戦の後、つかの間の平穏
文字数 2,283文字
3人は茫然としていた。
目の前で起きた出来事に理解が追い付いていないのだ。
レイライムは妹の突然の発言に、何が起きたかを理解する前に驚きを隠しきれていなかったし、アスティーナは同じ女として考えても少し理解ができないといった顔をしている。
オルガも戦場では一切の動揺を見せずに、冷静に事を運ぶ人間だというのに、さすがに予想外の事だったのか、わずかばかり眉を吊り上げ、軽く目を見開いて絶句している。
そんな周りの状況を見て、何か納得するものがあったのか、レイルーナは急にわたわたと落ち着きをなくし、目の前で手を大きく振った。
「あっと違います、違うんです、聞いてくださぁい」
慌ててはいるものの、どこか間延びしたのんびりとした口調。
レイルーナらしいといえばレイルーナらしい口調で、レイライムは少し落ち着きを取り戻した。
「ルーナ、いきなりすぎて訳がわからないよ。どういうことなのか説明してくれ」
「えっと、えっとですね、まず閣下はカザードを取り戻そうとしている、あるいは正常な状態に戻そうと思っているですよね?」
レイルーナの空色の瞳が、まっすぐにオルガの眼を見る。
オルガは黙って頷き、続きを促す。
「兄さま、今回はしのぎ切れましたけれど、志を同じくしているように見えて、帝国へ下ることを考えている人もいる。これもまた事実ですよね?」
「何人いるか、だれがそうなのか、そこまでは分からないが居るだろうな。そして揺さぶりをかけられたら増える可能性もある」
そこまで聞くと、レイルーナはふと思案顔になり、あごに右手の人差し指を当てたまま、天井を見上げるような仕草をする。
しばらくして、考えがまとまったのかあごから指を放して顔を下したレイルーナは口を開いた。
「この町は一度廃棄しましょう。廃棄と言っても私とお兄様、それにアスティーナ様が出ていくという意味です。そしてバルザードル閣下の目的に合力しましょう。カザードが安定、もしくは正しく運用されるようになれば、この町も安全になるはずです。そのあとこの町がどう動くのかは、それから話し合えばいいこと。不確定要素を減らします」
立て板に水とでもいうかのように、すらすらと考えを述べるレイルーナ。
ふだんのぼんやりとした印象は影を潜めている。
スイッチが入ったなとレイライムはぼんやり思った。
昔から思考に入ると突然、いつもとは違いきびきびとした様子になるのを彼は何度か見たことがある。
だから彼は驚かなかったが、初めてそれを見たであろうアスティーナはきょとんとした顔でレイルーナを見て、そして大丈夫なのかと問いたげな顔でレイライムを見る。
大丈夫だと言うように、レイライムが頷くとアスティーナはいろいろ思うところはあるのだろうが素直に納得したようだ。
「それと、ルーナ嬢が俺と結婚したいというのはどうつながるんだ」
一人状況を分析しながら話を聞いていたオルガが問いかける。
「そうですね理由は3つあります。1つは今後ともフェルディール家とバルザードル家のつながりを保つため。カザードとオルガ様の関係がどうなるかは未知数ですけど、両家のつながりは今後も必要なものだと思います。もう1つは、この状況で私たちがここに留まる事にデメリットしかないため、私たちはこの町から出ることになりますが、私は見ての通り足が不自由で色々と困ることが増えます。オルガ様が私を庇護してくださるとうれしいというのも理由ですね」
レイルーナはそこまで言うと一息つく。
ほかの面々は最後の1つは何なのかと問いたげな顔でレイルーナを見つめている。
「最後の1つですが……えっと、その。おかしなことを言うやつだと思われるかもしれないんですけど……」
急にもじもじとし始めるレイルーナ。
先ほどまでの理知的ですらすらとモノを言っていた彼女と同一人物とは思えないほど、歯切れが悪い。
「ルーナ、はっきり言わないと分からないぞ」
「オルガ様を見たときに、この人に私は嫁ぐのだと、確信したのです!」
レイライムにせかされて、自棄になったかのようにレイルーナは叫んだ。
その言葉に3人は示し合わせたかのように、同じタイミングでそれぞれの顔を見つめ、みじかく異口同音にん?といった。
「ですから、予感というか啓示というか確信めいた何かというか、そんな感じです。私はオルガ様に嫁ぎ、ともに支えあっていく運命なのだと確信するくらいの何かが降ってきたんです!」
恥ずかしかったことを口にさせられ、自棄になったのかレイルーナはもう、声を抑えることもせずに言い切った。
「それはその、助けられたときに1目ぼれしたとかそういう感じのアレ?」
女性らしい意見をアスティーナが口にするが、レイルーナは大きく頭を振って否定する。
「うまく言葉では言えないんだけど、本当に予言の様な天啓のような……そんな言葉が浮かんだです」
レイルーナの必死の訴えに、軽口をたたくことがはばかられる空気が流れる。
「いきなり結婚と言われても、俺はまだ自分が何をなして、どうするかさえ決めていないからな、受け入れられない。だがルーナ嬢にその気があるという言う事を念頭において、今後行動を共にする限りは全力で支える。今はこれで納得してもらえないか」
レイルーナの真剣な様子に、その気持ちを真正面からしっかりと受け止めたうえで、現状を踏まえてオルガはそう判断し告げた。
オルガの言葉にレイルーナは心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。
レイライムはそんな妹が、自分の知る中で一番美しく輝いているように感じて、目を細めたのだった。
目の前で起きた出来事に理解が追い付いていないのだ。
レイライムは妹の突然の発言に、何が起きたかを理解する前に驚きを隠しきれていなかったし、アスティーナは同じ女として考えても少し理解ができないといった顔をしている。
オルガも戦場では一切の動揺を見せずに、冷静に事を運ぶ人間だというのに、さすがに予想外の事だったのか、わずかばかり眉を吊り上げ、軽く目を見開いて絶句している。
そんな周りの状況を見て、何か納得するものがあったのか、レイルーナは急にわたわたと落ち着きをなくし、目の前で手を大きく振った。
「あっと違います、違うんです、聞いてくださぁい」
慌ててはいるものの、どこか間延びしたのんびりとした口調。
レイルーナらしいといえばレイルーナらしい口調で、レイライムは少し落ち着きを取り戻した。
「ルーナ、いきなりすぎて訳がわからないよ。どういうことなのか説明してくれ」
「えっと、えっとですね、まず閣下はカザードを取り戻そうとしている、あるいは正常な状態に戻そうと思っているですよね?」
レイルーナの空色の瞳が、まっすぐにオルガの眼を見る。
オルガは黙って頷き、続きを促す。
「兄さま、今回はしのぎ切れましたけれど、志を同じくしているように見えて、帝国へ下ることを考えている人もいる。これもまた事実ですよね?」
「何人いるか、だれがそうなのか、そこまでは分からないが居るだろうな。そして揺さぶりをかけられたら増える可能性もある」
そこまで聞くと、レイルーナはふと思案顔になり、あごに右手の人差し指を当てたまま、天井を見上げるような仕草をする。
しばらくして、考えがまとまったのかあごから指を放して顔を下したレイルーナは口を開いた。
「この町は一度廃棄しましょう。廃棄と言っても私とお兄様、それにアスティーナ様が出ていくという意味です。そしてバルザードル閣下の目的に合力しましょう。カザードが安定、もしくは正しく運用されるようになれば、この町も安全になるはずです。そのあとこの町がどう動くのかは、それから話し合えばいいこと。不確定要素を減らします」
立て板に水とでもいうかのように、すらすらと考えを述べるレイルーナ。
ふだんのぼんやりとした印象は影を潜めている。
スイッチが入ったなとレイライムはぼんやり思った。
昔から思考に入ると突然、いつもとは違いきびきびとした様子になるのを彼は何度か見たことがある。
だから彼は驚かなかったが、初めてそれを見たであろうアスティーナはきょとんとした顔でレイルーナを見て、そして大丈夫なのかと問いたげな顔でレイライムを見る。
大丈夫だと言うように、レイライムが頷くとアスティーナはいろいろ思うところはあるのだろうが素直に納得したようだ。
「それと、ルーナ嬢が俺と結婚したいというのはどうつながるんだ」
一人状況を分析しながら話を聞いていたオルガが問いかける。
「そうですね理由は3つあります。1つは今後ともフェルディール家とバルザードル家のつながりを保つため。カザードとオルガ様の関係がどうなるかは未知数ですけど、両家のつながりは今後も必要なものだと思います。もう1つは、この状況で私たちがここに留まる事にデメリットしかないため、私たちはこの町から出ることになりますが、私は見ての通り足が不自由で色々と困ることが増えます。オルガ様が私を庇護してくださるとうれしいというのも理由ですね」
レイルーナはそこまで言うと一息つく。
ほかの面々は最後の1つは何なのかと問いたげな顔でレイルーナを見つめている。
「最後の1つですが……えっと、その。おかしなことを言うやつだと思われるかもしれないんですけど……」
急にもじもじとし始めるレイルーナ。
先ほどまでの理知的ですらすらとモノを言っていた彼女と同一人物とは思えないほど、歯切れが悪い。
「ルーナ、はっきり言わないと分からないぞ」
「オルガ様を見たときに、この人に私は嫁ぐのだと、確信したのです!」
レイライムにせかされて、自棄になったかのようにレイルーナは叫んだ。
その言葉に3人は示し合わせたかのように、同じタイミングでそれぞれの顔を見つめ、みじかく異口同音にん?といった。
「ですから、予感というか啓示というか確信めいた何かというか、そんな感じです。私はオルガ様に嫁ぎ、ともに支えあっていく運命なのだと確信するくらいの何かが降ってきたんです!」
恥ずかしかったことを口にさせられ、自棄になったのかレイルーナはもう、声を抑えることもせずに言い切った。
「それはその、助けられたときに1目ぼれしたとかそういう感じのアレ?」
女性らしい意見をアスティーナが口にするが、レイルーナは大きく頭を振って否定する。
「うまく言葉では言えないんだけど、本当に予言の様な天啓のような……そんな言葉が浮かんだです」
レイルーナの必死の訴えに、軽口をたたくことがはばかられる空気が流れる。
「いきなり結婚と言われても、俺はまだ自分が何をなして、どうするかさえ決めていないからな、受け入れられない。だがルーナ嬢にその気があるという言う事を念頭において、今後行動を共にする限りは全力で支える。今はこれで納得してもらえないか」
レイルーナの真剣な様子に、その気持ちを真正面からしっかりと受け止めたうえで、現状を踏まえてオルガはそう判断し告げた。
オルガの言葉にレイルーナは心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべて頷いた。
レイライムはそんな妹が、自分の知る中で一番美しく輝いているように感じて、目を細めたのだった。