第31話
文字数 2,365文字
左腕が何かに包まれている感触。エイビスさんか。彼女は元通り服を着ている。僕の妄想か。ハァ、何を考えているんだ。おかげで身体が休まった気もしない。
それにしてもどうして彼女はここに? 答えを気にせず彼女をベッドに寝かせる。このままじゃ眠りきれない。アスタロトさんから話を聞こう。
中心階層へと降り、操縦桿を握る人たちの部屋にアスタロトさんはリラーシアさんと話をしている。寝ていた様子が見られない。手慣れているのだろうか。むしろ悪魔特有の何かなのだろうか。
彼女は僕の考えていたことを素直に口に出す。僕はうなずくことしかできない。
彼女はマントをひらめかせその場を後にした。僕はその言葉に拳を握りしめることしかできない。気が付けば飛行船は仕事を終えていた。
☆☆☆
彼女は僕を見つけるなり飛び込んで来る。これから修行だと考えると少しだけ影になりそうだ。早めに手を打つ必要があるか。
僕は彼女の柔らかさに触れていることを無視した。彼女が不意に頭を叩かれる。それが誰なのかは考える必要もない。
彼女も疑問の顔を見せる。僕はそこから目を背けた。リラーシアさんの修行が終わってから全てを整える。それをズラすわけにはいかない。自分の感情コントロールも修行だと思えばいい。
温泉はいい。何も言わずただ僕らを温め、効果を与えてくれる。そこから離れたくなくなってしまうことが不安要素だ。
僕たちの話はエイビスさんのことでもちきりだった。やたら字がうまいとか、治療上手だ、とか。とはいえ何よりも話題は彼女の持つ星のことだった。
とんでもないことを口走ってしまった。ファイスに間抜け者の烙印を押されるかと思ったけれど、そんなことはなかった。彼も根はやさしいのだ。だからこそ冗談で話題を作ろうとするんだ。
とはいえ彼女のことは内緒にしておこう。たぶん間違いなく彼女の印象が悪くなる。これは僕たちにとっても有益ではない。それなら空を眺めている方がずっと効果的だ。
思わず笑みが湯船にこぼれてしまう。ようやくか。おめでとう僕。やっと彼女の修行を受けられるんだ。こんなに晴れ晴れしいことはない。
4人は僕から目を逸らした。ファイスが彼女をチームに誘ったのだろう。そう考えれば少し納得がいった。
ミカロはともかく天真の星屑にとってリラーシア・ペントナーゼさんは意味を持つ人物なのだと理解する。原因は彼らにあるのは言わないでおこう。
とはいえチームの過去を知るのは悪くない。1つ気になっていることもある。僕が口を開いたとき、3人は何も言わずうなずきその場を後にした。なんだか僕だけ輪の中に存在していないようなそんな感覚に包まれる。
お風呂上がりの一本は最高だ。体に染み渡る感覚がなんとも衝撃的だ。糖分が身体を包み組織全体を笑顔にする。その感覚が忘れられず思わず2本も飲んでしまった。さてと、修行しよう。
火照った身体。紐だけの簡易な浴衣からこぼれる白い肌。銀髪の彼女は僕のことを地から見つめていた。
彼女はゆっくりとうなずいた。僕は息をもらしエイビスに後をお願いする。ミカロたちは3階、僕たちの部屋は2階。うかつに近づくと睨んでくる目つきが身体を痺れさせる。
彼女がのぼせるなんて珍しい。いや、それだけの何かが彼女に起こっているっていうことだよな。話がしたい。そう考えたときにはリラーシアさんとの時間になってしまっていた。