第6話 <マジかっ!!>

文字数 1,104文字

俺は商品棚にミレービスケットを補充しながら熊坂さんを観察した。

あの笑顔、朗らかに人を惹きつける魅力、
やっぱりアイドルだったのかも……。

とりあえずうちでは湊さん以外のスタッフは、
このことに気がついていないようだった。

一年くらいしか活動していなければ、
覚えている人も少ないのかもしれない。

現に俺も知らなかったし。

それにしてもなんで辞めちゃったんだろう?って
人のこと言えないけど……。

すると「あのー!」と、5歳くらいの男の子が声をかけてきた。

「はい? 何かな?」

俺は男の子に目線を合わせるように体を低くした。

「くまさかよしえはいますか!?」

きゅっと眉毛をつり上げて、元気よくその子は言った。

「こら、拓海! すみません」

男の子の後ろから一人の女性が追いかけてきてそう言った。

熊坂さんに用か……お姉さんかな?

「あぁ、熊坂さん? 今呼んできますね」

俺はにっこりと愛想を振りまきそう言った。

「やだ! マキちゃん!! 
拓海まで!! どうしたの!?」

熊坂さんは驚きながらも、きまりが悪そうに言った。

「映画見に行って帰りにあんたに会いたいって言うから
連れてきちゃった」

やれやれと言った表情で熊坂さんは

「しょうがないなぁ」

と言った。

「甥っ子さん?」

俺は熊坂さんに聞くと

「いえ、息子です」

と、熊坂さんは答えた。

「え……?」

今なんて……?

「む、息子!? 確か未婚って……」

俺は思わず動揺して、心のままの言葉を口にした。

「はい、結婚はしていないんです……」

熊坂さんはバツが悪そうに俯いて言った。

そして

「母ちゃんは今仕事だから、マキちゃんとおうちで待ってて」

と、拓海くんの肩を掴んだ。

「おれ、母ちゃんに会いたいよ」

「うん、ごめんね。
でも夜になったら母ちゃんもおうちに帰るから会えるでしょ?」

熊坂さんは困ったように微笑んだ。

そして拓海くんはおもむろに俺の方を見上げ

「おまえ、母ちゃんとなかよくすんなよ!
母ちゃんはおれとけっこんすんだ!!」

と大きな声で言った。

「こら!」

熊坂さんはコツンと軽く拓海くんをたたいて、
「佐伯さんすみません!!」と申し訳なさそうに謝った。

熊坂さんの従姉妹だというマキさんは、
拓海くんとともに店を後にし、熊坂さんはぽつぽつと事情を話した。

「未婚のシングルマザーってやつです。
あの子、自分が私を守るんだって思ってて、
失礼な事言ってすみません……」

「そうだったんですか……
いや、気にしてないんで大丈夫ですよ」

ひとまずそう笑った。

が、気にしてないなんて事はない。
大いに気になる。

こんな魅力的な熊坂さんが、
未婚のシングルマザーってどういう事だ!?

それにしても、子供がいたとは……。

少なくとも……いや、大いにショックではあった。

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