第21話 「成功する女の呪文は、あまえんぼう」~僕が妹になるってめちゃ悲しい?」

文字数 11,390文字

 まるで木で出来たログハウスみたいな部屋に大きなダブルベッドとドレッサー。そしてベッドの前に大きな鏡。この前真帆ちゃんと入ったラブホとはまた違う。
「今のラブホってこういうのが多いんだよ。ブティックホテルって粋な名前になってるけど」 
 ラブホっていろんな部屋があるんだ。今は萌さんの私室になってるみたいだけど、想像してたのとは全然違って落ち着ける部屋。
「とりあえず服脱いでベッドの上座れ」
「え?」
「あたしを男だと思ってさ。言うとおりにしろよ、女同士なんだろ?」
「え、あ、うん…」
 僕はしぶしぶ着ているTシャツに手を前にクロスして自分では女らしく脱ごうとした。けどその様子を片手で顔に手を当てて呆れた様な声を上げる萌さん。
「なんだよそれ、全然なってねーじゃん!」
 シャツの裾に手をかけたまま呆然とする僕に続けざまに萌さんが言う。
「お前なー、自分は綺麗だ可愛いんだって事を常に男相手にアピールすんだよ!もっと可愛く色っぽく脱げよ!」
「え、う、うん…」
「かーっ!ここから教えなきゃいけねーのかよ…」
「萌さん、さっきから怖い…」
「お前さー、女同士の会話って聞いた事ねーのかよ?相手が男と女じゃ話し方とか違うんだよ!それにあたしはお前を男だと思ってないし…」
 息巻いてた萌さんがふっと言葉を止めて今度は穏やかに僕に言う。
「ま、まあ、そーか、そーゆー事か…女は裸になると一切無防備になるからさ。自慢の可愛い体を見せてあげるから、何もしないでねって思いながらさ。わかったよ。服の脱ぎ方から教えてやるよ」
「あ、はい…お願いします」
「おまえさー、仕方なく女のふりしてるだけだろ?時間無いし、こりゃ徹底的に男消すしかねーな」
 そう言われてはっと息を呑む。確かに僕女のふりをしていた。コスプレの時は女のふりすればみんながちやほやしてくれたから。以前田柄さんの前では、なんか嫌われてたらしいからこびを売るつもりで。でもあれは今思えばその為の手段であり、女を演じたって言えばそうかもしれない。 
「それとなあ」
 いきなり僕の両肩を両手でがっしり掴んで萌さんが続ける。
「今後一切の口応えとか抵抗とか無し!やったら即あいつの所に送り返すからな。わかった?」
「はい…」
 小柄で可愛い女の子みたいな要旨の萌さんにそこまで言われても、もう僕は何も抵抗出来なかった。多分頭の中から反発心とかがもう消えちゃったんだろうと思う。
 
 着ているTシャツを脱ごうとした僕だけど、その前に胸元に手を当てて中を覗き込み、自分の胸に着いた女だけの下着のカップを指先でめくる僕。お風呂とかで女の子達に貧弱だけど、バストと認められた僕の赤黒く大きくなってつんと尖ったそれを見ながらため息をつく。
 と、カーテンのかかった部屋の大きな窓ガラスの前で僕に背を向ける様にしている萌さんに気が付いた。彼女は一瞬僕の方に背中越しにちらっと流し目を向け、後ろ手にミニスカートのホックに手をかけストンとそれを足元に落とす。シルクみたいな生地のショーツに包まれた大きくて丸いヒップを少し振り気味に今度はゆっくりブラウスのボタンに手をかけ、体を揺らしながらそれを脱ぎ、両手をボブヘアにかけてばさっと髪を整える様にすると、はらはらと流れる様に髪が動く。そして彼女の手は後ろ手にブラのホックを外すとするすると生き物の様にブラが外れていく。
 すっと彼女はそのまま横向きになり、手にしたブラを床に落として、上体をそらして背伸びすめと形のいいバストがつんと上を向き、可愛いヒップが強調されて…。
 太陽の明かりのシルエットの様なその人影が僕の目を釘付けに。体の形とか体と手足の動きが全て丸み帯びてて、
「…綺麗…」
 思わず僕の口からそんな言葉が出る。どちらかと言えば可愛い系の萌さんだけど、只服を脱ぐ仕草だけでこんなに綺麗だって思わせるなんて。
「どう?これが女よ。あんたもいずれこんな体に…て、まだ脱いでなかったのかよ?」
「あ、はい…。綺麗な体だなって思って…」
「綺麗たと思ったか?押し倒そうって思わなかったの?」
 萌さんの言葉に僕は彼女を見つめながら軽くうなずく。
「そっか、少なくとも男の感覚じゃなくなったんだ。じゃあ大丈夫か」
 白のレースのショーツだけの姿になった萌さんがそう言いながら、ベッドの上の僕の足元にペタン座り。
「お前さあ、事の重大さわかってる?今のお前ってさ、只の女装コスプレーヤーと同じだぜ。9月になったらお前女子高校生だぜ?今のままで女の中に放り込まれてちゃんと女生活出来ると思ってんの?」
 そう言われて僕も確かに不安になってた事に気づく。女の子のふりはある程度出来たけど。
「いきなり男相手だとお前も嫌だろ?」
「え?」
「女にしてやるよ」
「え?え!?」
 そう言うと萌さんはいきなり僕の着ているTシャツの裾に手を入れ、そのまま僕の着けてるブラに手をかけてくる。彼女の冷たくてつるつるした指がブラのワイヤーの下に。先っぽだけ女になった僕の胸に一瞬それがこすれる様に当たる。
「いたっ!」
 そんな僕の声に動じずに、僕の両胸のバストトップを指で触り始める萌さん。
「ふーん、先っぽだけはもう女なんだ。どうしたんだよ。今のお前にレズなんて怖くないはずだろ?それに若い女同士の百合やレズなんて珍しくないぜ」
「あ、あの、僕ちょっと読んでた、あの、クリオネ…」
「あー、(クリオネの誘惑)か。あいつが好きだからあたしは好きじゃないけど、中身は知ってる。あれってさ、相手の女にこーすんだろ?」
 Tシャツの中に両手を入れ、そのままやや乱暴にそれを剥ぎ取る様に脱がせる彼女に、僕はそのあまりの急な事に言葉も出ず、只彼女の顔を怯えた様子で見つめるだけだった。
「あれってさ。押し倒した相手のワンピの裾に手入れてさ、そのままぐーっと脱がす様にしてさ、相手のおっぱい触って、そしてこう…」
 そう言うと一度僕のTシャツから手を抜き、今度はゆっくりと再び僕の着ているそれの中に手を入れ、ブラの上に両手を添えてそして、
「ち、ちょっと、萌さん!ううっ」
 彼女の口が怯えた僕の唇を包む様に…。僕の、僕のファーストキス…
 そのままTシャツを脱がされ、胸に開放感を覚えた僕。フルーツの香りと柔らかい彼女の胸、そしてねっとりした彼女の体が僕を包み込む様に襲い掛かる。
 すごい、こんなすべすべして柔らかくて、おっぱいなんてまるでマシュマロ…信じられない!これが女の体なんだ。しかも萌さんて元は男の人のはず…。
「おー、水着のブラの跡着いてんじゃん。奴の話本当かどうかわかんなかったけど、水着は経験済みか。しかもビキニ。でも体はまだまだ硬いイメージ有るし。なんとか女に見えるって感じか」
 僕の唇から口を外した萌さんが僕の体を調べる様にして言った。
「わかってる?絶対抵抗すんなよ」
 そう言って彼女は僕の履いてるショートパンツに手をかける。
「あ、あの僕まだ…」
「知ってるよお前の事。卵巣と子宮入ってるけど、あそこはまだ手付かずなんだろ?ショーツだけはそのままにしといてやるよ」
「ちょっと!萌さん!」
「抵抗すんなって言ったろ!」
 か弱そうな女性一人跳ね除ける力も出せなくなった僕。もうほぼ女の感覚になった太股につるんとした感覚と共にショーパンがするすると脱がされていく。
「クリオネだと、最初こうするんだっけ」
 僕の着けてるブラを器用にするすると脱がせた彼女の目に僕の女になり始めた胸が露になり、恥ずかしさで顔を真っ赤にした僕が思わず両手を顔に当てる。と、バストトップに何かねっとりした感覚。
「ちょっと!萌さん!」
 顔から手を外し彼女の両肩に手をかけて逃れようとする僕だけど、たちまちその手にかけた力が抜ける。
(これって、何!?)
 女の子になってきたバストトップを口で含まれ、舌で優しく愛撫される感覚に僕は十秒もたたないうちにとりこになってしまう。体の力が抜ける。いきなりベッドの上で背中が反っていく。ヒップがもぞもぞと動いて、足が萌さんの足にからみ始めて、そして…
「あ、ああん!」
 口からかってに言葉が漏れ、女みたいな言葉が出た事に気づいた僕は恥ずかしさで再び顔を両手で覆う。そして、僕はとうとう禁断の世界にはまっていった。
 
 どれくらいの時間がたったかわからない。ようやく僕から離れた萌さんはシャワールームに行ったらしい。僕はというと、体中が痺れて火照って意識も朦朧として目もうつろになり大きな呼吸して動けないでいた。
 僕の体のいたるところにいつのまにか出来ていた女の性感帯って言われる所、耳、首筋、脇、胸、お腹、太股の内側、手足の指先まで全てを彼女に愛撫しつくされ、途中気を失っていたのか思い出せない。ぼやける目でようやく捉えた部屋の時計はもう夕方五時を回っていた。
 ショーツ一枚でシャワールームから出て来た萌さんを見て、何故か顔をそむけ両手に持ったシーツで胸を無意識に隠す僕。
「夜ピザでも取るか?」
 長い時間僕を苛めていたはずなのにけろっとしている萌さんの声に、胸にこそこそとブラを付け顔を背けたまま軽くうなずく僕。
 暫くしてノースリーブに可愛いショートパンツ姿で萌さんがが大きなピザの箱二つをコーラの缶と一緒に部屋に持ってきてくれた。その中身は大きなサイズのポテマヨピザとフルーツとカスタードクリームのピザ。
「萌さん、僕こんなにたくさん食べれない」
 過去生きてる時の妹の杏奈とポテマヨピザ食べた事有ったけど僕は二切れ食べるのが精一杯だった。
「そう?」
 軽く受け流されてテーブルの上に置いたその一切れを摘む彼女。
(あんまりこれ好きじゃないんだけど)
 そう思いながら僕も一切れそれを口に。でも、
(うそ!これこんなに美味しかったっけ?)
 お腹すいてたのだろうか、たちまち次の一切れを手にして同じように平らげて、そしてフルーツピザを手にする僕。
「美味しい!すごく美味しい!」
 ジャガイモとマヨネーズのコンビのほくほく感と、フルーツとカスタードクリームのなんともいえない甘さ!口に入れる度にもっともっと食べたいって。
 萌さんと丁度半分こ。大きなピザ一枚分をコーラと一緒になんなく食べきってしまう僕。
「今のお前の体ってさ、脂肪分欲しがってるんだよ」
 そう僕に言った後、
「あー食った食った」
 と言いながらベッドの上に飛び乗り、僕の見てる前でブラとショーツだけの姿になり、テレビのリモコンパチンと入れて何かのドラマを見始める萌さん。
(可愛くて、綺麗)
 服を脱いでる彼女の大きくて丸くて可愛いヒップと、時折覗く大きくて可愛いつんとしたバストを僕はじっと見ていた。
(僕も、いつかあんな体になるんだ)
 そう思って自分の胸に出来た小さなバストに手を当てる僕。と、その時
「杏奈、人生勝ち組になる女の心得知ってるか?」
 初めてお前じゃなくて僕の女の名前で呼んでくれた萌さん。
「よく覚えときなよ。そして一生忘れるんじゃねーぞ」
 僕の方を見ないでテレビの方をじっと見ながら萌さんが続ける。
「(喜・怒・哀・楽)と(ア・マ・エ・ン・ボ・ウ)と、(て・に・を・と・の・わ)」
「え、それなんですか?」
 目をぱちくりさせて聞く僕にあいかわらずテレビを観ながらリモコンカチカチやる彼女。
「生まれつきの女だと、杏奈位の年頃になると、わかる奴はわかるんだけどさ。て・に・を・と・の・わは簡単だよ。女が喋ってる時、語尾がこの六つの時、必ず伸ばすだろ?てぇーとか、にぃーとか、をーとか、とーとか、のーとか、わ(は)ーとか、さ」
 何かのアニメみたいなのにチャンネル合わせると、手を大きく伸ばして伸びをしてベッドに仰向けに寝転がる彼女。
「喜怒哀楽を思いっきり楽しむ事。笑ったり手を叩いたりして喜んで、嫌な事されたらおもいっきり怒って、悲しかったら大声で泣いてもいいし、楽しい事はとことん楽しむ事。何もする事なかったら常に面白い事とか楽しい事を頭に浮かべておく事。それから…」
 ふっと僕の方に顔向けて続ける彼女。
「アマエンボウはな、相手に対して。特に男に対してだけどさ、愛、哀、甘え、舞、笑顔、演技、謀略、冒険、褒め、嘘、歌、売込。これの頭文字をひっくるめた呪文。これを日頃から口にしてろな」
「え、甘えとか、謀略とか、嘘もそうなの?」
 ちょっと驚いて尋ねる僕に顔に軽く手を当てて続ける。
「あのなあ、ばれない嘘は嘘っていわねーんだよ。甘えは自分を可愛く見せる事。それにさ、お前女になるんだぜ!何も考えないで女になったらさ、頭はぼーっとするわ、計算弱くなって感情的になって的確な判断できなくなるわ、前しか見えなくなるわ、怖がりになって人から、特に男から何か命令されたら断れなくなるわ、本当大変なんだからさ。謀略ははかりごと。ほらどっかの誰かも言ってたろ?謀りごと多くは勝ち、少なくは負けるってさ。女は体力無い分、普段から知恵と口使って生きていかなきゃなんねーんだよ」
 ベッドから起き上がってその端に腰掛けて更に続ける萌さん。
「男の時と違ってさ、女になったら武器は、おっぱいとかあそことかあるけど、効くのは目、鼻、耳、感そして」
 一息入れて尚も続ける彼女。
「一番重要なのは、口。そして知恵、そして女である事」
 そう言って立ち上がって僕の前に座ってブラ越しに僕の両胸に手をあてて言葉を続けるス彼女。
「あたしもさ、早乙女に入って女の体になりはじめて、丁度今の杏奈位の体になった時なんて今言ったあたしの言葉なんて考えもしなかった。女の体と心になるにつれて、女ってこんなにぽちゃぽちゃで力無くて、頼りないか弱い生き物になるなんて思わなかった。だから今のうちからあたしが言った事心がけろな。まあ、早乙女にいたら真琴先生とかが教えてくれるけどさ」
 今度は息がかかる位僕の顔に可愛い自分のそれを近づける萌さん。
「いい?女の世界は過酷だからね。少しでもいい男見つけて奪い合う世界だからね。(あまえんぼう)を駆使する事。もし仲のいい女友達と同じ男を好きになったらさ、たとえその友達と絶好してでも容赦なく男を取っていいからな」
 いろいろ忠告してくれる萌さんだけど、半分わかんない僕。だって、僕まだ頭の中はたぶんまだ男だと思ってるし、男好きになる感覚って正直わかんない。只一瞬、
(柴崎先生と仲悪くなったのは、このせいなの?)
 と思ったりする。
「僕もシャワーいいですか?」
「あ?ああ、いいよ」
 汗とピザの匂いを落としたくて僕はそのままシャワールームへ。ブラとショーツ外してからあっと気づく僕。
「萌さん、シャンプーとかお借りしていいですか?」
 咄嗟に置いてあったバスタオルで体を隠してそう言う僕。
「何?貧乳の癖に。女の恥じらい出てきた?」
「あ、そのなんとなく」
「好きに使っていいぜ」
「はーい」
 不思議、なんだか体が軽い。わかんないけど何か吹っ切れた感じがする。
「あ・ま・え・ん・ぼ・う♪」
 唄う様に独り言呟きながら、そこに有ったボディーソープとか、シャンプーとかリンスとか。落ちかかっていた薄い化粧を落として、ボディーミルクとかローションとか。そして、
(あ、萌さんと同じ香りになっちゃった)
 さっきベッドの上で僕をもてあそんでくれた彼女と同じそれが鼻をくすぐる。わからない、なんで?何この嬉しいっていうかうきうき感!あ、何か僕の体ではじけちゃった!
「あ・ま・え・ん・ぼ・う」
 体にバスタオル巻いて勝手に節付けてスキップする様にバスルームから出てそして、
「ごろにゃん!」
 そう叫んでベッドの上で寝転んでテレビドラマ観ている萌さんの横にダイブ!なんでそんな事したんだろう?うううんそれが今の僕の気持ち!
「な、なによ!気持ち悪いなあ!」
「だって萌さん、いい人なんだもん」
「わかったから、続けるよ。さっきの」
「え?え?」
 嘘!僕ゆっくり出来ると思ったのにさ!
「今度は感じたらちゃんと声出せよ」
「出せって、ど、どんな風に?」
「考えなくていい、感じたままでいいからさ。過去あんたの観たAVの真似なんかしなくていいから。あ、その前に…」
 そう言うと上半身を起こして自分のショーツに手をかける彼女。
「え、あ、ちょっと!萌さん…」
 自分の又を大きく広げ、そして股間の女の大事な部分を僕に向ける彼女。言葉も出ず唖然としてそれを観る僕。
「よく観とけよ。これが女だからな。女の体の中で唯一グロテスクな部分。仕事でも胸は平気で見せてもここだけは女はなかなか見せない理由わかるだろ?」
 写真では見た事あるけど、本物見るのは初めてな僕。多分ちゃんとした男の時だったら僕どんな表情してたかわからない。僕の目にはまるで保健体育の教科書にイラストで描かれている様なまるで見本の様なそれだった。
「女のあの部分て、こんななんだ」
 もう男としての性欲がなくなっちゃったんだろう。ふーんそうなんだとしか思えない。
「杏奈のあそこも、いずれこうなるんだからな」
 手にしたショーツに再び足を通しながら萌さんが続ける。
「只あたしのは早乙女で作られた半分人工のものだけど。本当の女ってここまで綺麗にまとまってないからね。男の最終目的はここに自分の物入れるだけだからな。でも女はそれが始まりさ。赤ちゃん出来たら生んで育てて大人になるまで面倒みなきゃいけないんだからな」
 ショーツを履き終えて再び僕の横でごろんと寝転がる彼女。
「女って大変なんだぜ、だからサポートしてくれる男が絶対必要なんだ。杏奈もさ、もう男には戻れないんだから覚悟しとけよな」
「う、うん…」
 女のいい処だけしか多分見てなかった僕にとって、初めてつきつけられた現実。
「だから、お前を愛してくれるいい男探して、取り入って、寄生させてくれる人を見つけるために必要な事を今教えてやるんだから」
「寄生って…」
「わかってる?女って男の物になるんだよ」
 そう言って萌さんは僕の付けてるブラに手をかけた。
「じゃ、もう一回」
「あ、あの、萌さん!」
 彼女の柔らかくてふわふわの唇が再び僕のそれに当たる。彼女に抱かれながら再び僕はベッドに転がった。
 
「やっと声が出る様になってきたか。じゃ今日はこれ位にしとこか。明日も朝からこれだかんな」
「あ、あの僕…」
 時間はもう夜のもう夜の十二時近く。へとへとに疲れきった僕。出る声は、「あ」とか「あん」だけだったけど、それでいいみたい。
 萌さんに女を教えられている僕の脳裏に、時折「クリオネの誘惑」の二人のレズシーンが浮かんできたけど、もう一度そのシーンを思い浮かべようとして、僕は気を失ったみたい。
 気が付いたらもう翌朝。時計見ると八時。夢も観ない程ぐっすり寝ていたらしい僕だけど、何だろこの爽快感!こんなさわやかな朝なんて生まれて始めてかも!
 まだ寝ている萌さんを尻目に僕一人でシャワー。あれ?僕ってこんなだったっけ?頬がぷにぷにして、肌がこんなに白くて、シャワーの湯が水玉になって僕の体を流れていく。なんだか、その…
 シャワー室から出たら既に萌さんが起きていた。
「おはようございまーす」
「え?ああ、なんか機嫌よさそうじゃん?」
「う、うん、ちょっとね」
 顔を赤らめて返事する僕。
「朝、バイキング行くぞ。たくさん食べていいからさ。杏奈の体にはもっと女の肉が必要だし」
「え、あ、いきまーす」
 そういえばすごくお腹が空いていた事に気が付く僕。
「遠慮すんなよ。代金はどうせあのバカ(柴崎)から取り立てるからさ」
「あの、萌さん。可愛いのにもう少し可愛い言葉遣いで…」
「なんだよ、まだ女にもなってないのにあたしに説教すんのか?」
 意外にもそう言った後、微かな笑顔を僕に向ける萌さんだった。
 萌さんの車で真夏の朝の軽井沢の森林抜けて大きなホテルに朝ご飯食べに行く僕達。でも、なんだろ?朝の空気ってこんなにすがすがしかったっけ?空ってこんなに青かったっけ?森の緑ってこんな綺麗だったっけ?なんだか別世界に来たみたい!それにこんな事で感動する僕だったっけ?

 萌さんの城に戻ったのは昼過ぎ。
「今日は昨日あたしがあんたにしてあげた事、逆に杏奈にやってもらうから」
「え、だって僕ってさ、女の子同士の事覚えに来たんじゃなくて…」
「じゃ、男呼ぶか?」
「あ、だめ絶対…」
「どっちなんだよ、ったく…」
 暑かったと言いながら早くも上半身ブラだけになる萌さん。
「じゃ、いきます…」
 ショーツとブラだけになった僕が彼女の胸に手をやろうとした時、その手に軽く萌さんの手が当たる。
「何やってんだよ!最初は前戯からだろ!」
「あ、はい…」
「いい?杏奈がこれからなろうとしてる女ってどんな生き物なのか、自分の体で覚えるんだよ」
 僕はうつむいたまま軽くうなずくと、彼女の髪に手をあて、唇を萌さんのそれに重ねた。
 途中休憩したり萌さんのお話聞いたり、萌さん推薦のエッチ動画観て
「これは演技、これは本当に感じてるな」
 とかの解説とか聞いたけど、とりあうず終わったのはもう夜七時。もう僕くたくただった。
「ほら夕飯、バイキング行くぞ」
 とか誘われたけど、もう僕動けない。仕方ないからと中華の出前を取ってくれた萌さん。
「大体わかったろ?女ってものがさ」
 疲れている上に何だか頭がおかしくなりそうな僕。普通の男だったならこんな体験願ってもなかっただろうけど、そりゃすごく気持ちよかったけどさ。女の体ってこんなにねっとりして柔らかくて、おっぱいの先を口で含んであげたり、もう見慣れた女の子の秘部を触ったり口でくすぐったりしたときの萌さんの声。嫌らしさなんて全く無くてかわいい!もっとしてあげたいって感じで。
 でも、そうなんだ。これが僕の未来の姿なんだって思うと、ちょっと怖い。
 なんだかんだ言いながらもチャーハンとラーメンを瞬く間にたべちゃった僕。一息ついて、シャワー浴びて…。
「杏奈、続きやるぞ。今度はあたしが遊んであげるから、さっきあたしがやった通りに悶えてみな」
「えーっ、僕まだ…」
「いいからやってみな。昨日から観てるけどさ、あんた順応性あるから。まあ、もう女の生殖器がお腹に入ってるもんな…」
 そう言って再び僕に襲い掛かる萌さん。ちょっと僕頭が変になりそうなのに、これ以上そんな事…、あ…。
 
「そろそろ終わりにすっか」
 萌さんの声にはっと気がつく僕。え?僕寝てたの?気を失ってたの?違う。気を失ったり気がついたりの繰り返しだった様な気がする。
「やっと女っぽくなってきたか」
 意識ももうろうとしてたし、彼女の言葉の意味がわからない。彼女に責められて、何か声出した記憶ある。部屋の時計って、え?もう夜十二時回ってる?嘘!
「ねえ、僕ってどうなってたの?」
「半分寝てたんだろ?無意識だと思うけどさ、ずーっと声出してたよ。杏奈の悶え声なかなか可愛いじゃん」
 やばい!僕そんなの全然覚えてない!
「じゃ、あたし寝るわ。あんたを女にするのにもうくたくた…」
 僕、何やってたの?どんな声出してたの?
「あ、明日からちょっと違う事するから、早めに寝ろな…」
 そう言って一分も立たないうちに寝息立てる萌さんだった。

 次の日から数日間午前中は軽井沢の散策とかいろんな女の子向けの博物館とか、服やグッズの店とかを巡り、昼はトレーニングジムで汗流して、そして夜は萌さんとの秘密トレーニング。
 軽井沢銀座のショッピングモールで当座の服とかを買ってもらう僕。若い女の子ばかりの店に少しは慣れたけど、やっぱりこれだけ大勢の女の子に囲まれるとちょっとね。
「友達じゃない女はみんな敵だと思っとけよな」
 そう言いつつ僕の為に萌さんの選んだ服とかスカートとかは、派手だったり、カラフルだったり、レースごてごてだったり…。
「萌さん、こんなの僕絶対合わない」
「あたしが杏奈に似合うって思ってんだから言うとおりにしろ」
「えー…」
「女は自分の着たい物じゃなくて自分に似合う物着るんだよ」
「下着とかはいいよ僕…」
「なんだよあんなガキみたいなのばっかり持ってきてさ。とっとと捨てちまえよ」
 流石にセクシー系ではないけど、派手だったりレース一杯付いてたり。僕一人だと絶対選ばないものばかり選んでくれてさ…。しかもブラのサイズがB!
「萌さん、これ、カップが余るんだけど…」
 女性用の試着室の中でブラのカップに指を入れて困惑する僕。でも、
「いいんだよそれで」

「たくさん食べて一杯運動する。そしたら女として必要な所に脂肪つくしさ、胸が大きくなっても高校の体育も平気だし」
 最初にジムに連れて行かれた時、そう言いながら僕用のトレーニングウェア買ってくれる萌さん。
、これってそんなに邪魔なの?萌さんの大きくて可愛い胸を見たり触らせてもらったりした僕にまだその感覚がわからない。只、女のそれになり始めた僕の胸に、いずれこんな大きくて柔らかいのが出来る事とか、それが揺れる感覚とか、なんとなしにわかる。
 圧倒的に女性の多い洒落たトレーニングジムの人で混雑する更衣室。ある程度慣れたけどやっぱりまだ緊張する。
「おどおどする位ならいっそ上マッパになって着替えてみろ。お前の胸まだ小さいけど立派な女の貧乳だから」
 小声で言う彼女の貧乳って言葉に何故か初めてむっとする僕。しかたないからえいっと思ってスポーツブラ付ける時そうしてやったけど、お隣にいた女子大生位の女の子数人は全然僕に見向きもしなかった。
 よかった。本当に僕の胸、女で通るんだ。まあ、膨らみこそ無いけどもうバストトップは赤黒くて大きくて、立派に円筒形になってたけどさ。
 と思ってた時、
「みどりおねーちゃん?」
 いつの間に来ていたのか、水着姿の幼稚園位の女の子がそう言いながら、だっこをせがむ様に前に来て僕の胸元に両手をあてる。僕がちょっと困惑してると、
「あ、ごめんなさーい」
 隣のロッカーの列の影からその子の若いお母さんらしき人がショーツ一枚で胸を片手で押さえながらそう言って駆け寄ってくる。
「ごめんなさいね、うちの姪っ子と間違えちゃって」
 そう言って同じくショーツ一枚の僕の手元からその女の子を抱き上げながら、僕の足元のまだ袋から出していない萌さんに買ってもらったウェアをちらっと見る彼女。
「あ、ここで売ってるウェア。ここ初めてですか?」
「あ、はい…」
「ここ、いいとこよ。あ、でも本当にみどりにそっくりだわ。おっぱいの形とかさ」
 そう言って笑いながら僕の貧弱な胸元をつんと触る彼女。
「この子と一緒によくお風呂とかに入ってるのよ。まあ、みどりが来たら会わせたい位だわ。そっくりな女の子みつけたよってね」
 一方的に喋った後その子を胸に抱いて軽く会釈してロッカーの隣の列に消えていく彼女。
「な、もうお前な、お・ん・な、なんだよ。自信持てよ」
 さっきから横目でその光景みながら苦笑いしていた萌さんがそう言って僕の肩を叩く。

 いろんな所でご飯食べて、森の緑の綺麗な景色を一杯観て、綺麗な服、アクセ、コスメ、人形、オルゴールとか一杯観て、一杯ジムで汗かいて、夜は女のお勉強。頭の中にどんどん女としての感覚がぎゆうぎゅう詰めこまれていく僕。
 萌さんともいつの間にか、
「杏奈ちゃん」
「お姉ちゃん」
 と呼び合う仲になっていく僕達だった。
 ある日の夕方ジムからの帰り道。
「ちょっと寄り道」
 そう言って萌さんと一緒に行ったのは軽井沢銀座の脇道にあったちょっと変わったブティック。一目その様子を見るなり僕は店の入り口で一歩引いた。それはどう見てもロックとかパンクとかの音楽やる人向けの衣装売ってる店だった。
 
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