第14話  元服の儀

文字数 520文字

永祚2年(988年)正月五日、一条帝の御元服の儀が行われる。幼かった帝も、りりしくご成人あそばし、晴れ晴れしさに涙が浮かび、何とも言い難いほどうれしさがこみあげて来た。長兄道隆の娘、定子様が入内され、女御となられる。
 この方の母君は、円融院の世に内侍として仕え和歌のみならず漢詩もたしなまれ才女として誉れ高き女性である。
  兄道隆との恋をうたったという『わすれじの行く末まではかたければ今日を限りの命ともがな』(「決してあなたをわすれたりしない」とおっしゃった道隆さまのお言葉も、永遠に変わらないとは思えません。道隆さまのお心が変わってしまうのを見るくらいなら、今日、この時に私の命が果ててしまえばよろしいのに)という和歌は、あまりにも有名だ。
定子様も、その才を受け継いでいらっしゃると聞く。帝を共に支えてくださるであろう。
 そう思っていたのだが、そうはならなかった。5月に父兼家が病のため、関白を兄道隆に譲り、7月に父が亡くなってしまう。すると、悲しみに暮れるどころか、兄は10月に定子様を中宮にした。よほど娘が中宮になったことが自慢だったのか、一条帝に向かってわたくしが中宮になれなかったことを揶揄したという。なんということだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

藤原詮子…藤原兼家の正妻時姫の娘。同母の兄弟は、長兄道隆盛・次兄道兼・弟道長、姉超子。異母兄弟多数。我が子は、一条天皇だけ。

円融帝…冷泉天皇の弟。母は、兼家の姉藤原安子。村上天皇から見ると冷泉天皇は第2皇子。円融天皇は第5皇子。安子から見ると、第1皇子が冷泉、第3皇子が円融。ややこしい…。我が子は、一条天皇だけ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み