第3話 <つまんねー日々>

文字数 1,351文字


「お兄ちゃん!鳴門わかめってどこかね?」

小さな婆さんが俺に話しかけた。

「あぁ、それならあっちの棚の真ん中あたりにありますよ」

俺は壁際の棚を指差して言った。

高校卒業から12年、大学を卒業した俺は「ときめき四国館」という
四国の物産を扱った店で社員として働いていた。

高校の頃の華やかさなんてかけらもない職場。

まぁでも平凡だが、リスクもないし、
安泰な職場といえば悪くはないか……。

ひとつ、この職場で嫌だった事と言えば、売り場に出ていると、
たまに「グリーンでしたよね?」と言われる事があった。
なので、今はだてメガネで正体がバレないようにしている。

くしくも店のエプロンが緑色なのがやるせない。

「佐伯さーん、馬路村ポン酢って次いつ入荷しますかー!?」

パートの並本さんが言った。

「明後日だなー」

「わかりましたー!」

ダンボールの中のかまど饅頭を棚に並べながら俺は答えた。

品出ししてもしても商品のダンボールは
まだまだ山のようにあって終わらない……。

毎日毎日代わり映えしない日々。

仕事仲間はほとんど主婦ばっかだし、
客は爺さん婆さんばかりで出会いもない。

俺の人生、どこでどう間違ったんだ……。

深いため息をついた。

仕事の後、スマホを開くと
大学時代の仲間の島津からLINEが入っていた。

「今夜飲みにいかね?」

まぁどうせ帰っても一人だしな……。

「OK」

と返信をした。

渋谷のハチ公前で島津と合流し、俺たちは居酒屋に入った。

「ったくうちの部長はよー。
使えねぇくせに説教ばっかたれやがってよー!
一日顔合わせていると鬱になるよ。
お前は上司とべったりな仕事じゃなくていいよな!」

「よくもねーよ!
毎日パートのスタッフにあれこれ言われるし、
店長は無関心だし、力仕事ばっかで腰も痛てーし!」

「まぁ仕事なんてそんなもんだけどな。
はぁー宝くじ当たんねえかなー。
そしたら一生遊んで暮らす!」

「だよなー」

そう言って俺らはビールを一気に飲み干した。

「なぁ、あのテーブルの二人組、まぁまぁ良くね?」

島津は二つ先のテーブルに座っていた二人組の女性を見て言った。

「ヒロ、行ってくれよ!」

「えー?」

「お前だったら百発百中だからさ!」

「しょうがねぇなー」

俺はそのテーブルに近づき、声をかけた。

「ねぇ、良かったら一緒に飲まない?」

二人組は「いいよ」と笑い、俺らは彼女たちのテーブルに移動した。

ひとしきり彼女たちと酒を酌み交わし、店を出ると島津は

「俺は黄色いブラウスの子と消えるからあとは好きにして」

と、耳打ちして二人は夜の街に消えて行った。

俺はもう一人のサーモンピンクのカットソーを着た子と、
渋谷の駅に向かった。

「ねぇ、これからどっか行く?」

彼女が問いかけた。

「どっかって?」

「ちょっと休んでかない?」

この路地を曲がればそこはホテル街だ。

「指輪……左手の薬指にしてるよね?」

「あぁ、気づいてた?
今日旦那出張だし、あなたイケメンだから
ちょうど気分転換にいいなって」

そう言って上目遣いでにやっと笑った。

「俺、明日早番で朝早いんだよね。
もう年かな、最近眠くてさー」

女の顔から目を離して答えた。

「あ、君JRだよね?
俺、地下鉄だからここで!」

そう言ってさっさと地下鉄の入り口の階段を降りた。

なんでこう俺の周りにはくだらない女しか寄ってこない?!

うんざりした気分で、改札をくぐった。


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