第1話 藤原詮子入内

文字数 1,077文字

 円融帝の御時、女御・更衣あまたさぶらいける中に、いとやんごとない際にはあらねど、藤原摂関家の三男の次女に生まれ、すぐれて時めこうと狙う姫君ありけり。(円融天皇の時代に、女御や更衣という身分の女性がたくさんいらっしゃる天皇の後宮に、更に女御という身分で入内していく、皇族の流れではないが、まあまあの身分の姫君がいらっしゃった。さあ、ご寵愛を受けて、皇后の位につくぞ、と意欲満々であらせられた。)

 やっと、入内がかなえられた。父、藤原兼家はわたくしを天皇の妻、国母になるべく教養をつけ礼儀作法も完ぺきに育て上げたというのに、なかなか入内がかなわなかった。磨き上げた黒髪、贅を尽くした十二単を着こなす姿、和歌の才能、美しく既知にあふれた女房達、何一つ不足はないのに。

 さて、どなたの女御となるのか。帝(冷泉天皇)には、姉君が女御になっていらっしゃる。東宮は弟君の三宮様(後の円融天皇)だが、一代限りの中継ぎ扱いで、父のお眼鏡にかなわない。それならば…思惑が飛び交い、なかなか決まらない。
 そうこうするうちに、大事件が起こった。源高明殿が、東宮であられる三の宮様を廃しようというたくらみにかかわれたとして九州に左遷させられたのだ。そして、帝が退位され、東宮である弟君が帝になられた。
 天元元年(978年)8月17日、わたくしは、帝(円融天皇)の女御となった。
 帝には、この年の4月に関白藤原頼忠殿が娘・遵子様を入内させていたばかり。私の持ち駒は、藤原摂関家三男である父、兼家。もうすぐ右大臣になる。わたくしの能力の高さを正しく評価し、一緒に戦ってくれる戦友だ。母は、貴族の中流、金持ちの摂津の守の娘なので、身分は高くない。しかし、評判の美人でおっとりしているから浮気者の父とうまくいっている。兄弟は、兄二人、姉一人、弟一人。ただし、異母兄弟多数。兄たちとは、あまり仲が良くない。弟(後の道長)はすごくかわいい。
 姉は、わたくしのあこがれだ。お顔は美しく、お髪は黒々として背丈を超える豊かさだ。その姿は凛として気品にあふれている。たくさんの皇子と姫皇子をお産みになり、女御として申し分がない。今の春宮は、姉君の皇子(後の花山天皇)だから、きっと近しいうちに国母となり、中宮となられるであろう。
 そして、敵となるのは、父兼家の兄君藤原道隆殿の息子の伊尹殿。同じく父の兄兼通殿。藤原家の中での勝負となる。兼通殿との仲は、ひどく悪かったが、昨年病に倒れ、お亡くなりになった。わたくしは、わが背の君となられた帝にうまく助言を申し上げ、父と弟をお助けしていかねばならない。

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登場人物紹介

藤原詮子…藤原兼家の正妻時姫の娘。同母の兄弟は、長兄道隆盛・次兄道兼・弟道長、姉超子。異母兄弟多数。我が子は、一条天皇だけ。

円融帝…冷泉天皇の弟。母は、兼家の姉藤原安子。村上天皇から見ると冷泉天皇は第2皇子。円融天皇は第5皇子。安子から見ると、第1皇子が冷泉、第3皇子が円融。ややこしい…。我が子は、一条天皇だけ。

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