第5話 お食い初め

文字数 473文字

 天元3年6月5日、父兼家の東三条殿にて無事に男皇子がお生まれになった。
 そして、10月、お食い初めが行われた。美しい黒の漆器に菊の模様を施した御膳に鯛の尾頭のつき、お赤飯・焚き物・香の物・紅白の餅、吸い物、歯固め石が供される。御子様は、帝に似て、雅でそれは美しい赤子でいらっしゃる。この御子様の生涯が良きものでありますように。帝から、またたくさんの殿上人から、絹や漆器など、たくさんの祝いの品が届けられた。父は、満面の笑みで抱かれた御子様を見ている。母に見ていただけないのが、残念だ。
 これと前後して、尊子内親王が承香殿の女御となられた。殿方は、妻の懐妊に際して新しい女を求められると聞くが、(父も、そうであったと母から聞いたが)、それは帝も同じなのであろうか。しかし、わたくしは、なんと言っても一の男皇子をお産み申し上げた身。何の心配もいらぬはず。心がざわざわするのを、何とか抑えて平静を保つ。
 父の家で、弟の道長とすごろく遊びをしたり、琴をつま弾いたりしながら、日に日に育っていく我が子との暮らしは、なんと穏やかで楽しいものであることか。
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登場人物紹介

藤原詮子…藤原兼家の正妻時姫の娘。同母の兄弟は、長兄道隆盛・次兄道兼・弟道長、姉超子。異母兄弟多数。我が子は、一条天皇だけ。

円融帝…冷泉天皇の弟。母は、兼家の姉藤原安子。村上天皇から見ると冷泉天皇は第2皇子。円融天皇は第5皇子。安子から見ると、第1皇子が冷泉、第3皇子が円融。ややこしい…。我が子は、一条天皇だけ。

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