第39話
文字数 2,752文字
僕が目を覚ましたときには地面は真っ暗に染まり、満天の星光る夜空。ここで眠ってしまったのか。はぁ。
そうだ! ミカロがいたはずだ! 彼女はどこにいる。
周りを見渡してみても、彼女は見つからない。まさか僕を置いていったのか?
僕の思っている彼女なら、そんなことはしないはず。ということは、僕がさっき会った彼女は偽物? いや、確証がない。それは後にしよう。
僕はホテルに向かって歩き始めた。そのとき、1つだけある電灯がベンチに座る女性を照らしていた。彼女はミカロにはない色の輝きを見せていた。金色の輝き。まさか!
僕は考えるよりも早く手を出して彼女を確かめずにはいられなかった。彼女は思っていたよりも小さく、子供だった。僕の勘違いか。はぁ。それにしてもどうしてこんなところに子供の女の子が? まさか、家出?
彼女は僕の手が触れたことに気が付いても、何も言葉を発しようとはしない。不思議な感じだ。こんなことをされたら誰でも動揺したりするはずなのに。
地面が、電灯が、ベンチが姿を消し、紫色の奇妙な感覚のする光の中に引きこまれる。それと同時に彼女が僕と同じ身長にまで大きくなった。
どうなっているのだ。僕は夢でも見ているのか? 彼女は僕から見えないように顔を髪で隠し、肩を震わせながら涙を流し始めた。
彼女は僕に右手を出し、握手をするよう指示してきた。なんだろうこの感じ。あのときと少し似ている。もしかして僕の失われていた記憶の続き、なのか?
僕は彼女の手を取った。つもりだった。けれど、僕の手にはまた柔らかみのある白いマフラーのようなものが手にある。
白いマフラーは輝きを放ち、僕を包み込む。彼女は拒絶されるように、外の壁へとたたきつけられた。
これは、夢なのか? それとも現実? そんな答えを考える暇もなく、僕の周りは真っ白な光に包まれていく。
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なんだろう。僕の身体がひっきりなしに揺れている。震えているわけではないし、マッサージでもされているのか? いやそんなことを言っている場合じゃない! ミカロ!
風景がめまぐるしく切り替わっていく外の景色。見ているだけで気分の落ち着きを取り戻せそうな緑色のソファー。そして個人の部屋を仕切る横にスライドできるドア。ここは、列車の中だった。
エイビスは僕のお腹に両腕を回し、僕の顔を下から見つめる。いや、今はこんなことをしている場合じゃない。僕は彼女の手を離し、席に座った。
僕はエイビスお手製の紅茶が入っている、ピンク色の鉄の入れ物を受け取った。いろいろ聞きたいことは多いけれど、とりあえず落ち着こう。
ごくり。美味しい。今日も青色の紅茶かな。気持ちが安らいでいく。自然の眺められる景色の相乗効果と相まってとても良い感覚だ。
エイビスは僕の元に戻って来たタイミングで僕は彼女に鉄製の入れ物を返し、今に至るまでの話をすることにした。こんな状況をミカロが見たら、殴りかかってきそうだなー。さてと、何から聞こうかな。
エイビスはシオンがロビーに向かわれた後、しばらく本を読んだり紅茶を飲んだりして時間を過ごしていた。けれど夕方になってもシオンが戻らないことを不審に思い、彼女は辺りを探して見ることにした。
正星議院やホテル内、シオンと今まで向かったあらゆる場所を回った。けれども彼が見つかることはなく、途方に暮れていた。
エイビスとしては当然のことだ。基本的には僕の元から離れようとはせず、常に僕と行動を共にしてくれている。何より、彼女はルームメイトだからこそファイスたちよりも詳しい部分もあるし、探そうとするのは無理もない。
まさかホテルの裏地にいるとは思わないよなぁ。
エイビスは嬉しそうな表情で僕を見つめる。彼女が美味しいものを食べたときのようなうれしい顔で僕に抱き着いて来たってことは、そのとき僕に何かがあったってことなのかな?
僕は疑問に思いつつも、彼女の言葉にうなずき話を進めた。
そうか。だから僕は急に目の前がぼやけていったのか。毒針、まさかミカロが仕掛けたのか? いや、きっと違う。そう信じたい。
そう。彼女は僕らでは想像のつかないことを簡単にやってのけてしまう。例えば料理を自分たちで作ったり、今回みたいな本来では医療機関を必要とする難易度のある治療だったりするものだ。
そのせいか僕は彼女のお世話になってばかりいる。それをケーキやモノで僕はお返しをしているが、彼女と同じ気分になれるかというとそうでもない。
本当に情けない。もっと学ぼう。
「シオンさまのどんな大事にも対応できるよう、様々な治療ができるように学んでいるのです! というのは名目で、以前の1人での状態は自分でなんとかしなければなりませんでしたから、自然と身についていったことなのですわ。シオンさまが目を覚ましてくださったので、わたくしもようやく考えることなく空気を取り込むことができます」
エイビスは僕を見て、右手を胸前に置き息を大きく吸う。おおげさだろう。けれど、それをやらなきゃいけないのはむしろ僕だ。本来なら僕は毒に負けて死んでしまっていたかもしれない。
何時間ぶりにミカロに会えていたから、気持ちが動揺しちゃっていたのかな。今度からは気をつけないと、本当に気が付いた時には殺されてしまっていそうだ。
僕が昨日までどうしていたのかは分かった。それにしてもよく僕を見つけたものだ。