第34話

文字数 1,673文字

 まずい、今更女性部屋の階にいることに気が付く。女将さんに見つかったら大変だ。リラーシアさんにも叱られる程度では済まない。僕は足音を立てず階段へと進む。


 涙をかき戻す音。

「どうしてあのようなことに......」

 僕は同化するように彼女の肩の上に手を置いた。そこには顔に流星を作った緑髪の彼女がいた。彼女はハンカチで誤魔化そうとしたが、僕には通じない。なんでも知りたくなってしまう性分しょうぶんなんだ。


 何より彼女はこれから僕たちと行動を共にする、一員じゃないか。隠し事は許されない。

「ちょっとだけ、僕の話を聞いてもらえますか?」
「構いません。シオンさまのお話ならぜひ」

 天真の星屑スターダスターに加入して1日目は僕にとって決断のときでもあった。記憶喪失。確かに一筋縄ではいかない。が、なんとかなる。例え戻らなくてもこれから僕を形作っていけばよいのだ。と簡単に腹をくくっているように見せた。


 僕はミカロがいなくなったスキに部屋から脱出し、旅に出ようとした。いろんな土地を見て、体験をして。それが記憶を戻すことにつながれば。そう調子のいいことも思っていたかもしれない。


考えるたびに自分のことを否定しているもう一人の自分に気が付く。お金はどうする? 誰かに騙されたらどうする? 信用できる人はどうやって見分ける? 問題は山積みだったが、僕にとっては行動こそが吉。それ以外はどうでもよかった。例え1週間しか持たずとも、ミカロに迷惑が掛からないのならそれで満足だった。


 船に乗り込もうとした瞬間、僕の足は止まった。いや、彼女にバレてしまったのだ。僕は素直に彼女に思いを告げる。けれど、僕は返答に納得してしまっていた。

「シオンは1人じゃないよ。例え今までのシオンを誰も知らなくても、覚えてなくても、私はシオンがどんな人だったのか知りたい。だって私達仲間でしょ?」
 僕はその言葉を認めてしまった。けれどそこには風が吹いていた。悪い気分にはなれなかった。彼女を幸せに導くと決めたから。
「僕はエイビスのことをもっと知りたいんです。仲間として共有したいんです。なんでも1人でため込まないでくださいね」

 彼女の頬にまた星が流れた。こんなつまらない僕の話で伝わるものがあれば、大歓迎だ。彼女は素直にうなずき真剣な表情を僕に見せる。


 彼女には相手パートナーに近い存在がいた。彼女の治療技術はそれが元で得意分野になっていた。彼女も彼も互いの時間が永久に続くことを望んでいた。が、エイビスは彼が倒した敵の残党によって捕らえられ、彼は傷をやむなしとし彼女のために代償を掃うことになった。


 彼女に救いが来た時には、もう相手は会話のできない人となっていた。彼女はクエスターとなり、自分を守るようになった。けれど、また捕まったことで彼のことを思い出さずにはいられなかったみたいだ。


 外の風景を眺めずにはいられなかった。誰かが人生を救うと誰かが不幸になる。その言葉が僕の心に響いた。

「以来わたくしはお相手を拒むことに決めたのです。わたくしと一緒だとみなさんに迷惑をかけてしまいますので」

 似ている。誰にも心配をかけたくないんだ。けれどちゃんと考えているのかと思えばそうでもなくて、むしろ悩んで行き詰ってしまっている。それを必死に笑顔で隠して自分の中にしまいこむ。そこから僕は救われた。


 座り込んだ彼女を僕は包み込む。彼女も手を添える。彼女の、彼女にふさわしい相手パートナーになろう。同じところがあるんだ。きっとうまくやっていけるはずだ。ミカロのためにも、彼女のためにも僕が諦める場所は見つからない。

「僕にエイビスのための手助けをさせてください。最大限努力をしますから!」
「力を抜いてくださいまし。シオンさまは不安にならずとも、素晴らしい魅力にあふれた方なのでございますから」
 頬から伝わる唇の感触。僕は彼女の横顔から目を逸らす。これが彼女なりの挨拶、なのだろう。
「楽しみにしています、シオンさま」
 彼女は僕に手を振り部屋に戻って行った。僕はしばらくさっきのことを思い出し、眠れなかった。
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登場人物紹介

 シオン・ユズキ。過去の出来事を失ってしまった主人公。


 困っているところをミカロに助けられ、天真の星屑(スターダスター)に加入した。


 鉾星の能力で敵を上空に打ち上げ連撃で仕留める戦い方をする。

正星議員のセレサリアから援助を受け、記憶探しを始めている。

 ファイス・ミッテーロ。天真の星屑(スターダスター)のリーダー。


 リーダーの割に考えなしに敵に突っ込むことが多い。そのせいで彼は様々なトラップや反撃をくらうことも多いが、そのおかげで敵の能力が把握できることが少なくない。


 時々考え事を姿を見ると、メンバーは明日の天気に不安する。


 イタズラ好きでシオンとミカロが2人でいるのを見るとよくからかいミカロの不機嫌を誘う。寛容であり能天気でたいていのことは考えずにうなずく。


 剛傑星で膨らんだ両拳で敵を吹き飛ばす。本気でやりすぎて海に飛ばしてしまった黒歴史がある。 

 ミカロ・タミア。天真の星屑(スターダスター)のメンバー。


 星霊星で星霊を呼び出し共闘する。(2人まで・金と銀の2種類いる)本人は扇を持っているので、風の攻撃でとどめをさすことも多い。彼女の前で星霊のことをモノのように話すとものすごい怒る。


 明るく他人と話すことを躊躇わない。素直で思った考えをすぐに口に出すが、怒りっぽいのがたまにキズ。


 シオンを自分のチームに引き入れた。彼の強さに動揺を隠せないが、むしろこんな人物がどこに姿を消していたのか、それとも黒歴史があるのか、興味がある。


 バストサイズが特徴的なせいか知らない異性からの視線を多く受けているが、本人は着られる服が限られるので、誰かにあげたいくらいだという。この言葉が裏で幾人もの恨みを買っていることを彼女は知らない。


 フォメア・ザブレット。

年齢は19でファイスと同年齢でシオンとミカロの1つ上。

チームの司令塔として動き、クエストでの時間短縮に貢献している。ケンカを始めたファイスやミカロに混ざって中立の立場を取っていたりする。


 明晰星を使用し、データやインターネット画面の出現やデータ上の武器を出現させて攻撃する。


 恋愛にあまり興味はない。

 ナクルス・フリズム。年齢はチーム最高齢の20。


 ファイスたちの会話に混ざることはほとんどなく、よっぽどのケンカでもない限りは気にしていない。


 仲間たちは彼を信頼しており、よく頼られる。


 火拳星を使用し、炎の一撃をくらわせる。

 セレサリア。星の有無は不明。


 7人いる正星議員の1人。シオンを支援すべく彼に情報提供をしている。


 女性の人気が多く正星議院ではよく囲まれている。

 リラーシア・ペントナーゼ。


 ミカロと同期で彼女とは親友。セレサリアの元で活動している。

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