第23話 「二十四時間だけの彼氏」~僕が妹になるってめちゃ悲しい?~

文字数 17,318文字

 翌朝、萌さんの家というか事務所兼女の子トレーニングジムというか、その前に一台のツーシーターのオープンカーが停まる。そこから出てきたまるで俳優さんみたいな男の人。
 少し日焼した肌にマリンルックのシャツ、白い夏用のジャケットに紺のスラックス。
「俺、市村っていいます。今日一日よろしくー」
 そう言って白い歯を見せた彼に握手されて、まだ完全な女になってないはずなのに頬をちょっと赤らめる僕。
「今からきっかり二十四時間、市村君は杏奈ちゃんの彼氏だからね」
「あ、杏奈って、言います…」
「杏奈ちゃんか。可愛い子じゃん」
「じゃ、市村君、今日一日お願いね」
「OK。じゃ杏奈ちゃん行こうか」
「え、どこへ…?」
「デートだよデート!」
 萌さんに買ってもらったよそ行き風のサマードレスを着せられ、下着とかタオルとか化粧品とかを詰め込んだ小さなバッグを手に、半ば強引に背中を押されて助手席へ。それでもちゃんと最初にお尻から乗り込んで足の向きを変える僕。そして間もなく車は走り出す。
「萌さんの言ってた卒業のご褒美って、これだったんですか」
「え?ああ、多分そうじゃないかな」
「あの、今日デートって何を…」
「たいした事ないさ。軽井沢豪華ホテルご一泊」
「えー…」
「ははははは」
 僕達のそんな会話を乗せて車は山道を下っていく。
 連れて行かれる時の慌しさも落ち着き、運転している市村さんを助手席でちら見し始める僕。最初顔見た時、あ、なんかいい人だなって思ったけど、こうして助手席でじっくりご尊顔拝見すればするほど、なんだかすごく感じがいい人みたい。
「あ、あの…」
「うん?何?」
 ちょっと言いにくそうに問いかける僕に笑顔で答える彼。といきなり彼が切り出す。
「ははは、杏奈ちゃんの事萌さんから聞いてるよ。男の子だったんだろ?」
「え、あ、はい」
「大丈夫、杏奈ちゃんみたいな子、何人も萌さんから預かってきたからさ」
 それを聞いて少しほっとする僕。と、
「杏奈ちゃん、一つだけ約束してくれる?」
「あ、あの、なんですか?」
 それにしても夏の朝の軽井沢の森って気持ちいい。それにオープンカーだもの。
「萌さんも言ってたけどさ、俺が杏奈ちゃんの彼氏になるのは明日の八時までな。それ以降は俺の事をきっぱりと忘れる事。いい?」
「あ、はい…」
 それってどういう事なのかわからなかったけど、僕は軽い気持ちでうなづいた。それをきっかけに僕達はドライブしながらいろいろと話し始める。
 すごく話術が上手い人だった。面白い話とか不思議な話とか、音楽、スポーツとか。女の子同士でする話こそなかったからもっぱら僕が聞き役になってたけど。
(あ、そうだ、あ・ま・え・ん・ぼ・う)
 僕のそれがどれだけ彼に通じるかわかんなかったけど、僕なりに一生懸命笑って、お話して、あいづち打って可愛げのある女の子を演じてみた。そのせいかたちまた僕達は打ち解けたみたい。
 それにしても萌さんと朝ごはん食べに行く時のドライブとは何か様子が違う。萌さんとの時は山並みとか森の木々とか綺麗だなって思ったけど、市村さんと一緒の今は、
(何だか楽しい)
 そんな感じだった。やがて車は林の中を抜け、小奇麗で広い敷地のホテルに到着。
 「いらっしゃいませ」
「あ、こんにちわ。今日予約してる市村です」
「えーと、市村譲司様ですね。はい承っております。お名前お書きの上少々お待ちくださいませ」
 彼とフロントとのお姉さんとのやり取りを彼の一歩後ろで聞いたり、用意されたカードに彼の書くサインをじっと見る僕。市村譲司と書かれたその下に名前だけ(杏奈)と書かれて、
「え?え?」
 と言いつつ、彼の服の裾を引っ張り、その直後女っぽい仕草してしまった自分に後で気づいて言葉失う僕。
「お待たせ致しました。十一時からテニスコート、セレモニーは十五時、そしてプールはご自由に。お部屋はスイートのS二〇一。チェックインは十五時ですが、少し前なら大丈夫です。チェックアウトは明日十時になります」
「サンキュー」
 そう言ってフロントを離れる市村さんに、
「あ、あの…」
 と言って駆け寄る僕。
「ごゆっくりお過ごし下さい」
 僕達恋人と見られてるのか、あ、今日一日そうらしいんだけど、ちょっと振り返った僕にフロントのお姉さんが微笑んでくれた。
「よし、ショッピングモール行こうぜ。併設ですげー大きなアウトレットあるんだ」
「ねえ、ちょっと、何そのテニスとかプールとかショップって、セレモニーって何…」
「いいからいいから。テニスウェアと水着買ってやるから」
「ちょっと!」
 彼に手を引かれるまま、僕はホテルから外に出た。
 まずテニスショップへ入った僕。何か感じのいい高そうな物ばかり置いてある店。可愛いのからかっこいいのまで。レディースのウェアの山を前にして、ため息つく僕。以前田柄さんの前で着たのは、妹の本当の杏奈の借り物だったけど、今日買って貰うのは正真正銘の自分用…。
(仮にも、彼氏の前なんだよね…、やっぱりパンツよりスカートかワンピ?)
 カラフルなブランド物のウェアから最初に僕が選んだのは、ピンクに白で大きくブランド名の入ったもの。
(あ、これかわいい!)
 多分もうかなり女の脳になったと思われる僕は、それを手に取りフィッティングルームへ。体に当ててみると、確かに可愛いんだけど、
(でも、なんか僕に似合わない気がする)
 まだ少年ぽさが残る僕にはちょっと派手な感じ。それに、
(さわり心地がちょっと荒いかも…)
 いつしか僕、着たい服より、似合った服、着心地のいい服を選ぶ様になったらしい。
 改めて、頭を切り替えて…。鏡の前の僕を思い浮かべて、ウェアとかスコートの生地のさわり心地とかを指で確かめて…
(あ、これ、どうなのかな)
 手にしたのは、水色で衿と袖と胸元にハートが二つ重なったチャームポイントの下に小さくブランド名。そしてスコートはお揃いで逆に白地にポケットの縁に水色のラインの入ったなんかかっこかわいいの。
 再びフィッティングルームで試着すると、ちょっぴり男の子の名残が残る僕に水色はぴったりだった。とその時入り口のカーテンの外で店員さんの声。
 恐る恐る開けてみると、さっきから僕の様子を見ていた若い女の店員さんが手に何か抱えながらにこやかに立っていた。
「アンダースコート、これサービスしますよ。お尻の小さい方にお似合いでペチコート効果もありますから」
 それは白い一分丈のスパッツみたいなんだけど、昔見0たアンスコみたいにレースが一杯付いていた。試しにそれを履いてみると、スコートが幾分ふわっと広がった。
「あ、ありがとうございます」
 ソックスとスポーツブラもおまけしてもらって、白と水色のテニスシューズ。いつの間にか足のサイズは二十五で小さくなってたけどもそれを持って、市村さんとレジへ行く。
 さすがにブランド品だけあって、財布から一万円札四枚も出していた彼にすっごく申し訳ない気分。
「いいの有った?」
「う、うん」
「どんなの?」
「え、えへ、内緒だもーん」
 今までにない位のうきうき気分。自然と可愛い言葉も出ちゃう!
「じゃあ、水着は俺が選んでいい?」
 あ、そだ、まだ水着残ってた!
 
 前回の海の日のイベントの時は、ある程度ギャラリーから隔離されてたしスカート付だったし。風呂に入った時だってそんなに人いなかったし、寄ってきた女の子達は自爆霊(柴崎)先生と喋るのに夢中であんまり僕の事見てなかったし、多分先生がまさか男だった僕を連れて女風呂に入るなんて思ってもみないだろうからなんとか誤魔化せたみたいだったけど、今度は違う。
 ホテル宿泊者だけとは言え人出はかなりあるし、人目にも結構晒されるし。そんな中で恥ずかしげに入ったアウトレットの水着専門店で、僕の為にビキニばっかりを手に取る市村さん。
 こういうリゾートホテルとかに来る女は自分と自分の彼氏を他と見比べる癖があるって聞いてるから、そんなの絶対やだし、万一僕がまだ完全な女じゃないってばれたらどーすんのよ!
 そう思いつつ僕は市村さんのシャツの裾を怯えた顔をして引っ張ってビキニの所から連れ戻そうとするけど、全く聞いてくれない!
「じゃあパレオ付きでさ、これ似合うだろ」
 そう言って彼が手に取って僕に見せてくれたのは、白地にブルーの花柄の胸元にレースが付いたパレオ付きのビキニ。他のお客さんもいる売り場でだめな理由も言えず、僕は相変わらず市村さんのシャツの袖を引きながら、彼の顔をじっと見つめて大きく首を横に振る。
「だめなの?これ?」
(うん!)
 口に出さずに大きくうなずく仕草を彼に見せる僕。
「よし、じゃこれにしよう!」
(だめーーー!)
「とにかく試着してみろって!」
 市村さんに押される様にしてフィッティングルームへ行く僕。と店員さんまで付いてくる始末。
(僕もう知らないからね!)
 そう思って市村さんの顔をぐっと睨む僕だけど、何故か笑ってる彼。
「はーい、えーっと下はわかってらっしゃると思いますけど、ショーツの上からね」
 恐る恐るサマーワンピの下から花柄ビキニ履く僕だった。
 そして十分後。
「わあ、可愛いじゃないですか?」
「あ、あの、変じゃないですか?」
「え、どこか気になります?お尻かな?全然!むしろ小さくて羨ましい位ですよ」
「あ、あの…」
「あ、胸元?。こうして…ちょっとごめんね。あとパレオはこうした方が…」
 店員のお姉さんが僕のフリルで覆われたビキニの胸元のカップに指を入れてくる。冷たくてつるつるする指先がなんだかくすぐったい。そして一瞬僕のもう大きくなったバストトップにそれが当たってしまう。一瞬声を出す僕に、
「あ、ごめんなさい」
 と顔色一つ変えない店員さん。
「こんな風にカップに脇の肉おしこんでさ。こうすると胸に谷間出来る」
 僅かだけど僕の胸に出来た女の印。その具合を自分の指で触っていた時。いきなり店員さんがしゃがんで僕の太股の上の方を指で触り始める。そしてパレオを結び直してくれて結び目を大きなリボンにしてくれた時、
「あ…」
 そう軽く叫んでいきなりフィッティングルームから出て行く彼女。
(わ、わ、何かばれたかも…)
 慌てて自分の履いているビキニのパンツに目をやるけど、でもどうなんだろ…。膨らみは、言われてみれば少し…。
(や、やばいんじゃ…)
 僕の体が震えだした時、店員さんが再びフいってングルームへ。
「ビキニ初めてなんだっけ?さっき彼氏が薦めるこの水着なんか怖がってたみたいだけど」
 そう言って彼女は手にした小さな袋を二つ渡してくれる。
「アンダーヘア、ちょっと目立つ所あるから、パンツからちょっとだけ。ビキニはショーツより短いから気をつけてね。これシェーバーとクリーム、わかるでしょ?サービスしたげる。あと、スイムショーツ、これも」
 そして僕の頭をそっと撫でてくれる彼女。
「彼氏かっこいい人じゃん。今日お泊りなんでしょ。ちゃんと身支度して、いっぱい甘えて、いっぱいいい事してもらいなさい」
 そう言い残して彼女はフィッティングルームのカーテンの陰に消えた。
「いいことって…」
 そう言って思わず鏡の前でまた目丸くして両手を口にして、今度は思わず腰を引いてしまう僕だった。

 お土産代わりのテニスウェアと水着を両手に抱えてちょっとご機嫌な僕、そのままホテルの更衣室でさっき買ったテニスウェアに着替える僕。ほんとだ、お尻の小さい僕だけど、あのふりひらのアンスコのせいでスコートがボリュームアップして、更衣室の鏡に映る僕の姿は普通の女の子と変わらなかった。
 そして、ラケットとボールを用意してくれた市村さんと一緒に、ラケットと小さなポーチを両手に抱えて、とうとう僕公式にテニスギャルデビュー!
 最初はすごく怖かった。だって数ヶ月前まで男の子だった僕が今ミニのスコート履いて、コートで順番待ってる大勢のお客さんの前でさ!
 でもだんだんなれてくる。他のコートの女の子達とかをチラ見する余裕も出てきた。聞いてたけど本当にテニス上手い女の子はみんなショートパンツ。初心者っぽい女の子は可愛いスコートとかワンピで、なんか遊んでるみたいなプレー。
「なかなか良い打ち筋じゃん」
 ラリーの最中そう言って褒めてくれる市村さん。僕はある程度田柄さんに教わったし、力じゃなくて体を思いっきり舞うみたいに動かして打つ女打ちを教えてもらってたし。
 ギャラリーの人には、僕はスコート姿で打つ元気な可愛い子に見えたかも。
「あ、見えた」
「バカ!」
「てか、今のアンスコであんなの有るんだ」
「最近売ってるよ、短いスパッツでふりふりの」
「お前も履けば?買ってきてさ」
「やだよ!ガキじゃあるまいし!」
 僕の後ろでフェンス越しにそんなひそひそが聞こえる。
(意地悪しちゃお)
 それから僕はそのカップルの前ではわざと大きく回転してスコートふわっと見せたり、しゃがんでボール取らないで立ったままお尻突き出してボール拾ったり。
「やだ、なんか見せ付けてるみたい」
 とうとうわざと僕に聞こえる様にそう言って僕の後ろから離れる女を追いかけていく男。なんかめっちゃ楽しい!思わず軽く舌を出しちゃう僕だった。
 テニスウェアのままホテルに戻って昼食バイキング。そして、
「すべり台の横で待ってるから」
 と言う彼と別れて、とうとう僕はビキニに着替える為に再び更衣室へ。水着持って更衣室の個室に入り、服脱いでとうとう初めてのアンダーヘアの処理。ショーツを脱いで久しぶりにゆっくり観た僕のあの部分。
「あ…」
 と声にならない声上げる僕。アンダーヘアはもうちりちりじゃなくふさふさした物に生え変わってて、以前の半分位に減っていた。長方形に目だって生えている以外は逆三角形にうっすら生えている程度。
(女ってめんどくさい)
 そう思いつつ、長方形以外の所をおまけでもらったシェーバーとクリームで丁寧に。
(こんな所絶対男に見せたくない)
 数ヶ月前まで男の子だった事なんてもう忘れたみたいに思う僕。そして水着用ショーツを履くと、中身が消えたみたいになった精巣と小指位の只のホースみたいになった男性自身がぐちゃっと押しつぶされ、その上からビキニパンツを履いてなれた手付きで水着のブラを止めて、個室の姿見を見ると、
(えー、嘘…)
 驚いた時、目を大きくして両手を口に当てるのがもう僕癖になったみたい。そこに映ってるのはごく普通のビキニ姿の女の子だった。骨盤の肥大と共に大きくなったヒップ、少し広がって来た股間にはスイムショーツで形を整えられてすっきり。膨らんできたお腹とおへそより上でくびれ始めたウェスト、むっちりしてきた太股。少し痩せて見えるけど、もう十分女のシルエット。でもやっぱり怖いからってちゃんとパレオも着ける僕。
(とうとう、ここまで来ちゃった)
 もう怖くない!怖いものなんてない!僕はタオルとかが入った水辺用のバックを持ち、ビーチサンダルはいて市村さんの待つ所へヒップを少し振りつつ向かった。
「可愛いじゃん!似あってるよその水着」
「ありがと!市村さんもすごいいい体してんじゃん」
 ジムで鍛えた様な浅黒い体にシンプルな黒の水着の彼に腰に手を当てられ、恋人同士の様にプールサイドを歩く僕。慣らしで普通のプールに入った僕は、あの海開きの時と違う感触にびっくり。
 水がなんだか体をくすぐる様。それに僕の全身を覆い始めた女の脂肪のせいか、体が水の中で浮くみたい。でもちょっと平泳ぎしようとすると、たちまちバランス崩れちゃう。足がもう以前みたいに力強く動かせないし、腰の形が変わったせいか、なんだかぎこちない動き。
(もう一度最初から女としての泳ぎ方練習しないと)
 その後は市村さんと二人でウォータースライダー。後ろに座った彼にしっかり腰を掴まれた僕。
(あ・ま・え・ん・ぼ・う)
 を意識して、わざと怖がったっりみみみみみみみも市村さんの両手をぐっと握ったり、悲鳴上げたり、笑ったり、驚いたり。もう女って演技大変で気使っちゃう!
 その後、プールサイドで少し休憩。僕の目はまわりにいる女の子達の水着をじっと見つめていた。彼氏に可愛く見られる様にか、結構多くの人がスカートとかパレオ無しで彼氏とラブラブなのを目にする僕。とうとう僕も一大決心!
「市村さん…やっぱりパレオ邪魔…」
 恥ずかしげにそう言って市村さんの横で立ち上がる僕。そして腰に手をやり、ゆっくり可愛い手付きでパレオの結び目を解く僕。とうとう僕は市村さんや他の人の前で女の子の形になった下腹部を披露。ちょっと股間の膨らみは大きいかも知れないけど、僕のあそこはスイムショーツのおかげで普通の女の子のそれと同じ形に。
「ね…かわいい?」
 顔を真っ赤にしてやっとそれたけ言えた僕に、
「あ、全然おかしくないよ」
 とそっけなく言う市村さん。
(可愛いって言って欲しかった!)
 そう思って、ちょっとすねたふりして彼の横にぶつかる様にして座る僕だった。

 その後、流れるプールでは他のカップルさんと同じく、市村さんに背中をぎゅっと抱かれる姿勢でゆっくり歩いたり。その時、彼の海水パンツの中のが硬くなって僕のヒップに当たるのがわかる。でも
(僕、かわいい女としてみとめられてる)
そう感じて別に嫌な気はしなかった。その間中僕は周りのカップルをいろいろチェック。男の子の時は絶対女の子の方をチェックしていただろうけど、今の僕は男の人の方に目がいった。
流石にこんなホテルのプールに来る人だけあって、皆水準以上の顔立ちと体型。でもその中でも、
(僕の彼氏、結構上じゃん!)
 そう思った時、僕の体のヒップに手が当たり、次の瞬間
「あっあっ」
 僕を両手でお姫様だっこしながらプールの中を歩き始める市村さん。最初すごく恥ずかしかったけど、それを見た何人かのカップルの女の子の何だか羨ましさうな視線が僕の目に。僕はそんな彼の首筋に両手をかけて顔を彼の頬にべたっとくっつける。
(えへ、いいでしょー)
 声に出さないけど心の中で周りの女の子達に自慢の目線を送った。
「ねえ、市村さん、ジョージって呼んでも…いいですか」
「え?ああいいよ」
 すっかりお互い親しくなって、プールサイドのビーチパラソルの下で本当のカップルみたいにいちゃいちゃする二人。でも萌さんの言ってた言葉、
(女はいい男を奪い合う生き物)
 の言葉がふと頭に浮かぶ。まさかね…と思いつつプール挟んで反対側の店にジュース買いに行った時、ふと市村さんの方を見ると、さっきから何回か僕の視界に入ってきた一人の水着の女性が彼に近づいてきて、何か話しを…。
(こらあ!)
 心の中でそう叫んで手に持った二人分のジュースがこぼれるのも気にせず彼の元へ駆け寄り、
「おまたせー」
 と言って片方を彼に手渡し、横にいたその女性に愛想笑いする僕。それから間もなく、
「ちょっとトイレ、な」
 と言って僕の横を離れた市村さんが、なんと二人連れの女の子横にくっつけて戻ってくるのを観てしまう。彼女達の目の前で僕の横に座り、
「まあ、こういう事だから」
 とあっさり市村さんが言うと、二人の女の子はしばし僕達の方を見た後、僕にすごい顔を向けてくるっと回って引き返していく。途中一人が振り返って、
「なーんであんなブスと!」
 わざと聞こえる様に言う。愛想笑いしていた僕はその女に向けて思いっきりあっかんべーした後、市村さんの体に両手を回して抱きついた。僕勝った!あいつらに勝った!
 と、横にいたカップルの女の子がひくひく笑いながら小声で横の彼氏に言う。
「ねえ、今の観てた?かーわいい!」
「あ、うん」
「えー、彼氏彼女なのかな?」
「妹さんじゃないの?」
 えーえー、そうですよ。大体僕まだ完全な女じゃないし!つりあう程の綺麗さも可愛さもないし!バカにしないでよ!
 状況からして彼が彼女達についていくはずがないとわかっていたのに、僕は市村さんを盗られない様にぎゅっと抱きしめた。
(あーあ、女で生きていくってこんな気苦労とかあるんだ)
 もう彼をこのままほっとけない!そう思った僕は彼の顔を見上げてねだる様に言う。
「ねえ、ジョージ、もう行こう…。次何かあるんでしょ?サプライズとか言ってた…」
「ああ、そろそろ行くか」
「うん、そうしよ」
 ホテルの更衣室で着替えてる時、上から丸めた紙みたいなのが落ちてきて僕の頭に当たる。そして、
「ぶーす!」
「ばーか!」
 二人の声と足跡が出口に向かって足早に去っていく。追いかけて文句言おうとしたけど、何故か僕の足が途端に震えて動かない。僕いつのまにこんな怖がりになったんだろう。
 そのまま着替えとか持って更衣室を出た僕は、ロビーで市村さんと待ち合わせた後、僕一人何かの係りの女の人に案内されるまま別館の方へ連れて行かれた。そこは何か雰囲気がちょっと違ってる。
「こちらへどうぞ」
 案内された部屋は何か大きなドレッサールームみたい。しかも家具や椅子まで真っ白。何がなんだかわからないままそこにいると、案内してくれた人がにこやかに何かファイルみたいな物を持って来てくれる。
「あ、あの、何するのか聞いてないんですけど」
「あら、そうなんですか?まあまあ、どれになさいます?」
 そう言って彼女がファイルを開けると、
「えー!」
 と驚いてまた両手を口に当てる僕。そこにはいくつもの綺麗な、ウェディングドレスの写真が有った。
「お連れの方から聞いてません?結婚式体験ですよ。まあ、あなたの彼氏もずっと黙ってらしたんですね」
 そう言って係りの女性が僕に微笑んだ。結婚式って、ウェディングドレスって、その場に呆然と立ち尽くす僕。
 どう思っていいかわかんなくて、もう何を考えていいかわかんなくって頭が真っ白の状態で、頑張って僕が選んだのはミニ丈の白のドレス。寸法を測られて大きな箱に入れられて持ってこられた金色のラメの入ったレースだらけの真っ白な塊。
 服を持ってきた多分着付け担当の女性がそれを箱からつまみあげると、ちゃんとドレスの形になった。
 女性の前で下着姿になるなんてもう慣れっこになった僕。そんな僕を待っていたのは。
「杏奈さん、いきますよ」
 僕の腰にはめられた薄くて固い鎧みたいなもの。それを背中の紐でぎゅっと締め付けられる。
「苦しいですか?」
「あ、ちょっと」
「じゃあこの位にして。少しの間我慢してくださいね」
 白のコルセットを締められた僕。ウェディングドレスの下にこんなの付けてるなんて知らなかった。それに、
(これじゃ、物食べれない)
 お腹とかさすってちょっと苦しそうにする僕に再び着付けの人が僕のブラのホックを外し始める。どきっとした僕は白い塊の真ん中に入れられ、足元からそれが上の方へ向かって伸びていく。
「胸小さいから、パット入れますね」
 元々男の子の胸が変化した小さな胸。その胸元までノースリーブのレースの服は伸び、僕の両肩に通され、胸に大きなパットを入れられ、
「じゃメイクしますね」
 大きな鏡のドレッサーの前に座らされた僕にとうとうメイクが施される。下地塗られた僕の顔はツケマ付けられブラウンのシャドウ、薄くてきりっとした眉、だんだんピンクがかっていく頬。
 昨日のロックガールとは違い、だんだん清楚な女顔になっていく。鏡でみているとだんだん可愛く女の子らしくなっていく自分の顔に僕口元がだんだん笑顔になっていって、そして最後にピンクの口紅を引かれると、そこには一人の可愛い花嫁姿の女の子が一人座っていた。
(女って、化粧でこんなに変わるんだ)
「杏奈さんおいくつですか」
「あの、十七です」
「そうですか、もう結婚出きるお年ですね」
 メイクの人がそう言って鏡の中で僕に顔を近づけて微笑んだ。
 僕が、結婚?そうなんだ、女は十六で、でも数ヶ月前まで男だった僕が、もう女で結婚出来るだなんて。妹のだけどもう卵巣と子宮入っててもう活動しちゃってるし、もうなんか男の人に恋愛感情持ってるみたいだし!まだ生理こそきてないしあそこだってまだ女じゃないけど、でも、そう、僕もう性的には、オンナなんだ…。
 そんな事を思いつつ、昨日自分と比較する様に鏡の前で顔を動かしてちょっと微笑んでみたり。もうなんだか性格まで変わっちゃうみたい。
「じゃ、行きますよ」
 最後に髪にベールを被せられ、真っ白のパンプスを履いて手にはブーケ持たされて、白い手袋着けられて、僕は最初に僕を案内してくれたお姉さんと一緒にホテルの中の教会へ向かった。
 チャペルのドアを開けると、誰もいないホールの祭壇の前に一人タキシード姿の男の人が一人。
(あ、市村さん…)
 その時、何か聞いた事の有る音楽がBGMで響く。ディズニーの、
 スウィートハート・ロマンス~シーズン・オブ・ハート テーマって曲らしい。
 https://www.youtube.com/watch?v=rT8p3NvGcZE
 もう僕はパニック状態。案内役の女性の付き添いでゆっくり市村さんの待つ祭壇へバージンロードを歩いて行くけど。もう恥ずかしくて顔を上げられない!
 そしてとうとう僕は彼の前に。やっぱり恥ずかしくて顔あげれずにいる僕。
「シュミレーションだから、誓いの言葉と指輪交換は無しな」
 そう言って市村さんは僕の被っているベールを両手ですくい上げる。
「お顔、あげてくださいな」
 案内役の人にそう言われて初めて顔を上げて市村さんの顔を正面からじっと見据える僕。
「杏奈ちゃん、綺麗だよ…」
 そして僕の頬は彼の両手に固定された。
(あ、来る…)
 思わず目を瞑ってしまう僕。その瞬間唇に彼の硬い唇がすーっとくっつく。
 男の子だった僕の愛情込めたファーストキスは、結局男性になっちゃった。
 と、その時僕は天井のシャンデリアの方を観てはっと気が付く。
(あ、杏奈)
 シャンデリアに、昨日観た姿のまんま杏奈の幽霊が座っている。彼女の目は明らかに涙を浮かべていて泣いている様だった。でも口元は笑っている。そんな杏奈が小さな手を力一杯叩いていた。
(そっか、杏奈もウェディングドレス着たかったんだよな)
 多分今の僕の姿に自分の夢だった姿を重ねているのかも。
 その時ふわつと足元が浮く感覚。僕はどうやら市村さんにお姫様だっこされたみたい。
「杏奈ちゃん!綺麗だよ!」
 再び彼は僕のおでこと目とそして頬、最後に唇にもう一度キスしてくれる。なんだろ、この感覚!好きな人に大切にされて、抱きかかえられて!僕、お姫様になったみたい!幽霊の杏奈、ごめんな!
「杏奈!受け取って!」
 そう言って僕は彼に抱きかかえられたまま、手にしたブーケを杏奈の方に投げた。
「え、何今の?どうしたの?」
「ううん、なんでもないの」
 そう言って市村さんの頬にすりすりと自分の頬を当てる僕。ふと見るとシャンデリアからは既に幽霊の杏奈は消えていた。

 それから、チェックインしてー、二部屋続きの小綺麗なスゥイートルームに狂喜乱舞してー、夏だからとホテルが部屋に用意してくれた何枚かの女の子用の浴衣から金魚柄の可愛いの選んで着こんでー、ホテルのバイキングディナーに行って、恋人気分で市村さんと楽しくお喋りしてー。
 当然その間も、女の呪文(あ・ま・え・ん・ぼ・う)を心がける事は忘れない。
「お風呂行って来るー」
 そう言ってホテルの露天風呂付きの大浴場へ行く僕。もう女子脱衣所なんて慣れっこ。女風呂ももう平気。念のために胸から垂らしたタオルで下を隠して、露天風呂に直行。
(すっごい楽しかった!)
 今日の出来事を思い出しつつ、一人になれた開放感もあってお風呂で大きく伸びをする僕。
 小さいけど可愛くふっくらしつつある胸と大きくなったバストトップ、白くて丸み帯びて柔らかく艶々になった体にうっすらと付いた二重のビキニの日焼跡。もう僕が実は男の子だったなんて思う人はいなさそう。
 さすがに高級ホテルのせいなのかどうかわかんないけど、ここに入ってくる女の子達はスタイルが良くて綺麗で可愛い人が多い。
 温泉に浸かりながら、他の女の子を観察する余裕まで出来ちゃった。おっぱいの形とか大きさ、ウェストのくびれとヒップの大きさと形、そしてあそこのアンダーヘアの形とか。
 女って本当女だけの空間に来るとみんな無防備なんだ。男だった僕には本当想像できない世界。横に入ってきた同じ年齢の女の子とにわかお友達になって何やらいろいろお話したり、特に僕みたいな貧乳の女の子?の横にはやっぱり胸の小さい子が良く来る。比べられたくないからなんだろうか。
 長々と入って、すっかり疲れを取って、そして僕は部屋に戻った。時間はもう夜の九時を回ってた。市村さんはダブルベッドにトランクス一枚で寝転がっている。
「戻ったよー」
「あ、おかえり」
「疲れたの?」
「あ、うんちょっとね」
 ダブルベッドの上で僕に背を向けたまま答える彼。
「でーん!」
 そう言って僕は浴衣のまま市村さんの横にダイブするけど、本当に疲れたのか僕のその行いに無関心な彼。
(そうだよね、僕も結構疲れたもん。すっごく楽しかったけど)
 しばし僕は彼と背中合わせで横にごろんとなりながら、自分のスマホとかを眺めていた。その間全然動かない彼。
「ねえ、寝ちゃったの?」
「う、うん?起きてるよ」
 相変わらずその姿勢で返事だけ返ってくる。なんだかつまんない…、ていうより僕寂しい!昼間あんなに構ってくれたのにさ。
 ちょっといじいじして僕は彼の方へごろんと寝転がって向き直り、背中に指で突いたり何か文字書き始めたり。それでも彼は動かない。
 意を決した僕は寝転がったまま、
「んしょ…んしょ…」
 とおどけて彼の横向きの背中を転がったまま乗り越えて彼の真向かいにドスンと転がる。
「なんだよそれ」
「だって、構ってくんないんだもん」
 そう言って彼の胸元をじっと見つめる僕。浅黒い鍛えた厚い胸板の上に申し訳程度に付いている小さなバストトップ。
「こら、ちょっとやめろ!」
 僕がそれを指先でなぞると笑いながらそう言う市村さん。
「僕の胸もさ、今年の春位はこんなだったんだよね…」
「今どんなになってんだ?」
「えー、みせらんないよ!」
 そう言っていきなり胸元に手を当てる僕。只、そこで僕と市村さんの感覚のずれが有った。
 僕からしてみれば、自分の胸はバストトップこそ大きくなってるけど少し膨らんだ程度のもの。しかも毎日見てるから、まだ女の子のおっぱいという認識はなかった。まして相手は気を許せる人。
「ちょっとだけだよ」
 そう言って浴衣の胸元をめくってブラをずらして胸をちょっと見せる僕。でも、市村さんとか多分他の男の人にはそれは貧乳だけど十分可愛い少女の胸だった。
「杏奈ちゃん、君はもう、女の子だよ」
 そう言って市村さんは僕のバストに片手を当てた。暖かい彼の指が僕のバストトップをひゅんと触った時、僕の体になんらかのスイッチが入ったらしい。
 僕はそのままの体勢で動けず、只彼の顔を呆然と眺めているだけ。そんな僕を彼は両手でぐっと僕を自分の胸元に引き寄せた。
「あ、あの、あの…」
 ぎゅっと抱きしめられる感覚に頭の中がふわふわした僕も両手で無意識に市村さんの体をぎゅっと抱きしめてしまった。
(嘘みたい、気持ちいい…)
 すっかり女の体になった萌さんの柔らかな手と体でぎゅっとされるのも心地よかったけど、
(何、何なのこの感じ…)
 市村さんの固くてたくましい腕でぎゅっとされると何だか大切に守られてるって感じ。すごく落ち着く。萌さんの時とは比べ物になんない。
(もっと、もっと強くぎゅっとして)
 彼の手に力が入る度に、僕の口から微かな喘ぎ声がもれてしまう。
(市村さん、僕、好きになっちゃった)
 僕は伸び上がって彼の顔をじっと愛情あふれる目で見つめた後、彼の唇に自分のそれを当てた。さっきはごっこだったけど一度キスしちゃってるからもう平気。そして彼の手は僕の両方の胸にがっしりと添えられて、僕に出来た小さなバストを大きな硬い手でゆっくりと…。そして彼のトランクスの中で何か熱い硬い物が僕の下半身に当たる。
「あ、ああん!」
 思わず少し大きめな声を上げる僕。僕、市村さんに女として認められたんだ。
 ほどなくトランクスだけの市村さんとショーツ一枚だけの姿になった僕。いつのまにか僕が彼の下になりベッドの上でお互いの体をさわりっこしていた。すっかり硬くなってぴゅっと突き出た僕のバストトップを彼が口に含むと僕の口から自然に可愛い悶え声が出る。それは萌さんの所で観たAVの女の子と同じ声。女の子って本当にあんな声が出るんだと僕自身の体で知っちゃった。
 のしかかってくる男の人の体の重さ。僕の上半身は市村さんより一回り小さいのに、骨盤が大きく肥大してきた僕の下半身はもう彼より大きくなっているのに気が付く。それが彼の重い体をしっかり受け止める。 
 筋肉が付いたたくましい浅黒い体に広い胸板。それに比べて僕のしなやかかで曲線で縁取られた腕、ぽちゃぽちゃでうっすらベビーピンクになった体、むっちり柔らかくなった太股。内股気味になった細い足。そして、大きく柔らかくなりつつあるヒップとそれを包む可愛いレースの付いた白いショーツ。
 彼に僕のヒップをぎゅっと掴まれると、僕のお尻ってこんなに大きくて柔らかくなったんだって今更ながら思う。
(僕、こんなになっちゃったんだ)
 男の子だった時の自分をまるで懐かしむ様に僕は冷たく細く、そしていつのまにか柔らかくなった指先で彼の背中をまさぐっていた。
 幸せ。何故なのかわからないけど、とても幸せな気分。
 ふと少し上体を起こしてトランクスを脱ぎにかかる彼。
(え、あの僕まだあそこが…)
 そう思っていると彼は自分の大きくなった男性自身を僕の又に挟み込む。すごく熱くて硬いものが僕の下半身のショーツ越しにぺちゃんこになった精巣の上に当たった。
「女の子のあそこって、丁度ここになるんだぜ」
 それは先日萌さんが僕に指で教えてくれた場所。そして彼は何も言わずにいきなり腰を動かし始めた。
「あっあっ…」
 彼の腰の動きに合わせて僕の口から小さな声が出る。
(あ、熱い、熱くて、硬くて、ああ…)
 目を瞑ってぽかんと開いた口から出る喘ぎ声がだんだん大きくなっていく。
(あ、ここなんだ、ここに男の人のあれが入るんだ…)
 まだあそこが出来ていないのに、ショーツの上からなのに、下半身が熱くなってじーんとして、僕の頭の中ではもう妄想で一杯。
(あれが入って、どんな感じなんだろ…多分もうすぐ、僕のあそこも…)
 お腹をぎゅっと押され、あそこを刺激される感覚でジーンとした感覚がだんだん全身に伝わってくる。
(あ、もっと、もっと、もっと感じさせて…)
 男の子は興奮したら無意識に腰を前後する動きになるんだけど、もう僕にはそれが出来ない。僕の下半身はだんだん円を描く様に動き、ぐいぐい押し付ける彼の物を撫でる動作に変わっていく。
「ああん、だ、だめ…壊れる…」
 僕は彼の頭をぎゅっと抱きしめて声を上げる。
 とうとうちょっと疲れたのか市村さんが動作をやめて僕の横にごろんと仰向けなった。今日一日の事とか今の事とか、彼にはもう感謝の気持ちで一杯。でもまだ完全な女の子じゃない僕には彼にしてあげる事が無い…いや、一つだけ有った。
「ジョージ…」
「何?」
「ありがとね。まだ女じゃない僕にこんな事してくれて」
「ははは、気にするなよ」
「だからさー」
 ちょっと怖かったかど、僕は半身起き上がって彼の固く熱くなった大きな太い物を優しく両手で包み込む。
「お、おいおい、無理しなくていいんだぜ」
 昨日萌さんに教えられた男の人のあれを両手でゆっくりともてあそびながら彼に愛情込めた目線を送る僕。
「ありがとね」
 そして彼のものは僕の口の中に消えていく。ねっとりした僕の口と柔らかくなった僕の舌でそれを可愛がってあげると、彼の口から男の喘ぎ声が微かにもれてくる。
(あ、おもしろーい)
 と僕が思う反面、
(僕、どうなっちゃうんだろう。でもさ、もう絶対男の子には戻れないよね)
 とも思った。今年の春まで男の子だった僕、それがたった数ヶ月で柔らかな脂肪でおおわれ、おっぱい少し膨らまして。そして男の人にこんな事するなんて、本当想像すら出来なかった。と、突然、
「おい、口外せ?」
「?」
「杏奈ちゃんにはまだ無理だ!」
 何の事かわからないままに僕が口を外した瞬間、彼の熱くて太い棒から白い液体が飛び出て、そして僕の胸にかかる。
「あ…」
 そう、それがどういう事かわかった。僕も男の子だった時何度もそれを体験した。女の体になり始めて暫くはそんな物見なかったけど、でも、何これ…。
 そのゼリーみたいな物が混じったその白い液体は僕には何かいい香りがする。指でそっとそれをすくってじっと見つめると、何だか懐かしい思いがよみがえってくる。匂いをかいで見ると、男の子だった時はそうは思わなかったのに、なんだか花の様にいいにおい。
 どうしてだろう?男のあれだよ。あれ口に入れたんだよ。それで出ちゃったんだよ。男の頭のままだったら絶対こんな事出来ない。でもすごく幸せな気分。なんで?どうして?
(僕、女の子として認められたんだ。しかも男の人にこんな事させる事が出来る可愛い女として。好きでない女の子だったら、男はこんな事できないもん)
「だ、大丈夫?」
「え、うん、ぜんぜん平気だよ」
 彼の言葉ににっこり微笑み返す僕。そっか、僕あれがなくても男の人を性的に気持ちよくしてあげる体になったんだ。
「杏奈ちゃんありがと。これ、お礼」
 そう言って再び僕を抱きしめてくれる彼。さっきよりもより丁寧に体を愛撫され、おっぱいを口で可愛がってくれて、もう殆ど普通に女の子の悶え声が口から出る様になった僕。そしていつのまにか気を失っていた。
 
 窓からベッドに差し込むまばゆい光で僕は目を覚ます。あれ、いつ寝ちゃったんだろ。なんか市村さんにずっと愛撫され続けて、気を失ったり、気が付いてまた声出しちゃったり。
 ベッドに市村さんはいなかった。
「ジョージ、シャワー?」
 ショーツ一枚のままバスルームへ行くけど誰もいない。
「ジョージ、起きてるんでしょ?朝ご飯行かない?」
 すっかり彼女気取りで部屋の中を探すけど彼はいない。
(露天風呂にでも行ったのかな)
 そう思いつつ再びベッドに戻ると、枕元に一枚のメモが置いてあった。
(杏奈、すごく可愛かったよ。このままずっと可愛い女でいるんだぜ)
「えっえっ!」
 その時彼と会った時の最初の言葉を思い出す僕。明日八時までの彼氏…!
 時計を見るともう朝の八時三十分を回っていた。そういえば彼の荷物もない!
「嘘!嘘!」
 僕は慌てて浴衣に着替えて、帯を締めながらホテルのロビーへ小走りに走り出す。行ったばかりのエレベータがすごく悔しい。
「あ、あの、S二〇一ですけど」
「はい。えっと…」
 ホテルのフロントで待つ僕の足ががたがた震える。
「えーっと、市村さんですね。あ、ご心配なく。男性の方は清算されてチェックアウトされてます」
 それを聞いた僕は誰かに後ろを殴られた気分になった。と、
「あ。S二〇一の方、杏奈さまですね。伝言入ってますよ。一〇時にお迎えにあがりますと」
 それ、多分萌さんだ。
「お連れの方、先に清算されてお車でも取りに行かれたんじゃないですか?」
 何も知らないフロントの女性がそう言って僕に微笑んでくれる。だからそれ違うって…。
「あ、ありがとうございます」
 やっとの事でそう呟いて僕はフロントを離れた。
 呆然としながら入ったホテルのレストランだけど、あんなに昨日ベッドで暴れたのに、おかゆ半分食べるのが精一杯。そして部屋に戻ってそのまま昨日の夢の様な市村さんとの出来事を思い出しつつ、力なくごろんと寝転がる僕。
 その時、僕の敏感になった鼻は枕とシーツに彼の残り香が付いている事に気づく。
(市村さんの香り…)
 それを嗅いでいると、昨日のテニス、プール、結婚式ごっこ、そして夜の事が頭の中に鮮明によみがえってくる。
「うわーっ!」
 枕に顔を埋めて僕は大声を上げる。口から悲鳴ににた声、とめどなく流れる涙。こんなに泣いたの、多分生まれて初めてかもしれない。
 
 はっきりと意識が戻ったのは萌さんの車の中だった。あれからどうやって、どうして今この車に乗ってるのかもう覚えてない。記憶が飛んじゃってる。僕は知らない間に歌も口ずさんでいた。ガールズロックのプリンセスプリンセスの歌で、カラオケで自縛霊(柴崎)先生が何故か良く唄ってた(ジュリアン)って曲。女の子の失恋ぽい歌だった。なんで柴崎さんがこんなの歌うのかわかんなかったけど。
「ジュリアン…あなたの笑顔は…」
 横で運転している萌さんはそんな僕を見て何も言わないでいてくれてる。
「…さようなら…やさしさを…思い出を…涙を…」
https://www.nicovideo.jp/watch/sm3226306
 歌詞の最後を歌い終わる頃、再び僕はうつぶせてわーっと泣き始める。とうとう運転している萌さんが口を出す。
「おめーな、もう、さっきからうぜーんだよ!二十四時間の約束だったろ?」
「だって、だってさ、こんなになるなんて思わなかったもん!」
「ジュリアンて、逃げた猫の歌だろ…どこでそんなの覚えてくんだよ」
「柴崎さんが…良く歌ってたもん…」
「…あいつが歌いそうな曲だ…」
 泣き声で叫ぶ僕に萌さんがそう言って軽く舌打ち。
「ったく、市村、やりすぎんだよ…。ほどほどにしとけっつーの。今度釘刺しとこ…」
 相変わらずめそめそする僕に萌さんがやっと同情してくれる。
「わかった、わかったから。今晩添い寝してやっから、そこで思いっきり泣け。そしたらいい事あるからさ。明日は帰る日だろ。そんな面で帰せねーからよ」
 軽くうなずく僕。車はいつしか萌さんの家の有る森林の小道を走っていた。
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