第2話

文字数 2,880文字



「やあシオン君、今日も記憶探しかい?」





「ええ、早く取り戻さないと失っていることすら忘れてしまうかもしれないですからね。



 何か有益な情報はありましたか?」





 この男性の名前はセレサリアさん。彼は正星議院のトップに存在する7人いる正星議員の1人だ。ミカロが言うには各部門のスペシャリストだそうだけれど、あまり興味はない。



僕は彼に提示されたクエストを手伝う代わりに、全国のデータベースをお借りして僕を知っている人がいないかどうかを調べてもらっている。



 とはいえ当の僕が何も思い出すことができないので、今は全国さまざまな人の顔を見て、何か思い当たることがないかどうかを研究している。

 思い出せ~、思い出せ~、と何度も頭に念じながら人の顔をいくつも見ているのだけれど、やっぱり何も浮かんではこない。このままじゃ八方ふさがりだ、何かいい方法を見つけないと......



1つだけね。とは言っても確証はないから聞き流すだけでいいよ、責任追及をされても面倒だしね」





 この人の話は何かと念には念が多い。たぶん昔何かしらの責任を負わされることになったのかな。まぁでもこれ以上言うと、これから先の関係が続かなくなってしまいそうだ。ここは彼の言う通りにしておこう。





「どうやらここ最近、記憶喪失による事件が多発しているみたいでね。とはいえ誰も犯人の顔を忘れてしまっているから、素直に君の元に戻ってくるとは考えにくいみたいだ。同僚たちと連携してその怪しい団体を調査することをお勧めするよ」





 “記憶喪失事件”。確か隣町の一晩だけで100人近くの人物が記憶を奪われてしまった事件だったかな。僕の記憶もきっとそれと同じ敵に奪われたのだろう、彼はそう言いたいのだ。

 ほかに情報もないし、疑える記憶もない。まずはそれで考えていくほかないみたいだ。 

 僕はホテルへと戻り、“記憶喪失事件”の被害者の写真を11枚真剣に眺めながら、今回得た怪しい団体のことをノートにまとめておくことにした。

 正直なことを言えば、僕はもう自分を信じられなくなってしまっている。


 僕は本当にシオン・ユズキなのだろうか、ひょっとして僕は別の人間なのではないか。そんな変な考えが生まれてしまうこともある。今はこのノートだけが僕の記憶であり、僕という存在なのだと思う。


 僕はミカロの元に戻りクエスターの仕事に戻ることにした。楽しみ半分不安半分だ。

「あれ、シオン。どこ行ってたの?」


「ちょっと武器を見に行っていたんですよ。どうしても何度も使用すると刃こぼれが起きたりして消耗してしまいますからね」





「ふーん」





 そう。ミカロには僕とセレサリアさんとの関係を秘密にしている。僕がファイスたちのチームに加入するまでは彼女も彼と会っているのだけれど、あれ以来は何も話していないことにしている。彼女にはここの宿泊代に服代と、いろいろと支援を受けてしまっている。僕の記憶にまで援助を受けたら、きっとなんでも子供のように彼女に甘えてしまうだろう。それに何より彼女も否定しきれないだろうし。



 ここは少しカッコつけて自分一人でやる、と言っておくぐらいがちょうどいいのだ。



「でもシオンお金持ってないんじゃなかったっけ?」





「……み、見るだけならタダですから。ははは......」



 あぶない、危ない。一瞬言葉の鋭さのあまり、本当のことを言ってしまいそうになってしまった。彼女は意外なところで鈍感だ。それゆえ何をするか予測できない。そのせいで何度も彼女の言いもしなさそうな言葉に何度となく驚いてきた。


 まったく困ったものだ。まぁある意味でいえば、そのおかげで僕は彼女に助けてもらえたわけだけれど。


 僕たちは互いのベッドに分かれ、僕はいつものようにいくつもの顔写真を眺め、ミカロは雑誌を見て一喜一憂している。


 本当のことを言えば、僕もミカロのように何か新しい情報を取り入れたいところだ。けれど、“約束”という言葉が気になって仕方ない。その言葉を聞くたびに記憶には思い当たることがなくても、体が反応してしまう。

  例えお風呂に入っていても、眠っていても、ミカロと手を握っているときでも、その言葉を思い出すと心が我に返り冷静な気持ちになる。ノートにはメモしているものの、結局のところ役立つ気はしていない。



「ん~!」





 ミカロが窓際に向かって体全体を広げると、何かが陽光を反射したのが目に映る。なんだ、鳥かな?





「シオン危ない!」





「え?」





 僕がその声をあげた瞬間、ミカロは彼女の自慢の胸を僕にぶつけるように僕のベッドに飛び込んできた。僕の態勢は崩され、ベッドから転がり落ちる。





「大丈夫、シオン!?」



 
彼女の声を聞いた瞬間、僕は彼女の奥が真っ赤に染まるのが見えた。火だ。絨毯に広がり、僕たちを焼き尽くそうと、その範囲を広げていくのが見える。

 今更、頬から血が流れていることに気が付く。誰かが僕のことを狙っていた? どうなっているんだ? 



「シオン、行くよ!」





「はい!」





 ――変現。その言葉とともに僕たちは光輝き、力を得る。詳しい話は後だ。今はこの状況から脱出するほかない。





「汝、十二なる青海の王よ。その清浄なる力をわがもとに......召喚!」





「うむ」





 ミカロは鍵を使い、星霊召喚を行うことができる。今回呼び出したのは、紛れもなく水の系統の力を持つ者だ。名前はアクエリオス。まさに水だ。





「料理の事故というわけではなさそうだな」





「そんな冗談は後。まずは外に敵がいるかどうか確認しないと。水球(ウォーターボール)で私とシオンを囲めそう?」





「無論、可能だ。海は大地よりも大きいからな、人を包むのは容易だ」





 彼女はお気に入りの扇を持ち、僕たちはアクエリオスの作った水球とともに外へ飛び出す。彼女の水に赤い水が混じりこむのを見せられながら。





「ミカロ、問題な......」



「今は敵に集中して! こんなのかすり傷だから」


 女性にとって肌は命。今そんな言葉は忘れよう。まずは敵の姿を確認する。


 さっきまで銃口を僕たちへと向けていた敵は視界から消え、僕たちはホテルの入り口へと向かった。ファイスたちが気になるところだけれど、ミカロの様子を見る限りきっと脱出できるだろう。


 僕たちが入り口に入ってきた瞬間に飛び込んできたのは、まるで蛇のようにうごめく鎖の集団だった。はじき返し斬ろうとしても僕の行動を先読みしかわしてくる。

 これでは中に進めない。とはいえここを死守しないと他のクエスターを救えない。どうにかしないとか。



「あ、いた!」






 金髪の少女が僕に向けて手を振り、それに合わせて鎖が飛び交う。彼女がこの面倒な鎖の持ち主か。自分より小さい人には暴力を振るいたくはないけれど、ここは仕方ない、戦おう。

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登場人物紹介

 シオン・ユズキ。過去の出来事を失ってしまった主人公。


 困っているところをミカロに助けられ、天真の星屑(スターダスター)に加入した。


 鉾星の能力で敵を上空に打ち上げ連撃で仕留める戦い方をする。

正星議員のセレサリアから援助を受け、記憶探しを始めている。

 ファイス・ミッテーロ。天真の星屑(スターダスター)のリーダー。


 リーダーの割に考えなしに敵に突っ込むことが多い。そのせいで彼は様々なトラップや反撃をくらうことも多いが、そのおかげで敵の能力が把握できることが少なくない。


 時々考え事を姿を見ると、メンバーは明日の天気に不安する。


 イタズラ好きでシオンとミカロが2人でいるのを見るとよくからかいミカロの不機嫌を誘う。寛容であり能天気でたいていのことは考えずにうなずく。


 剛傑星で膨らんだ両拳で敵を吹き飛ばす。本気でやりすぎて海に飛ばしてしまった黒歴史がある。 

 ミカロ・タミア。天真の星屑(スターダスター)のメンバー。


 星霊星で星霊を呼び出し共闘する。(2人まで・金と銀の2種類いる)本人は扇を持っているので、風の攻撃でとどめをさすことも多い。彼女の前で星霊のことをモノのように話すとものすごい怒る。


 明るく他人と話すことを躊躇わない。素直で思った考えをすぐに口に出すが、怒りっぽいのがたまにキズ。


 シオンを自分のチームに引き入れた。彼の強さに動揺を隠せないが、むしろこんな人物がどこに姿を消していたのか、それとも黒歴史があるのか、興味がある。


 バストサイズが特徴的なせいか知らない異性からの視線を多く受けているが、本人は着られる服が限られるので、誰かにあげたいくらいだという。この言葉が裏で幾人もの恨みを買っていることを彼女は知らない。


 フォメア・ザブレット。

年齢は19でファイスと同年齢でシオンとミカロの1つ上。

チームの司令塔として動き、クエストでの時間短縮に貢献している。ケンカを始めたファイスやミカロに混ざって中立の立場を取っていたりする。


 明晰星を使用し、データやインターネット画面の出現やデータ上の武器を出現させて攻撃する。


 恋愛にあまり興味はない。

 ナクルス・フリズム。年齢はチーム最高齢の20。


 ファイスたちの会話に混ざることはほとんどなく、よっぽどのケンカでもない限りは気にしていない。


 仲間たちは彼を信頼しており、よく頼られる。


 火拳星を使用し、炎の一撃をくらわせる。

 セレサリア。星の有無は不明。


 7人いる正星議員の1人。シオンを支援すべく彼に情報提供をしている。


 女性の人気が多く正星議院ではよく囲まれている。

 リラーシア・ペントナーゼ。


 ミカロと同期で彼女とは親友。セレサリアの元で活動している。

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