第15話 東三条院(女院)

文字数 562文字

 帝と定子様の仲は、たいそうよい。やはり、才気活発で見目麗しく、会話も機知に富み、定子様ご自身には何の憂いもない。早く皇子がお生まれになればよいのだが。
 そうこうするうちに、大変なことが起こった。
 正暦2年(991年)2月12日、御願寺である円融寺で円融院が33歳の生涯を閉じられた。仲の良い夫とは言い難かったが、尊敬もし頼りにも思っていた帝のお父上である。33歳は、まだまだお若い。悲しみに暮れながら御心の安らかなることを祈る。そして、帝のただ一人の親となったわが身を思い、なんとしても帝をお守りせねばと思う。
 9月16日、出家し尼となった。帝より東三条院という院号を賜った。円融院に代わり、女院として帝をお支えする。女院は、わたくしが初代である。何事も有職故実に従う今の世に、このようなことがかなったのは、妹のわたくしを権力を支える一翼とみなす長兄道隆の思惑あってのことである。道隆はいったん関白を辞し、次兄道兼が内大臣となる。
 それはまだしも、この年の正月に蔵人頭在任わずか4ヶ月で参議に任ぜられて公卿となった道隆の正妻の産んだ嫡男(だけど三男)の伊周は、9月には先に参議となった7名を超えて権中納言に昇進した。あまりにも身びいきが過ぎる。兄道隆をいさめる者がいないのは困ったことだ。わたくしは、この先どう動くべきか。
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登場人物紹介

藤原詮子…藤原兼家の正妻時姫の娘。同母の兄弟は、長兄道隆盛・次兄道兼・弟道長、姉超子。異母兄弟多数。我が子は、一条天皇だけ。

円融帝…冷泉天皇の弟。母は、兼家の姉藤原安子。村上天皇から見ると冷泉天皇は第2皇子。円融天皇は第5皇子。安子から見ると、第1皇子が冷泉、第3皇子が円融。ややこしい…。我が子は、一条天皇だけ。

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