第20話 「杏奈、田柄さんと寝たいもん」~僕が妹になるってめちゃ悲しい?~

文字数 7,715文字

「…!起きてください!」
 四つんばいになってぜいぜい息をする僕の頭の中で誰かの声がする
「杏奈さま!どうしたんですか!」
 ふと目の前が明るくなり、目をぎゅっと閉じた後で目を開けると、そこには僕を覗き込んでる水村さんの顔が有った。
「どうしたんですか?かなりうなされてましたし、汗びっしょりですよぉ」
「あ、うん…ちょっと…」
「もう、服のままで寝るから、折角のワンピくしゃくしゃじゃないですかぁ。クリーニングに出すから早く脱いでください。あと、パンツとかブラも換えてくださいね」
 ベッドの上で無意識にペタン座りした僕は、言われるままに慣れた手付きで背中のファスナーに手をかけてワンピを脱ぐと水村さんにそれを手渡した。もうブラとパンツ姿を水村さんに見られるのは慣れっこになっている僕。
「朝ごはん用意してますから。あと柴崎さん怒ってましたよ。ちゃんと昨日の事…」
「わかってる…わよ」
 意識して女言葉を使い、水村さんが部屋から出て行くのを見届けて僕はブラに手をかけた。胸に感じる開放感を感じつつ、すっかり赤黒く大きくなった両胸のバストトップを見つつ、
(一度でいいから、田柄さんと寝たかったなー)
 という杏奈の言葉を思い出しつつ、僕は両手をクロスして胸をぎゅっと抱え、敏感になったバストトップを感じつつ、恐怖にも似た感覚を覚える。過去テニスウェア姿で田柄さんにいたずらされた時は、好奇心も有ったけど…。
(だめだよ、今の僕に本気でそんな事…無理だよ!)
 だが、この前の心霊写真といい、このままほっとくと杏奈はまたとんでもない事やらかすに違いない。
「どうすんだよ!」
 そう叫んで再びベッドの上に寝転んで目を閉じる僕。と、程なく、
「こらあ!偽杏奈!柴崎先生が飯も食わず食堂でお冠だぞ!」
 他でもない柴崎さんの声が部屋のドアのすぐ近くで聞こえてきた。
 
 杏奈の残していったレースふりふりのピンクのショートパンツとキャミ姿で食堂の椅子に座り、向かいに座ったキティが軽く百匹はいると思われる真っ赤なパジャマ着た柴崎さんと、サマードレスにエプロン姿の水村さんに一通り昨日の事をぼそぼそと話した後、用意されたサンドイッチを手にしてようやくぼそぼそと食べ始める僕。 
 ショーパンから伸びる僕の足は無意識に横に流れていた。前に見た時より白くむっちりに感じる。サンドイッチも女の子みたいに両手で持って脇を締めて…。いいや、もうそういうキャラになりつつあるんだから…。
 水村さんの作った折角のサンドイッチもパサパサで味が無い様に感じる。
「柴崎さん、バレてたよ。そのピアス、真帆ちゃん覚えてた…」
 柴崎さんの目線をそらしてうつむき、相変わらずボソボソとサンドイッチを口にしながら言う僕だった。柴崎さんは何も言わず手でそっと自分の耳を触り、水村さんの方をちらっと見て、そしてやっと口を開く。
「あんまり信じたくないんだけどさ、夢の中で杏奈ちゃんはもう大丈夫ってあんたに言ったのか?」
「…うん…」
 ようやくサンドイッチの最後の一切れを飲み込み、傍らのアイスミルクに手をかける僕。
「じゃあ、良かったって話じゃないの?」
「…うん…」
 水村さんの方をちらちらと見ながら話す柴崎さんに、僕は相変わらず彼女から目線を逸らしながら元気無く答える。
「じゃあ、なんでそんな元気無いんですかぁ?なんでうなされてたんですかぁ?変ですよぉ…」
 柴崎さんの隣の椅子に座った水村さんがテーブルに身を乗り出す様にして僕に問いかける。
「お前、まだ何か隠してるだろ…」
 水村さんと反対に顎に手をかけ、椅子に深く座りなおして背もたれによりかかる様にして柴崎さんがいぶかしげに僕に言った。
 暫く両者沈黙の後、僕は残ったアイスミルクをいきなりぐーっと一息で飲み干して、少し乱暴にテーブルに置いた。
「田柄さんと、寝たいってさ」
「はあ!?誰が!?」
「…杏奈。今までの借り返せって。昨日の真帆ちゃんとの事とか、海開きイベントで僕が男だとばれそうになった時にそれを阻止した事とかさ」
「な…な…!」
 それを聞いた柴崎さんの顔が驚きと恐怖か何かで引きつってくる。
「多分僕に憑依してさ、昨日みたいにさ」
「そんなバカな話…あくまで夢でしょ!夢!夢!」
「じゃあ真帆ちゃんの事は大丈夫ってのも夢じゃん…」
「うるさいうるさい!」
 テーブルを両手でバンと叩いて席を立ち、食堂の中をうろうろする柴崎さんだった。
「大体さ、あんたがそんな体になった事ってさ、田柄君はあんたが男だって知ってる訳でしょ。しかもこの前気まずい雰囲気になったばかりだしさ!」
 僕も正直嫌だった。少し前に見たアダルトビデオの女の方を僕が演じるなんて、考えただけでも鳥肌が立つ。
「杏奈お譲様、まだこの世をさまよってるんだ…」
 椅子に座った水村さんがぼそっと呟くと、
「あたしはそんなの信じないけど、もしいるならそのうち成仏するわよ!」
「でもさー、またこの前みたいに京極不動産とかの仕事の邪魔とかしかねないよー」
 水村さんの言葉に僕もちょっとぞっとした。前はバカ顔して賃貸住宅の写真を心霊写真にしただけで済んだけど、今度はあちこち幽霊で出没するかも知れない。
「ああ、もうどうしたらいいのよー!下手すりゃお金もらえなくなるじゃん!」
 おおげさに長い髪をかきむしって肩を震わせる柴崎さん。と、すっと水村さんが立ち上がって柴崎さんの側に歩み寄り、彼女の耳に何やら耳打ち。最初は、
「バカ言うんじゃないわよ!」
 と言ってた柴崎さんの顔が水村さんと何やら小声で話していくうちにだんだん真剣な表情になり、水村さんが離れると、彼女は険しい表情で手と肩を同時に震わせる。
「そんなこと、そんなことってもう時間も無いのに今のこいつに出来る訳…」
 と叫んだ柴崎さんは、何か吹っ切れた様に顔を上げ、口をぽかんと開ける。
「一人…いたわ…適任が…」 
 しかし、すぐさま、
「だめ!だめ!あいつだけは絶対だめ!」
 今度は足をどたどたさせながら訳のわからない言動をする彼女に、僕と水村さんが思わず顔を合わせた。
「何言ったの?」
「うーん…、まだ内緒ー。でもさー、杏奈様と京極グループの未来は今後の杏奈様次第かもよー」
 そう言って怪しい笑みを僕に向ける水村さん。なにやらさっぱりわからん。
 傍らで柴崎さんは何やらぶつぶつ言いながら、立ったり椅子に座ったり、足をどたどたさせたり髪をばさばささせたり。そしてとうとう、
「あー!もう!やだこんなの!なんで今更あんにゃろーにさ!」
 そう言うとどたどたと乱暴に歩きながら部屋を出て行く柴崎さんだった。
「あ、行った行った」
 水村さんがその様子を見てそう言って笑う。
「ねえ、一体なんなのよ」
 無意識に女言葉になった僕が彼女に問いかける。
「まあねえ、がんばってねー」
 どうやら水村さんの言葉をヒントに柴崎さんが何かを企んでるらしい事はわかったけど、何やら妙な雰囲気を感じる。加えて夢の中の杏奈の言葉も僕を憂鬱にさせるものだった。昼近くになり、たまには僕も昼ごはん作ろうっと思って部屋のドアを開けた時、部屋の前ですごい形相の柴崎さんと鉢合わせになった。
「わっ!」
 こういう時はキャッ!なんだけど、ボサボサの髪と泣きはらした赤い目と、頬の化粧崩れの跡のすごい形相に思わず男が出てしまった僕。
「身の回りのもの持って表へ出な!」
 そういい残してふらふらと柴崎さんは部屋の前の廊下を歩いて行った。
 
「ねえ、一体どこへ行くのよー」
 白のベルトの紺のショーパンにボーダーのTシャツ、着替えも持たずスマホとか簡単な化粧ポーチとか、本当身の回りの物だけ入った小さな可愛いバッグ一つ持たされ、キティちゃん付のピンクの柴崎号に載せられ、湘南から最近出来た圏央道に乗り、ずっと北上。
 途中で僕がそう言っても何も答えてくれない。休憩所でも降りろとか乗れとかそれだけだった。女子トイレにまだそんなに慣れていない僕に構わず、すたすたと自分だけ入って行く彼女。
 でも僕にとっては久しぶりの遠出だった。まだちょっと怖かったけど、小さいけどはっきりそれとわかる胸とか、ショーパンから伸びるふっくらした太股とか、それに水着モデルもコスプレもやったし、一人でファンデーションショップまで行ったし、うん大丈夫って感じで僕も堂々と人ごみの中高速のPAの中を闊歩した。
 再び車に戻っても柴崎さんはまだ時折ぶつくさ独り言を言ったり、がっでむとかおーまいがっとか、もうこれから何が起きるんだよ全く。
 車はどうやら上信越道に入った様子。その頃からようやく何やら柴崎さんが話し始めた。
「あんたを暫くあいつの所へ預ける」
「あいつって?」
「あたしがこの世で最も嫌いな奴!」
 それ聞いて流石に僕もちょっと引く。
「女を男の性の対象とか商売の道具としかみてない奴。しかも女!」
「なんだよそれ!」
「ま、まあ、あんたとは気が合うんじゃない?」
「だからなんでよ!」
「まあ、そのうちわかるわ…」
 ようやく微かだけど柴崎さんの口元に笑みが浮かぶ。
 また暫く沈黙と柴崎さんのぶつぶつが続く。やがて車は上信越道から外れ僕の見覚えのある道へ。そして険しい妙義山が見えてきた。夏休みとかに親父の車で時折通った道。
「…軽井沢?」
「…そう…」
 ようやくまともに受け答えしてくれる雰囲気になりそう。
「あんたを男好きする様な女にしつけてもらうんよ。あの女の下でさ」
「お、男好き…」
「そうよ!」
 驚いて柴崎さんの横顔を見つめた僕に、彼女は振り向かず運転しながら答える。
「あんたがそうなって、時折来る田柄君の目に留まる様になれば、そのうち向こうからなんらか近寄ってくるでしょ」
「な、なによ…なんだよ…それ」
「田柄君、今はもうあんたの事嫌っちゃってるんだからさ、あんたが変わるしかないじゃん!」
「そんな事言われてもさ!」
「そうすりゃ、絶望的だったあんたと田柄君をくっつけるという計画も実現するかも知れないし、あたしも無事お金貰えるし、本当の杏奈ちゃんの夢も叶うんでしょ!まあ、あたしは杏奈ちゃんの霊とかは信じてないけどさ…」
「だ、だからって…」
 とうとう頭の中も女になり始めたのかどうか知らないけど、嫌な事聞いた時の僕の精神的落ち込みがはんぱじゃなくなってきてる。
「もうこうするしかないの!時間も無いし。そりゃ、あたしだって、顔も見たくないあんな女に頼みたくなかったわよ…でないとさ、また杏奈ちゃんの霊ってそこら中で悪戯するかもしれないんでしょ。今度は京極不動産の借家に住んでる人前とかにさ…ありえないと思うけど!」
 そしてふと遠い目をしながら彼女が独り言みたいに言う。。
「二度と関わんないと思ったけど、まさかあいつが早乙女の仕事やってるなんてさ…電話してびびったわ」
 この期に及んでまだ僕にそんな事させるわけ!?
「ねえもう帰ろうよ!夢の中で杏奈に会ったらちゃんと言い聞かせる…」
「うるさいわね!あたしがどんな気持ちであの女に電話口で頭下げたかわかってんの!?」
「えー、もうやだよー!」
 少女らしく膨らんできた頬をさらにぷっとふくらせて僕はぷいっとそっぽを向く僕。そして到着した軽井沢の景色もこれからの事考えると夏の緑も白黒の景色に感じた。
「ここからは一本道…か…」
 車は夏のうっそうとした緑の木々の林の中に入り、カーナビを見ながら柴崎さんが呟く。
「ねえ、その人どんな人なの?」
 恐る恐る僕が尋ねる。答えてくれないかなと思ったけど、柴崎さんから返事が来る。
「井上萌って奴。あたしと同じ東○大学のゼミの同期の子。当初は意気投合したんだけどね。良く飲みに行ったしさ。女を輝かせようって事で意志は同じだった。でもそのやり方とかがあたしと正反対だった」
 独り言を言う様にして彼女が続ける。
「大学卒業する頃は犬猿の仲になってたわ。あたしは大学院行ったけど、あの子はそのままAVデビュー」
「えー、アダルトビデオ」
 びっくりして大声上げる僕。東○大学出てAVって、そんなのありなの!?
「他にもキャバ嬢、ホステス、イメクラ、レースクィーン、コンパニオンにコスプレギャルもかじってた」
 それってなんかすごい人じゃないの?
「頭いいのか知らないけど、どれやらせても人気者になるらしいんだけど、すぐやめちゃうの。コスプレギャルやってた時あたしと直で再会したんだけど、お互い口も聞かなかった。それで、今はその経験生かしてAV、ホステス養成の仕事してんのよ。ほんと!バカみたい!」
 最後はまるで唾吐き捨てるみたいに言い切る柴崎さんだった。ふと真顔になり運転を続ける柴崎さん。そして、
「軽井沢の別荘地に勝手にラブホ建てたバカがいて、当然役所から許可下りないからそのまま放置。そしてあいつがそれを自分の養成施設にするべく買い取ったらしいのよ」
 車は林の中を走り続けいくつもの綺麗な別荘の横を通り過ぎる。目的場所についたのは午後三時位。
「あれがそう。確かに上品な建物だけど、誰がどう見てもラブホじゃん!」
 それは高い塀で囲まれた、二階建ての白いお城みたいな建物。見るとその門柱にもたれて片足上げてクロスさせた一人の女の子がいた。僕と同じボブヘアだけど前髪ぱっつん。白のブラウスに花柄のミニスカート姿で、手にしたスマホをじっと見つめている。
「お迎えの人かな?」
 ぼそっと呟く僕の声に柴崎さんが反応する。
「あいつ、あいつよ。井上萌!」
「えー!?あのお姉さんが!?」
 もっと厚化粧でスケスケのネグリジェとか着た人だと思った。
 車から降りた僕達が彼女のすぐ近くまで来ると、ようやくその人はスマホケースを閉じ、髪を両手でばさっとして僕達の方を向いた。確かになんとなく男好きのしそうなふっくらした顔と大きな丸い目。でもその目からなんともいえない厳しい視線が僕達に向けられていた。
 数秒沈黙の後、柴崎さんが引きつった笑顔で沈黙を破る。
「…お久しぶりね…」
 と、彼女、井上萌さんが口元だけ笑った怖い笑顔で答える。
「いったいどういう風の吹き回しかしら?SNSでさんざんあたしの悪口書いた癖にぃ?よくあたしの前に顔出せたわねぇ。その勇気だけは褒めたげるわ。まあ、お仕事だしぃ?正直今ここで往復ビンタかましてやりたい位だけどさぁ、大事なクライアントさんの前だからやめたげるわ!」
「…あ、あんたの名前まで出してないでしょ…」
「名前出してたら今頃あんた死んでるし!」
 いきなりつかみ合いの喧嘩になりそうな雰囲気だけど、どうやら双方我慢したらしく、横で見ていた僕はほっとする。
「それで、預けたいってのはこの子か…杏奈ちゃん」
「そうよ…」
「ふーん…」
 いきなり僕の胸とヒップ、そして腰まわりを少し乱暴に触り始める萌さんだけど、彼女のさっきの剣幕が怖くて僕は抵抗なんて出来ず、只じっとされるままだった。
「三ヶ月でここまで来てんのか…胸は出てきてるし、お尻大きくなって女の肉も大分ついてる…か…」
「…」
「最初から卵巣と子宮埋め込むとこうなるんだ。早乙女(早乙女美咲研究所)だと万一有るからやんないけどね」
 え、萌さん僕の事…。
「あの、僕の事、知ってるんですか?あの、今年の四月まで…」
「男の子だったんでしょ。とっくに知ってるわよ。だってあたしだって早乙女の卒業生だしさ」
「えーーー!」
 びっくりして萌さんから飛び跳ねる様にあとずさりする僕。目の前のちょっと可愛い人が、あの、渡辺(真琴)さんと同じだなんて…。さっき柴崎さんが僕に言った、あとでわかるってのはこういう事なの?もう誰が男で誰が女なのかもうわかんなくなってきた。
「それじゃ、お願いするわ。あまりあたしここにいるとまずいみたいだからさ」
「あたしも同感だわ。あとさ確実に人間変わるけどいいのね?」
「もう!好きにやってちょうだい!」
 人間変わるって、どういう事だよ!僕また何かされる!絶対何か危ない事される!
 くるっときびすを返す様に車の方へ数歩歩いた後、こちらを振り返る柴崎さん。
「わかってるよね!AV嬢とかキャバ嬢にするんじゃないからね!送った資料ちゃんと読んでくれたよね!」
「わかってるわよ。あんたとはあんまし関わりたくないけどさ、ビジネスだって言うなら代金分の仕事はするわよ」
「本当に信じていいのね!」
「明日中に前金振り込めな。あと成功報酬忘れんなよ。あたしは高いからね」
 そして柴崎さんは車の轟音と共に走り去ってしまった。取り残された僕のなんて心細かった事か。
「何してんの、行くよ」
「はい、あの、宜しくお願いします…」
 萌さんの後について僕はその建物の中に入っていった。
 
「あたしの本来の仕事はさ、AV嬢とかキャバ嬢の新人研修の仕事なんだけどさ」
 萌さんの後ろについて行く時、いろいろ僕に話し始める彼女。
「裏の仕事が二つあってさ。早乙女美咲研究所ってもう知ってるだろ?男の子を女の子にする施設」
「あ、はい…」
 うなずいた僕の顔を見る事なく僕の前を歩き続ける彼女。
「卒業直前、もう十分女子高校生で生活可能になった男の子達にさ、男の子に対する恋愛全般。出会い、ひっかけ方、騙し方、おねだりの仕方から、エッチの仕方とか演技表情とか悶え声まで、全てをここで教えてあげるの」
「えーっ」
 あまりの事に僕は足を止める。
「それともう一つ」
 やっと彼女は僕の方を振り返り、意地悪そうな笑顔を見せる。
「研究所に入って三~四ヶ月位の男の子。胸も出てきて体がぽちゃぽちゃ柔らかく丸くなりはじめても、まだ全く男性を異性として受け付ける事が出来ない生徒さんをここで預かってさ」
 何をするのって感じの僕の顔を見つめながら萌さんが続ける。
「まあ、わかりやすく言うと、あらゆる手段使って女としての喜びを教えてあげる、かな」
 その言葉を聞いた瞬間、さっきの彼女の人間変わるって言葉を思い出した。
「先週も一人、女として一人巣立って行ったさ。ここに来た時あんなにおどおどしてた子がさ、一週間かけて頭の中を女にしてあげてさ。帰る時、先生ありがとーってね。スカートすら履くのをためらってた子がさ、買ってあげたミニスカートひるがえしてさ」
 カーテンで締め切られた宿泊受付とかかれた窓口を通ってすぐの一〇一号室の前で萌さんの足が止まる。
「入れよ」
 萌さんのその声に、僕がその部屋の取っ手に手をかけた時、彼女が再び声をかけた。
「この屋敷から出て行く時は完全に女になってもらうからね」
 すごい不安だったけど、僕は大きく深呼吸して部屋のドアを開けると、中からの花の香りが僕の鼻をくすぐった。そして僕の後に入ってきた萌さんの手でその扉は閉じられた。
 
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