の内側にも張り付いて、女の子の大事な部分に作り変え始めているとの事だった。
「やん!やん!」
 相変わらずうなされ続けている僕だけど、その動きはだんだん小さく細かくなって、声の口調がだんだん女の子の悶え声みたいになっていったらしい。
「そっか、これで杏奈ちゃん、本当の女の子になっていってるんだ」
 とうとう胸元で両手を軽く握り、
「うーん…うーん…」
 と女の子の悶え声出し始める僕。
「落ち着いたみたいね…」
 そう言って真琴さん僕の手を軽く握っていた手を外す。やがて僕は息こそ荒いけど、身をよじって暴れる事はなくなった。
 外国人の先生が何かを喋り、ご丁寧に日本人の先生が訳してくれる。
「もう大丈夫だろうってさ」
 そして二人の先生は看護師の女性と共に部屋を出て行く。
「あーもう、一時どうなるかってひやひやしたわ…」
 そう言って額に手を当てる柴崎さん。
「そうね、初めての試みだからあたしも…」
 そう言いながら僕に点滴のユニットを元通りにしようとした真琴さんは、僕の脳波のモニターをちらっと見る。
「まだ終わってない!」
「え?」
 二人がそう言って僕の顔をじっと見た時、再び僕がうめき始める。今度はまるで寝起きの女の子みたいな感じだけど何か様子がおかしい。程なく、
「う、うーん…」
 下半身固定されたまま背中を反らしてそんな声上げる僕、そして声がだんだん…。それを観た二人の女性、柴崎さんと真琴さん、最も真琴さんは元男だけど、同時に同じ事を思った。
(この子、欲情してる!)
「あ、あーん!足…動かなーい…」
 そして悲鳴の様な悲しい様な声を上げた僕、だんだん息遣いが荒くなっていく。
「ちょっと、これ、どうすりゃいいの!」
 そう言って柴崎さんが困った顔をするけど、真琴さんは僕の手を握ってじっと僕の顔を見つめていた。
「あ、あーん、え…え…」
「杏奈ちゃん、大丈夫、あたしわかる?渡辺真琴よ…」
「え、え…」
「杏奈ちゃん!」
「え、エッチ…したい…」
「な、何!?」
 僕の口から漏れる言葉に、思わずあきれた顔で叫ぶ柴崎さん。
「エッチ…したい…ああん!抱いて!エッチしたい!」
「…萌の奴…」
 そう言って頭を抱える柴崎さん。
「なんとなしにわかる…。あの細胞が、膣の筋肉作り始めたんだ…」
「はあ…もうなんか信じられないんだけど、あたし」
 真琴さんの言葉に、とうとう腕組して壁にもたれて呆れた様に言う柴崎さん。
「あ、あん!あん!い、入れて…」
「入れてって何をどこによ!」
 AVの女の子みたいによがってそんな言葉を口にし出した僕を相変わらず見下す様に観る柴崎さん。
「あ、ああん!入れて!入れて!エッチしたい!エッチ…したい!」
「うるせー」
 僕が手術終えた大事な体なのを忘れたかの様に柴崎さんが軽く吐き捨てる。
「柴崎さん、ちょっとドアに鍵かけて!」
「え?何するの?」
「いいから!それと男は誰も入れないで!特に結城院長!こんなのすぐ嗅ぎつけてやってくるんだからさ!」
「う、うんわかった」
 不審な顔して部屋のドアの鍵を閉める柴崎さん。その間に相変わらずよがっている僕の横でささっと服を脱ぎ始める真琴さん。
「ちょっと、真琴さん!何してるの!」
「ちょっとやってみる」
「やってみるって、何を…」
「あたしの、子守唄」
「こ、子守唄?な、なんなのそれ?」
「いいから!」
 夏用のスーツを脱いで真っ白なシルク調のショーツ一枚になった彼女。
「いい体してんのね。とても元男の人だったなんて思えない」
「ありがと」
 真琴さんの体を見て腕組みしたままそう呟く柴崎さんにそう言って、彼女は相変わらずよがり声出している僕のベッドに腰掛けて、そのまま僕をぎゅっと抱きしめて僕の顔にキス。
「誰?誰なの?」
 突然の事に驚いた僕の言葉に、真琴さんと柴崎さんは、初めて今までの行為が僕自身のものではなく、別の、いや僕の本能から出た事だとわかったらしい。
「あたし?そうね、天使かな」
 その言葉に思わずぶっと吹き出す柴崎さん。
「杏奈ちゃん、もう少しだけ我慢してね。そしたらさ、一杯いい事出来るからさ」
 そう言いつつ彼女は僕の髪を撫でながら続ける。
「女の子になったらさ、一杯楽しい事あるんだよ。可愛い服着れるしさ、メイクとか化粧とかで遊べるしさ」
「彼氏作れるんだよ。彼氏に一杯甘えられるよ」
「エッチしたら男の子の時の十倍感じる事が出来る。だから今は我慢して」
 僕の頭、顔、首筋、胸を愛撫しつつ、その他女の子のいい所とか夢とか、本当子守唄の様に囁く真琴さん。
「あー、こんなのあたしには絶対出来ないわ」
「柴崎さんもやってみたら?」
「無理無理、あたしには出来そうもない…」
「杏奈ちゃん、これで体は大人だけど、性的には幼い女の子と同じになったんだよね」
 僕が落ち着いて眠るまで彼女の子守唄は続いた。
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