第10話 <あいつが来る!?>

文字数 1,094文字


数日後、発注をかける商品をチェックしていた時に、

「佐伯くーん!」

と、店長が俺を呼ぶ声がして、バックヤードに向かった。

「来週の水曜日にまたテレビの取材が来るって」

こういった物産館は、時々ニュースの特集や、
バラエティ番組のコーナーで取り上げられる。

「女芸人と今が旬のイケメン俳優が
ぶらりデート企画でうちに立ち寄るらしい」

「へー、誰が来るんすか?」

「ふわふわちゃんと中野智巳だって」

「え?」

あいつがうちに来るのか……。

「あれー! 店長、俺その日休みに……」

と言い終わる前に

「俺その日、香川出張だから、佐伯くん頼んだよ」

と、店長は言った。

げ!
そうだ、来週店長はいないんだ!!

一気に気持ちがブルー、いや、限りなく黒に近いグレーになった。

中野と顔を合わせるのなんて死んでも嫌だ!!!

しかし、なんとか逃れたかったがなんともならない日々が続き、
ついに撮影の当日を迎えた。

背中に鉛でも背負っているかのような心持ちで、
パートの並本さんと板林さんに今日の段取りを説明し、
俺も事前に店長から言われていた事を今一度確認した。

熊坂さんは今日は休み希望を出していて、いなかった。

撮影クルーなんかも入ってくるし、警戒してのことかもしれないな。

バタバタしそうな日だっただけに、本音は彼女にいて欲しかったが……。

午後になると、事前打ち合わせに番組スタッフさんたちがやってきて、
細かい段取りを説明された。

「ふわふわちゃんと、中野さんが店内をぶらぶらして、
気になったものを手にするので、その商品の説明をして下さい」

くっそ、完全に中野に俺の存在がバレるじゃないか……。

しかも売れっ子俳優と、ただのショップ店員という落差……。

憂鬱はマックスだった。

店内は次第にどこかで情報を聞きつけたファンや野次馬たちが、
店を取り囲んで、ざわつき始めた。

「中野さん入りまーす!」

ADらしきスタッフの声と誘導の後から、カメラやライト、
音声のロケ隊と、中野たちが店に入ってきた。

久しぶりに見る中野は、当時のまま変わらなかったけれど、
これが芸能人オーラというやつだろうか?
綺麗に整えられた髪、パリッとした垢抜けた衣装、
メイクとライティングの効果もあるのかキラキラと輝いて見えた。

「こちら店のスタッフの佐伯さんです」

と、ディレクターが俺を中野に紹介すると

「佐伯!?」

と、中野の顔がより一層華やいだ。

「なんだよ! お前ここで働いてんの!?」

「あぁ」

俺は決まりが悪い感じで返事をした。

「すげー偶然! 俺お前を探してたんだ! 後で話そう!」

そう言うと中野は、カメラの前のライトが当たる場所に移動した。

俺はカメラの後ろの影になった場所に出番に備えてスタンバイした。


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