第15話 <奔走する俺>

文字数 1,319文字


中野と熊坂さんの再会の場面に居合わせた事から、
いつの間にか俺は三人が普通に暮らせるよう
手助けする側に立っていた。

「何をやっているんだ、俺は?」

バカバカしくも思えたが、あの三人、
このまま穏便に事が済むとは思えない。

それを予感しつつ知らん顔はできなかった。

三人が会える場所として、
俺は自分のワンルームの部屋を提供した。
中野の部屋も熊坂さんのマンションも、
お互いが出入りしていたら怪しまれる確率が高い。

「狭くて申し訳ないけど、ここなら人目につかないだろう」

そう行って、四人は6畳の小さな部屋で肩を寄せ合った。

「父ちゃんなのか? ほんとうに?」

「あぁ、そうだよ」

中野は拓海くんを抱き上げ、膝に入れた。

「すみません、佐伯さん。 でも感謝します」

熊坂さんはキッチンで四人分の鯛めしを茶碗によそいながら言った。

おめでたいからみんなで食べようと、
俺がときめき四国館で買った鯛めしだ。

ほんと、いつからこんなお人好しになったんだ?!

でも、これまでの時間を取り戻すかのように団欒する親子の姿は、
なんだかとても尊いもののように見えた。

守ってやらなきゃ。

そんな風に思わせる風景だった。

しかし、その時はあっけなくやってきた。

ある朝テレビをつけると、ワイドショーのトップのネタで、

「中野智巳、隠し子発覚!!」

のテロップとともに、コメンテーターがある事無い事喋っていた。

「しまった! もうバレちまったのか!!」

俺は舌打ちしてときめき四国館に向かった。

「熊坂さん、今日はお休みだって」

店に着くと店長がそう言った。

事が公になり、熊坂さんも家から出られないのかもしれない。

ワイドショーや週刊誌では熊坂さんはA子さんとだけ表記されていた。
四国館のみんなはまだA子さんが熊坂さんだと気がついていないようだ。

休憩時間に心配で熊坂さんに電話をすると、
「ひっきりなしにインターホンが鳴って。
拓海も怯えてるんです……」

と困惑したように言った。

北品川のマンションまで包囲網が来ているのか……。

マスコミの恐ろしさを改めて思い知った。

中野からも二人を心配するメールが届いた。

これ以上あのマンションに居させておくのは
精神衛生上良くないだろう。

だが熊坂さんの実家は愛媛だし、
中野の実家にももうマスコミの手が回っているとのこと。

かと言ってうちのワンルームに居させるわけにもいかないし……。

しばらく考えたあげく、俺は俺の実家に避難させる事を思いついた。
さすがにそこまではマスコミも来ないだろう。

「でも、どうやってマンションから脱出させるか……」

そうだ! 店のライトバンだったら怪しまれないかも。

よし、それで彼女たちを救出しよう。

閉店後、これから熊坂さんと拓海くん救出作戦に出ると
中野と熊坂さんに連絡を入れた。

北品川のマンションの裏手には来客用の駐車スペースがあり、
俺はときめき四国館のライトバンでそこに入った。

幸い裏まではマスコミは入って来ていないようだった。

帽子を深々とかぶった熊坂さんと拓海くんは
マスコミに見つからないように後部座席に乗り、
俺は頭から毛布を二人にかけて、
表側のマスコミ陣をすり抜けマンションを後にした。

「脱出成功!!」

後ろの二人はぷはーっと毛布をはぎ取って、車は俺の実家に向かった。


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