第39話

文字数 2,752文字

「ここは!」

 僕が目を覚ましたときには地面は真っ暗に染まり、満天の星光る夜空。ここで眠ってしまったのか。はぁ。

 そうだ! ミカロがいたはずだ! 彼女はどこにいる。


 周りを見渡してみても、彼女は見つからない。まさか僕を置いていったのか? 


 僕の思っている彼女なら、そんなことはしないはず。ということは、僕がさっき会った彼女は偽物? いや、確証がない。それは後にしよう。


 僕はホテルに向かって歩き始めた。そのとき、1つだけある電灯がベンチに座る女性を照らしていた。彼女はミカロにはない色の輝きを見せていた。金色の輝き。まさか!


 僕は考えるよりも早く手を出して彼女を確かめずにはいられなかった。彼女は思っていたよりも小さく、子供だった。僕の勘違いか。はぁ。それにしてもどうしてこんなところに子供の女の子が? まさか、家出?


 彼女は僕の手が触れたことに気が付いても、何も言葉を発しようとはしない。不思議な感じだ。こんなことをされたら誰でも動揺したりするはずなのに。

「どうしたの?」
「シオン君、どうしてあのとき来てくれなかったの?」
「え?」

 地面が、電灯が、ベンチが姿を消し、紫色の奇妙な感覚のする光の中に引きこまれる。それと同時に彼女が僕と同じ身長にまで大きくなった。


 どうなっているのだ。僕は夢でも見ているのか? 彼女は僕から見えないように顔を髪で隠し、肩を震わせながら涙を流し始めた。

「お、落ち着いて! 急に触ったりしてすみません!」

「だったら、私の手を取って。これでもか、っていうくらいに力強く握って」

 彼女は僕に右手を出し、握手をするよう指示してきた。なんだろうこの感じ。あのときと少し似ている。もしかして僕の失われていた記憶の続き、なのか?

「早く! じゃないと落ち着けないの!」
「は、はい!」

 僕は彼女の手を取った。つもりだった。けれど、僕の手にはまた柔らかみのある白いマフラーのようなものが手にある。


「くっ!」

 白いマフラーは輝きを放ち、僕を包み込む。彼女は拒絶されるように、外の壁へとたたきつけられた。


 これは、夢なのか? それとも現実? そんな答えを考える暇もなく、僕の周りは真っ白な光に包まれていく。



---



 なんだろう。僕の身体がひっきりなしに揺れている。震えているわけではないし、マッサージでもされているのか? いやそんなことを言っている場合じゃない! ミカロ!

「シオンさま! お目覚めになられましたか! よかったですわぁ~!」
「え? えっ?」

 風景がめまぐるしく切り替わっていく外の景色。見ているだけで気分の落ち着きを取り戻せそうな緑色のソファー。そして個人の部屋を仕切る横にスライドできるドア。ここは、列車の中だった。


 エイビスは僕のお腹に両腕を回し、僕の顔を下から見つめる。いや、今はこんなことをしている場合じゃない。僕は彼女の手を離し、席に座った。


「エイビス、僕はなぜここに?」
「まずはファイスさんたちに、シオンさまが意識を取り戻されたことを報告してまいります。それが終わるまでは、紅茶を飲んでしばらくお待ちくださいまし」

 僕はエイビスお手製の紅茶が入っている、ピンク色の鉄の入れ物を受け取った。いろいろ聞きたいことは多いけれど、とりあえず落ち着こう。


 ごくり。美味しい。今日も青色の紅茶かな。気持ちが安らいでいく。自然の眺められる景色の相乗効果と相まってとても良い感覚だ。


 エイビスは僕の元に戻って来たタイミングで僕は彼女に鉄製の入れ物を返し、今に至るまでの話をすることにした。こんな状況をミカロが見たら、殴りかかってきそうだなー。さてと、何から聞こうかな。

「とりあえず僕を見つけてくれたところから教えてくれますか?」
「は、はい! もちろんですわ!」

 エイビスはシオンがロビーに向かわれた後、しばらく本を読んだり紅茶を飲んだりして時間を過ごしていた。けれど夕方になってもシオンが戻らないことを不審に思い、彼女は辺りを探して見ることにした。


 正星議院やホテル内、シオンと今まで向かったあらゆる場所を回った。けれども彼が見つかることはなく、途方に暮れていた。


 エイビスとしては当然のことだ。基本的には僕の元から離れようとはせず、常に僕と行動を共にしてくれている。何より、彼女はルームメイトだからこそファイスたちよりも詳しい部分もあるし、探そうとするのは無理もない。


 まさかホテルの裏地にいるとは思わないよなぁ。

「そのとき1つの電灯が光を発したのです。夜であったので怪しさもありましたが、そこへ向かうとようやくシオンさまを発見したのですわ!」

 エイビスは嬉しそうな表情で僕を見つめる。彼女が美味しいものを食べたときのようなうれしい顔で僕に抱き着いて来たってことは、そのとき僕に何かがあったってことなのかな?


 僕は疑問に思いつつも、彼女の言葉にうなずき話を進めた。


「そしてシオンさまをファイスさん協力の元、ベッドまで運んだのですが、苦しいご様子だったので、悪い夢でも見ているのかと思いましたが、何者からの毒針を受けてしまわれていたのです」
「毒針!?」

 そうか。だから僕は急に目の前がぼやけていったのか。毒針、まさかミカロが仕掛けたのか? いや、きっと違う。そう信じたい。

「それでわたくしは、シオンさまのために解毒剤と毒の取り抜きを行い、シオンさまはとても愛らしい表情でお眠りになりました」

 そう。彼女は僕らでは想像のつかないことを簡単にやってのけてしまう。例えば料理を自分たちで作ったり、今回みたいな本来では医療機関を必要とする難易度のある治療だったりするものだ。


 そのせいか僕は彼女のお世話になってばかりいる。それをケーキやモノで僕はお返しをしているが、彼女と同じ気分になれるかというとそうでもない。


 本当に情けない。もっと学ぼう。


「よくできましたね。本来なら病院行きでしたけど」

「シオンさまのどんな大事にも対応できるよう、様々な治療ができるように学んでいるのです! というのは名目で、以前の1人での状態は自分でなんとかしなければなりませんでしたから、自然と身についていったことなのですわ。シオンさまが目を覚ましてくださったので、わたくしもようやく考えることなく空気を取り込むことができます」

 エイビスは僕を見て、右手を胸前に置き息を大きく吸う。おおげさだろう。けれど、それをやらなきゃいけないのはむしろ僕だ。本来なら僕は毒に負けて死んでしまっていたかもしれない。


 何時間ぶりにミカロに会えていたから、気持ちが動揺しちゃっていたのかな。今度からは気をつけないと、本当に気が付いた時には殺されてしまっていそうだ。


 僕が昨日までどうしていたのかは分かった。それにしてもよく僕を見つけたものだ。

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登場人物紹介

 シオン・ユズキ。過去の出来事を失ってしまった主人公。


 困っているところをミカロに助けられ、天真の星屑(スターダスター)に加入した。


 鉾星の能力で敵を上空に打ち上げ連撃で仕留める戦い方をする。

正星議員のセレサリアから援助を受け、記憶探しを始めている。

 ファイス・ミッテーロ。天真の星屑(スターダスター)のリーダー。


 リーダーの割に考えなしに敵に突っ込むことが多い。そのせいで彼は様々なトラップや反撃をくらうことも多いが、そのおかげで敵の能力が把握できることが少なくない。


 時々考え事を姿を見ると、メンバーは明日の天気に不安する。


 イタズラ好きでシオンとミカロが2人でいるのを見るとよくからかいミカロの不機嫌を誘う。寛容であり能天気でたいていのことは考えずにうなずく。


 剛傑星で膨らんだ両拳で敵を吹き飛ばす。本気でやりすぎて海に飛ばしてしまった黒歴史がある。 

 ミカロ・タミア。天真の星屑(スターダスター)のメンバー。


 星霊星で星霊を呼び出し共闘する。(2人まで・金と銀の2種類いる)本人は扇を持っているので、風の攻撃でとどめをさすことも多い。彼女の前で星霊のことをモノのように話すとものすごい怒る。


 明るく他人と話すことを躊躇わない。素直で思った考えをすぐに口に出すが、怒りっぽいのがたまにキズ。


 シオンを自分のチームに引き入れた。彼の強さに動揺を隠せないが、むしろこんな人物がどこに姿を消していたのか、それとも黒歴史があるのか、興味がある。


 バストサイズが特徴的なせいか知らない異性からの視線を多く受けているが、本人は着られる服が限られるので、誰かにあげたいくらいだという。この言葉が裏で幾人もの恨みを買っていることを彼女は知らない。


 フォメア・ザブレット。

年齢は19でファイスと同年齢でシオンとミカロの1つ上。

チームの司令塔として動き、クエストでの時間短縮に貢献している。ケンカを始めたファイスやミカロに混ざって中立の立場を取っていたりする。


 明晰星を使用し、データやインターネット画面の出現やデータ上の武器を出現させて攻撃する。


 恋愛にあまり興味はない。

 ナクルス・フリズム。年齢はチーム最高齢の20。


 ファイスたちの会話に混ざることはほとんどなく、よっぽどのケンカでもない限りは気にしていない。


 仲間たちは彼を信頼しており、よく頼られる。


 火拳星を使用し、炎の一撃をくらわせる。

 セレサリア。星の有無は不明。


 7人いる正星議員の1人。シオンを支援すべく彼に情報提供をしている。


 女性の人気が多く正星議院ではよく囲まれている。

 リラーシア・ペントナーゼ。


 ミカロと同期で彼女とは親友。セレサリアの元で活動している。

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