第37話
文字数 2,374文字
僕のティーカップが空になり新しい紅茶をいれようとしたとき、エイビスはお風呂場から戻って来た。やっぱり彼女には長い丈のスカートが良く似合っている。心からそう思う。
お茶を入れ直し、僕たちは話を再開した。でもどうしてだろうか。エイビスがいつもより強引でない気がする。まぁそれに越したことはないのだけど。僕もあまり動揺のない生活の方が好きだし。
相談、か。確かにミカロはどんなことも、たとえ自信がない事でも真正面から堂々と言葉を発してくる。だからこそ、弱いところが見せられないでいる。彼女も昨日でそれがわかっただろうし、さすがに同じようなことをするとは思えない。それを否定できない僕がいる。
「確かにシオンさまの言う通りですわ。けれど、それは既に過去の出来事。シオンさまたちに出会う以前のことでしたから、もう結果を変えることはできません。しかし、今のミカロであればまだわかりません。現在の出来事であれば、まだ納得のいく結果に変えることができますから」
エイビスは床を眺めるように下を見てうつむいた表情を見せながら、僕の質問に答えた。僕は青い紅茶を口に含み空を見上げる。
確かに彼女の言う通りだ。今ならミカロの行動の目的をどうにかできる。僕の記憶も今から行動すれば、取り戻せる道筋になるように。僕は彼女の目に映るように移動し、頭を下げる。
どうして彼女は僕を許してくれるのだ。今の言葉をミカロが言っていたら、間違いなく夜通しケンカが続くだろう。けれど僕に対してはそれがない。
強さがあるからなのか? それとも修行してくれた恩があるから? 自分を囚われの場所から解放する手助けをしてくれたから?
女性というのはよくわからない。
彼女の言っていることは正しい。パートナーの時間は止まっているが、僕たちはそういうわけにはいかない。彼の知りえない先を見ていかなければならないのだ。とりあえずこの話は置いておこう。今はミカロを探し出さないと。
エイビスが周りを見渡した瞬間、彼女は口を開きそれを右手で塞ぎ驚いた表情を僕の横目に見せた。彼女の視線には何も映ってはいない。
ジリリリリィ! とまたうるさいベルの音が僕たちの部屋を包む。今度はなんだろう。もしかしてフォメアさんがミカロの居場所を突き止めたのかな?
ある方? 誰だろう? セレサリアさんかな、今時直筆の手紙って結構珍しい。わざわざそんなことをしなくても、電話で伝えてくれればいいのに。
まぁ僕が受け取らないと彼も困るだろうし、とりあえずもらっておこう。
僕は電話を切り、彼女の入れてくれた紅茶を一気に飲み干すと紺色の上着を着て外へと向かう。この時間だとクエスターの人はそんなにいないだろうし、あまり変な噂がたたずに済みそうだ。
あの手紙は何か事情のあるミカロが僕に渡そうとしたものだ。何となくそんな気がする。会って話したくない、声を聞くことなく意思を伝えたい。そんなことができるのは、文字だけだ。わざわざ時間をかけてそんなことをするのだから、きっと僕の考えは正しいに違いない。
とりあえず僕だけで逃げようとする彼女を追ってみよう。何か掴めるかもしれない。