第11話 皇太后

文字数 597文字

わたくしが皇太后となってから、急に訪ねて来る者が増えた。
 父兼家は、一条帝の祖父として摂政となっているのだから、国母であるわたくしを尊重し、よい関係を持つことが当然だ。以前と変わらぬ態度でいらっしゃる。
 長兄道隆は、以前は、ほとんど来ることのなかったが、今は度々あいさつにやってくる。さすがに口にはしていなかったが、中宮になりそこなった不出来な妹、というお気持が感じられ、軽く扱われているのが伝わっていた。兄は、たくさんいる帝の伯父の一人にすぎない。いまさら機嫌を取られても、心を許すわけにはいかない。
 次兄道兼は、もっとひどい。花山院の出家について、自分が院のために一緒に出家すると言って本望を遂げられるために活躍しただの、父のために思いとどまったのだの、人には聞かせられないようなことを暗に示す。そんな話は、しないでほしい。
 弟道長は、子供のころから仲が良く、わたくしを姉として慕っていらっしゃる。以前から度々あいさつにきている。そろそろ、どこかの姫君と縁を結び、婿として将来の後ろ盾を得るころだ。よい姫君と縁を結ぶことができるよう、心を砕こう。
 わたくしが、立后したころ、わたくしの女房が中宮遵子様の兄上に「姉君の素腹の后はどちらにおいでで?」と皮肉ったという話を聞いた。別に、遵子様には恨みはないが、この兄上には思うところがあったので、くすりと笑ってしまった。はしたなかったかしら。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

藤原詮子…藤原兼家の正妻時姫の娘。同母の兄弟は、長兄道隆盛・次兄道兼・弟道長、姉超子。異母兄弟多数。我が子は、一条天皇だけ。

円融帝…冷泉天皇の弟。母は、兼家の姉藤原安子。村上天皇から見ると冷泉天皇は第2皇子。円融天皇は第5皇子。安子から見ると、第1皇子が冷泉、第3皇子が円融。ややこしい…。我が子は、一条天皇だけ。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み