第22話 「バンドボーカル初体験!」~僕が妹になるってめちゃ悲しい?~

文字数 11,005文字

 エレキギターの音楽ががんがん鳴る中、程なく店員さん、派手な目元の化粧に紫の口紅、ノースリーブの皮の服に皮のショートパンツに網タイツで金にブルーとパーブルのアクセントの入った髪を立てた店員さんが奥から出てくる。
「わあ萌ちゃん。おひさ、いらっしゃい」
「お久しぶり!店長は?」
「うちのハニーは今練習中。明日来てくれるんでしょ?」
「うん行く。あんた練習とか音あわせいいの?」
「あたしはあいつみたいに毎晩酒かっくらって寝てばかりしてねーしさ」
「そうなんだ。あ、でもその前に…」
 僕を彼女の前に少し押し出す様にする萌さん。
「この子の衣装欲しいんだけど?」
「うわーぉ!ウブな可愛い子ね。高校生?年いくつ?名前は?へー杏奈ちゃんて言うんだ。そんなタイトルの歌昔あったよねー」
 十八歳って言おうとしたけど、杏奈は十七歳だったっけ?
「ロックギャルのスタイルって初めて?そう、じゃさ…」
 結構古い歌らしいんだけど、それらしき歌の旋律を鼻歌で歌いながら萌さんが狭い店内にひしめき合う衣装を物色。最初レザーとかゴスロリっぽいショートパンツとかに手をかけていた彼女がふと僕の方を見て言う。
「お尻…まだ小さいよね…」
 うん、だって女の子に変身途中だもん…。
「スカートにすっか?これいいんじゃない?フェイクレザーだけどさ。あと…」
 何やらいろいろ手渡され、小さな更衣スペースで萌さんな手伝ってもらって、
「萌さん、ちょっとこんなの絶対恥ずかしい!スカート短すぎ!」
「いいの!パンツなんて見えたって減るもんじゃなし!ただの布切れだし!」
 そして小声で僕に続ける彼女。
「杏奈ちゃんのあそこなんてさ、パンツ履いたらもう大きめのマン肉にしかみえねーよ!」
「ま、マン肉って…」
 萌さんのすごい言葉になぜかかーっと顔赤らめて言う僕の声も聞かずに僕の手を引いて無理矢理女店員さんの前に引きずり出される僕。
「うわー、いいじゃんいいじゃん!初々しくて可愛い!あ、これサービスしたげる」
 そう言って店員さんは、大きなメダル型のペンダントを紙に包んでくれた。
「じゃあ明日お会いしましょうね」
 そう言って頭撫でられる僕は、初めてどうやらこの店の人が出る明日のロックコンサートに連れて行かれるって事がわかった。音楽は嫌いじゃないけど、こんな格好で行かされるなんて、突然すぎる。
 
「2キロも太ってる!」
 毎日あんなにジムで走ったり自転車乗ったりしてるのに!
 翌朝バスルームでバスタオル巻いて体重計に乗ってそんな声上げた僕を、萌さんは容赦なく引きずり出して、
「もう、世話のやける!」
 と言いながら昨日買った衣装に着替えさせられる。
 僕のAカップの胸は、初めて付けたヌーブラとやらでBカップに。柔らかくなった胸元に引き寄せられ僕に初めて出来た胸の谷間とやらに恥ずかしがる暇もなく、ピンクでレースばりばりのショーツとブラ、明るいピンクにギター弾いてるサングラスかけた外国の女性の上半身がでっかく黒でプリントされて、金ラメで多分そのバンド名がプリントされたTシャツ。
 フェイクレザーの黒のミニのチェーン付きスカート。それに…、
「まあ、初めてだからこれ位で勘弁してやっか」
 耳にピアス、昨日サービスしてもらったペンダントとか、萌さんの手持ちのゴールドのネックレスを二重に首にかけられ、ドクロとドラゴンのデザインの指輪、そして頭には金とパープルのエクステ…。
「おねーちゃん!僕本当にこんな格好で行くの!?それにさ、やっぱスカート短い!」
 既に黒のリベットだらけのショートパンツに派手なシャツ、やはり黒でリベットとチェーンだらけのミニのベスト着た萌さんは僕の声を無視。
「メイクって、するんでしょ…」
「時間ねーし、杏奈ちゃんのメイクどーすっか、車の中で考えるからさ。早くこれ履きな」
 黒のグラティエーターぽいサンダル履いて、ドアのミラーで自分の姿をちらっと見る僕。ノーメイクだから何か違和感有るしそれに、
(えー、これじゃまるで不良パンク少女じゃん…)
「おい、これ被れ」
 そう言って萌さんが鏡に映る僕の頭に何やら帽子みたいなのを、
「えーーーーっ!」
 僕に被せられたのは真っ赤などこかの女子の軍人が被る様なベレー帽だった。
 萌さんから最後に手渡されたゴールドの長いチェーンの付いた小さなピンクのバッグを肩にかけ、車に乗せられて軽井沢市内の大きなレストランみたいな所に連れてこられたのは午前十時頃だった。どうやらここでロックコンサートやるみたい。
 
(本日十三時より貸切)
 と書かれたメッセージボードの横の扉から店内に入って、奥の席に入って朝昼兼用の食事を採る僕と萌さん。
 食後のコーヒー持ってきたウェイトレスさんに萌さんが談笑。
「萌ちゃん今回早いわね?」
「うん、ちょっとメイクの場借りるね」
「そちらのお嬢さん、お連れさん?」
「うん、ちょっとこの子にメイクするから」
 奥の席とはいえ、僕は壁側。このままだとメイクされる僕が店のお客さんの見世物になっちゃう。
「お姉ちゃん、あの、席替わって…」
「だめ」
「恥ずかしいからあ!」
「だーめ!」
 そう言いつつ僕の前で卓上の鏡とにらめっこしながら、大きな化粧箱を前にまず自分のメイクを始める彼女。
「女って化粧でどう変わるかちゃんと見とけよ」
 そう言いつつ慣れた手付きで眉を書き、長いツケマを付ける彼女。たちまち彼女の顔は目元と唇が強調されたきりっとした顔に変わっていく。ふっくらした顔が不思議とシャープになっていく。ものの三十分程で萌さんのメイクは完成。
「わぁ…すごい、こんなに変わるんだ…」
「じゃ、次杏奈ちゃん」
「あ、あの人が見てるし…」
「ほっときゃいいだろ」
 そう言って手で僕の顎をぐいっと前に引き、髪に大きな化粧用の髪留め刺され、僕の顔にBB塗り始める彼女。普段僕の使ってるのより白っぽい。
 眉描かれて、すっごい重いつけま付けられて、目元にすごく丁寧にアイライン入れられて、シャドウなんて何度も上塗りされてる。鏡見れないから一体どうなってるのかわかんないけど。それに店のお客さん何人かが僕見てるのがわかる。特に若い女の子なんて僕を見て笑ったりひそひそ話ししたり、見世物みたいですっごい恥ずかしい。
 ところが、目元のメイクが終わった頃から女の子達が僕の方を振り返る事が多くなってくる。
「へぇー、あの子がああなるんだ…」
「最初なんか可愛い男の子みたいな子だったよね…」
 ひそひそ声が聞こえるけど、みんなメイクされてる僕を、驚きの感を含めて可愛いって言う声ばかり。
「ルージュ何色だろ?」
「紫かな?」
 相変わらず周りのひそひそ話しの中、僕の口にルージュが引かれると、
「あ、赤だ」
 の声、更にシルバーの星のピアス、赤のマニキュア、ペディキュアまで…。
「終わったよ」
 の声と、同時に昨日行ったロックファッションの店の女性が店の奥から登場。
「あ、萌さーん、どーもー。何か面白い事してるって店の人から…」
 その姿を見た萌さんが思わず吹いて笑う。
「何?今日はメイド服でやるの?」
「え?あ、うん、前回のミニの浴衣、あまりにも浮いて場にあわなさすぎてさー…」
 そう言って下向いて、メイド服のスカートに手を当てて調べる様に体を左右に振る彼女。
「ほら前のレザーのホットパンツの方がよかったよー」
「いや、あれも飽きちゃって…」
 そう言いながら僕達の座ってる椅子の近くまで来た彼女が、いきなり口に手を当てた。
「えー!この子…杏奈ちゃんだよね?昨日買った服着てくれたんだ!わあー!かっこかわいい!」
 そこで初めてテーブルの上の鏡を覗き込む僕、そして目を丸くして口は半開きになり暫くそれに映る自分の顔を見つめる。言葉が出なかった。
(嘘…、信じらんない…)
 普通の男子高校生だった半年位前、妹の本当の杏奈が観てたファッション雑誌でちらっと見たロック少女メイク。の写真に出てくる女の子に良く似た自分が映っていた。
 きりっとした眉に、ツケマとメイクとアイラインでばっちり大きくなった目と、怪しげでちょっと大人びた目元。チークの効果でふっくらした頬、そして真っ赤な鮮やかなラメ入りルージュでふっくらとあひる口になった唇。
「ほーんと!可愛い!食べちゃいたい!」 
 可愛くてきりっとした全くの別人になった僕をいきなりハグするショップの女店員さん。
「あ、胸盛ってるんだ。そうだよね、何も無しでこれくらい胸大きくて、ヒップもっと大きいと文句なしなんだけどなあ…」
 ハグされながら胸とかヒップを触られる僕。ここ数日萌さんに触られまくったせいでもうすっかり慣れっこ。
「え、これで唄うんですか?」
「違うわよ、あたしはキーボード。ボーカルはあたしのハニー。でもかわいいわねー杏奈ちゃん」
 可愛いを連発されて恥ずかしくて何も言えない僕。絶対頭からその度に男の要素が何かしら飛んでいく感じ。
「始まるまでまだ時間あるでしょ?ちょっと外行ってくる」
「行ってらっしゃい。あ、杏奈ちゃん、十七歳だよね?スペシャルサプライズあるかもよ」
「あ、楽しみ。ほら、杏奈ちゃん行くよ」
「えー、何スペシャルサプライズ…こんなで行くの?」
 萌さんと女店員さんの会話の後、まだ慣れない新品のサンダルに少しよろめきながら僕は席を立った。
 
 すごい…軽井沢銀座を山の方に少し歩いただけなのに、結構多くの人がガールズロックファッションの僕と萌さんに振り向いてくれる。あの店可愛いねとか他愛もないお話とかしてる時にも、初めて背中ごしの目線まで感じる様になった僕。うわあ、これたまらない!
 レストランでメイクされてる時も恥ずかしかったけど、僕に興味を持ってチラ見するお客さんの視線にちょっぴりぞくぞくしたけど、暑い日ざしの中、多くの人に注目される気分てもう最高!
 コンサート開演までの時間潰しに入った喫茶店でケーキとコーヒー食べながら萌さんとだべってる時でも、僕は周りのぞわぞわする視線で落ち着かない。
(ちょっとサービスしちゃおっかな)
 そう思いつつ、生足を組み替えたり、髪をいじって遊んだり、おどけたふりしたり、可愛く笑ったり。
 そう、萌さんに教わった女の魔法の呪文(あまえんぼう)を喫茶店の中の他のお客さんが見てる前で、僕なりに一杯試してみた。
 コンサートの開演時間が近づくと、喫茶店の窓越しに多分そこに行くと思われる衣装の男女が軽井沢銀座を歩いていく姿が見える。僕達もそろそろ行こうってそこを後にした。
「え?チームNeco Bang Band?ネコバンバン?おもしろーい!」
 再び訪れたレストランの入り口に書いてあったその名前みて一人大笑いする僕。中へ入ると椅子とテーブルは全て片付けられていて、既に二百人位のお客さんが入っている。
「ふーん、結構人気あるんだ…」
 独り言の様に言う僕。ステージの上では既にベースとリードのギターとドラムの人そして、キーボードにはメイド服姿のあの店員のお姉さんがいて音あわせとかしている。僕がステージに向かって大きく手を振るとお姉さんが軽く手を振ってくれる。わあ、この連帯感というか、お友達感覚とかなんかいいなあ!
 やがて舞台のソデから、冷房効いてるけどこの暑いのに上下皮のツナギ着た、三〇代位の人、Neco Bang Bandボーカル兼ロックファッション店店長兼、キーボードのお姉さんの旦那さんが現れ、いきなりコンサートが始まった。
「えー、なんかすごい上手いじゃん」
「なんか、メジャーデビュー決まったらしいよ」
 コンサート最中小声で話しする僕と萌さん。途中ボーカルの人の巧みな話術で面白い話を交えながらロック、コミック、バラードとりまぜて八曲。最初は手拍子だけだった僕は、何だかその音楽に酔いしれる様になり、体がじんじん感じる様になって、最後は両手を振って足で軽くステップを取りながら彼らの音楽を楽しんでいた。
 コンサートとはいえミニっぽいけど、たちまち終わりの時間が近づいてくる。
「イェーイ、ファンのみんな!ここで嬉しいニュースだ。最後に唄った(No! I'm your master!)て曲だけどさ、俺達Neco Bang Band、この曲で九月からのテレビアニメ、(ヒャッハー!ここから先はにゃんにゃかにゃん!)のオープニングで、なんとメジャーデビューだぜい!」
 その途端割れんばかりの拍手、歓声、口笛が会場に鳴り響く。
「おめでとうございまーす!」
 僕も飛びはねて拍手しながらそう言ってエールを送る。
「なんかさ、三匹のネコとその飼い主とその他で送る愛と感動と笑いのアニメだそうで…いや、俺もまだ観てないからどんなんだかわかんねーけどよ!とにかくみんな応援待ってるぜい!よろしくー!」
 なんかちょっと時代遅れみたいな感じの挨拶だったけど、僕は無意識に歓声上げて手叩いて飛び跳ねていた。
(なんか、あんなカリスマの有る男の人、いいなあ…)
 少し前まで男の子だった自分なのに、そんな事思い始める僕。
「さて毎回恒例のサプライズやろうぜい!初めて来てくれた人で最年少の女の子に生演奏カラオケを二曲プレゼントだ!一番だけだけどな!」
 お客さんの笑い声の中ちょっとしたどよめきの声が混じり始める。
「さて、今回は!」
 ドラムの人の派手なドラムロールが鳴り響いて終わる。
「イェーイ!十七歳!杏奈ちゃん!」
 その時誰かの手持ちのスポットライトで照らされる僕。スポットライトの光が眩しい。何が起こったのかわからずキョトンとする僕。
「杏奈ちゃん、早くステージ行きなよ」
 僕の横でスカート越しに僕のヒップを手で押し出す萌さん。ようやく状況が飲みこめた僕の頭の中は真っ白。そして無意識に女の子らしく両手で口を隠し、腰を引いてしまう。
「杏奈!杏奈!杏奈!…」
 お客さんの声と手拍子の中、頭の中真っ白のままよろよろとステージに上がる僕。
「イェーィ!なんと十七歳!十代のファンなんて久しぶりだぜ!俺っちのファンなんてさ、爺ちゃん婆ちゃんばっかりだと思ってたけどよー」
 おどけた様子のボーカルの人の声に、
「うるせー!」
「ひっどーい!」
 と会場内から声が上がる。ステージの真ん中にスポットライト付きで立たされた僕。生まれて初めての事だからもう大緊張して足が震える。
「大丈夫、緊張しないでさ。ほらステージの前の人なんか、みんな畑の白菜だって思えばいいの」
 そう言っていきなりメイド姿のキーボードのボーカルの奥さんが僕の肩を後ろから両手で添えてくれる。
「ひでーよなこのバンド」
 会場からのそんな笑い声の中
「歌好きなんでしょ?何がいい?」
 メイド姿のボーカルの奥さんにそう言われ、ちょっと困った。男だったから男性ボーカルの曲は知ってるけど…。あ、そうだ。柴崎先生と水谷さんとで女声での歌のレッスンでカラオケでよく歌った、というかあの二人がこのガールズバンドの曲ばっか唄ってたけど…。
「あ、あの…」
「いいのよー、あたしたち芸暦は長いから一通りの音楽はね」
「じゃあ、あの、(ダイヤモント)って曲…」
「ダイヤモンドって、ああ、Princess Princess?」
 その時、
「プリプリー?ふっるいなあ。Kalafinaの(Magia)とかの今の曲とかは?」
 ボーカルさんがちょっと残念がる。
「あー、マドマギのエンディング?あんなの子供観ねーしさ。いいじゃん、Diamonds、あたし好きだよ」
 とうとう大観衆の前で歌わされる事になった僕。
「それじゃあ、杏奈ちゃんで、Diamondsでーす」 
 メイドさんのご紹介で音楽鳴り始めたけど、その音の中で体がぞくぞくして何だか勇気付けられた様な気がする僕。そう思い切って、楽!演技!舞!歌!萌さんに教えられた事実戦しなきゃ!失敗したっていいもん!
 足で軽いステップを踏みながら唄いだした僕。
  https://www.nicovideo.jp/watch/sm6789424 
 一番だけだったけど、唄い終わった時はすごい歓声が聞こえた。不思議な気持ち!僕ヒロインになったみたい!それに最初は軽いステップだけだったのに最後はまるで踊る様に唄っていた僕。とにかく体が軽い!足とか腕の関節とかがこんなに柔らかくなってたなんて。
 それに一番感じたのはいつのまにかヒップでリズム取れる様になってる事に気がついた。体の重心がヒップに移って、くるっと向き直ったり、時に一回転したり。まるでコマみたいになった僕の体。
 今朝2キロ太ったってわかったけど、多分太った分全部ヒップについたのかも!?
「うぉー、いいねーいいねー!次、何がいい?子猫ちゃん?」
 ソデで手拍子とってたボーカルの人も褒めてくれた。と、その時、
「杏奈ちゃん、じゃ次、19 growing up!知ってるでしょ?唄えるでしょ?プリプリの代表曲」
 キーボードのメイドさんが勝手に選曲してくれる。
「またそんな古い歌…」
「いいじゃん!昔あたしがボーカルだった時良く歌ってたじゃん!」
「あ、ああ、結婚前な」
 ボーカルとキーボードでそんなやりとりを聞く僕。でも、あの曲ってステップ踏んだり軽く踊ったりしないと格好つかない曲なのにさ。
「大丈夫、さっきの調子でやればいいからさ!」
 キーボードのメイドさんが励ましてくれるけど、さっきは僕無意識で時には軽く踊ったりステップ踏んだりしてたけど、
(あ、まさか…)
 今思い出したら、さっき唄っててすごく気持ちよかったけど、その時の僕の動きってさ、この数日間の夜、萌さんにベッドの上で散々遊ばれたり女を教えられたりした時の僕の動き…、両脇ぐっと締めたり、足閉じたり、きもちいいって顔したり…。
 気持ちいい時の僕に染み付いた、あの女っぽい仕草が、歌っている時勝手にでちゃった?
 そして何かの気配感じて、ふとドラムの横の大きなスピーカーに目をやった僕の目がそこに釘付け。
(あ、杏奈…)
 その大きな箱の上に杏奈がちょこんと座っていた。いつも化けて出る時はその時僕の衣装を真似て着る癖に、今日は真っ白なサマーワンピース。それに…
(杏奈、笑ってる…)
 幽霊の杏奈が笑顔を一杯に顔に浮かべつつ、足を軽くばたつかせて胸元で小さく手を叩いている。幽霊になってから、そしてそうなる前からも、杏奈の笑顔を見るなんて本当久しぶりだった。
「杏奈ちゃん?さっきからどこ見てるの?え?何?誰かいるの?ひょっとして見えない人が見えるとか?」
「ううん、なんでもないです」
 不審そうに言うキーボードのメイドさんに微笑む僕。
「じゃあ、ワン・ツー・スリー・フォー!」
 わざと音量を大きくしたんだと思う。キーボードが大音量奏でる曲のサビの部分で僕は片手でマイクを高々と上げた。
(杏奈、観ててね)
 そして、さっきより可愛く、そしてちょっとセクシーに僕なりに唄い始めた。
「君がくれたー!靴を履いてーいた!」
https://www.nicovideo.jp/watch/sm6789038

 1曲目が終わった時、
「Request! Go! lyrics second most!」
 二番いってみよーってキーボードのメイドさんの叫び声が響く。結局一番で終わらなくてフルコーラスで唄わされた僕。終わった瞬間割れんばかりの拍手と口笛と歓声の荒!
「いいよねー、お尻小さくてさー」
 演奏終えたキーボードのメイドさんの声がスピーカーから聞こえた。
「イェーイ!ブラボー!十七歳にしてこのセクシーさ。どうよ!」
 ステージのソデからボーカルのお兄さんが飛び出てきて、いきなり僕をお姫様だっこ。ちょっとバランスが崩れて足が客席の方に向かう。
(や!やだ!見える!)
 声には出ないけど頭の中で女の悲鳴上げ、咄嗟にマイク持ったまま両手でスカートの裾を押さえる僕。気が動転していて後で気づいたけどその時僕は頬にキスまでされていた。
「なんだよみんな!俺の時より拍手が多いじゃねーか!」
「いいから、早く杏奈ちゃん降ろせよ!」
 そう言ってボーカルのお兄さんから僕を引き離す様にして降ろさせるメイドさん。
「びっくりしたでしょー。もうバカなんだから」
 ステージの上に立たせた僕に彼女が声をかけてくれた。ところがその瞬間僕の耳元でメイドさんが小声で話しかける。
「杏奈ちゃん、今晩あたしの部屋に来ない?いっぱいいい事してあげる…」
「え、いい事って…?」
「あんな事やこんな事…」
 とその時、すかさず横で、
「だーめ!杏奈ちゃん今夜先約があるから」
「え、先約って、あー萌ちゃんずるーい!」
 いつの間にかステージに駆け寄ってきた萌さんが意地悪そうに舌を出ししてメイドさんから僕を引き戻す。
 え、あの僕、別に構わないけど…あ、そうか僕のあそこって、まだ女じゃなかった…。もう僕ちょっと危なくなってきてる!
「それじゃ!今回はこれでお開きだ!次回よろしく!杏奈ちゃん、ちょっと事務所に言っとくぜ!いい子みつけたってな!」
 軽く締めっぽいフレーズを演奏したかと思うとステージのライトが切れ、再び歓声と拍手の渦。そして僕はどうなったかっていうと、もう集まったお客さんから褒めて褒めて褒めちぎられて。
「一緒にバンドやんねーか!ボーカル探してたんだよ!」
 みるからにヘビメタバンドとわかる四人組から声かけられたり。もう頭が真っ白になって何聞かれたか何て答えたかもうぜんぜんわかんない!そして気がつくと僕は萌さんに手を引かれて会場のレストランを後にして駐車場へ向かって小走りに走っていた。
 
「あー、楽しかったけど、すっごい疲れた」
 萌さんの家というかラブホを改装したお城みたいな家に戻り、メイク落としてシャワー浴びて、ショーツとTシャツ一枚になって、ベッドに寝転がってる萌さんにお尻むけて突き出す様にして大きく背伸び。なんかヒップがずっしりしてきて体がそれ中心に動く様になってきた感じがする。
「やっぱ、ブラって窮屈だし蒸れるし、面倒…。付けてない方がいい…」
 そう言いつつ僕は振り返って萌さんのいるベッドにダイブして、慣れた足取りでペタン座り。と僕の目線に萌さんが持ってるあるものが二つ飛び込んでくる。それを目にした瞬間僕はちょっと体を引いて両手で口を覆ってしまう。最近驚いたりしたらそんな仕草を無意識にしてしまう僕だった。
 それは、チョコレートそっくりの色だったけど、数ヶ月前僕の下半身に付いていた物の模型。
「これ、何かわかるよね」
「う、うん」
 片方の手に一つずつそれを手に取って萌さんが続ける。
「初めてAV出演する女の子の教育用。怖くない様にチョコレート色にしてある。大丈夫ちゃんと洗ってあるからさ」
 そう言って彼女は片方を僕に手渡そうとする。不思議だった。以前はそんなのたとえ模型だったとしても絶対触りたくなかったのに。ちょっと嫌な気分だったけど恐々それを受け取る僕。
「女として幸せに生きていく上で、実はすごく大切な物。ちょっとそこで寝てみなよ」
 萌さんの隣で何されるのか怖かったけど、恐々彼女の横に寝る僕。そんな僕の履いてるショーツの上から丁度又の真ん中の部分を手に持ったそれでぐいぐい押す萌さん。
「ここにこれが入るんだぜ」
「え、ここに?」
 それは丁度僕の退化してぺちゃんこになった精巣の上。下半身も変化してきたせいか知らない間に体の真ん中にそれは移動していたみたい。
「あ、ちゃんとその前に彼氏に愛してもらう事。そしたらここに出来た割れ目からとろっとした液が出てさ。彼氏の物が入りやすくなる。こうしてどんどんと入っていくからさ。最初は処女膜破れるから痛いけど…」
 そして意地悪そうに笑う彼女が続ける。
「彼氏の腰が動く度にこれがお腹の中で暴れる。杏奈ちゃんの口から自然と可愛い悶え声が彼氏の動きと一緒に漏れてくる。ここで声が出ない女の子なんていない。先っぽだけの男の感じ方と全然違う。うわーんとなって体全体が感じる…ちょっと聞いてる?」
 口をうっすら開けて呆然としてその話を聞いてる僕に問いかける萌さん。
「う、うん聞いてる…」
「まあ、あたしは男と女両方経験してるからさ。早乙女に行く前、中学の時既にね」
 そう言いつつ僕の髪を軽く撫でながら彼女が続ける。
「もう、天国よ。こんな気持ちいい事この世の中にあるなんて信じられないって感じ。人によって感じ方違うけど、空飛んでるみたいってのが多い。頭の中真っ白になって、あそこが熱くなってさ」
 そう言いながら目を瞑って何か思い出す様に彼女が続ける。
「男はさ、終わったら次に行くのなかなか大変だけど、女はそれがずーっと続くの。何度でもして!ってさ。近いうちに杏奈ちゃんも経験するんでしょ?どんな顔してどんな声上げるのか、楽しみだし、観て見たい気がするわあ」
 そっか、僕って、そうなっちゃうんだ。
 一息ついて彼女が続ける。
「で、戻るけど、フェラってわかるよね。彼氏の物を口で遊んであげる事。好きじゃない人もいるけど、覚えておいて損は無いから。テクニックだけ覚えておきなさい」
「えー、僕、ちょっとそれだけは…」
「模型でしょ。はい、やってみる!」
 手渡されたそれを両手で背中に隠す僕に萌さんが微笑みながら言う。
「杏奈ちゃん。これはあたしが最後に教えてあげる事。いわば女としての最後のレッスンみたいなもの」
「え、そうなの?」
「まあ、良く頑張ったわ。最初はもっと長引くと思ったけどさ。やっぱり卵巣と子宮がお腹に入ってると違うものね」
 再び頭を軽く撫でてくれる彼女。
「あたしが教えてあげるのはこれが最後。明日は頑張ったご褒美あげるから。最後のレッスンちゃんとやろうね」
「あ、はい…」
 そして、彼女の指示通り、特定の場所を指でくすぐったり、手で軽く掴んでしごいたり。
「じゃあ、口に入れてみて」
 その言葉に、数回大きく深呼吸して目を瞑って
(あ、僕とうとうここまできちゃった)
 と思いつつそのチョコレート色の物を口に含む僕。
 でも、一旦口に含んでしまうと、もうなんでもなかった。あ、こんな感じなんだって。そしてみっちり女としての最後の萌さんのレッスンを受けた。
 更にその後、
「そこで背中ぐっと反って…」
「背中に手を回してぐっと引き付ける…もっと強くしてって」
「彼の頭を両手で抱いて、ぐっと胸に引き寄せる」
「もっと可愛い流し目できないの?私を愛して、私だけ好きになって」
「ほら、あ・ま・え・ん・ぼ・う」
 萌さんの最後のレッスン。だんだん女っぽくなっていく自分が何だか可愛くて、そして楽しくなってきて、最後はもうお互い笑ったり、きゃっきゃっ言いながら彼女の言われるままになってた僕。
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