第50話
文字数 3,380文字
僕が扉を開けると、そこにはいくつもの茶色のタンスが壁周り全体に配置され、エイビスが彼女のもちっとした柔らかく膨れた白い肌を自慢するように無防備な背中を僕に見せていた。
僕は彼女に話しかけるうんぬんより、勢いよく扉を、鉾を振るときの感覚のように勢いよく向こう側にたたきつけ、それに体をよりかからせた。はぁ。ビックリした。なんでこんなところで彼女は着替えているんだ。
思わず彼女が着替えている様子を、想像してしまう。戦場の場で何を興奮しているんだ僕は。頬に拳を1発。少し痛みが残る。
僕の右の方向に前にエイビスとナクルスと分かれたときにいた、上半身に重たそうな黒鎧をまとい、足にも紫色の鎧をまとった人が僕の考える暇もなく、剣を鞘から抜き僕の方向へと走り出してきた。
僕は鉾を構え、敵に攻撃を仕掛けるためにその攻撃と重なるように刃を対称に重ね合わせる。
けれど、時間が経ちすぎてそろそろ限界が来てしまっているのか、僕の力は押し返されエイビスへとつながるドアは勢いよく僕とともに倒れた。
黒鎧さんの力は留まることなく、今にも僕の身体を裂こうと鉾を斬ろうとカタカタ揺れながら僕の力と均衡していた。
僕は背中が地についた状態から足で地面を蹴りあげ鉾に力を加える。黒鎧さんの剣は弾かれ、彼の胸前の位置に戻った。
僕はエイビスを自分の背中の位置に呼び、彼女の前についた。なんとか時間を稼いでどうにかエイビスが着替えを完了できるようにしないと。1人じゃ時間が足りるかどうか不安だけど、やるしかない。
エイビスはシャツを少し着られて程度で、ボタンは留められなかったようでうっすらと下着が目に止まる。
戦いのときになんてこと考えているんだ! 今は目の前の敵に集中しないと!
黒鎧の人は僕に勢いよく飛びかかり剣を僕に向ける。僕はエイビスを右にずれるように指示し、鉾でガードする。
けれど勢いを止めることはできず、僕は隣の部屋へと突っ込んでしまった。
そうじゃないと僕の心が落ち着いていられない。そう言いたいところだけど、今は我慢だ。そんな冗談を考えていたら、いつ斬られてもおかしくない。
黒鎧の人は剣を鞘にしまい、エイビスの方を見た。
黒鎧の人がエイビスのいる部屋から出ようとしたとき、僕は瓦礫をどかして立ち上がる。たぶんだけれど、今日会った中では一番の本調子で一番強い。そんなことが嫌でも思い浮かんだ。
僕はエイビスに合図をして、黒鎧の人に飛びかかる。それと同時に彼女は僕のいた部屋へと駆け、扉を開きその場を後にする。
けれど、黒鎧の人の剣は飛ばすことはできなかった。ただ単に力の差なのか、それとも星の力の差なのか。彼はびくともせず、僕にもわかるように紫色の目で僕を睨んでいた。
倒せるかとかそんな冷静なことは問題じゃない。これはお互いの意思のぶつかりあい、地を荒らし、砂を、水を浮き上がらせその音が止んだとき立っているただ1人のものが勝者だ。
今の状況で言えば、どちらが互いの攻撃を押しとどめられるかに勝負はかかってくる。一時でも油断をすれば、どうなるかわからない。エイビスの助けが来る前に、勝負を決めよう。
僕は黒鎧さんが剣を鞘から抜くのと同時に彼に襲いかかる。僕の攻撃は残念ながら彼の速さを勝ることはなく、僕の攻撃は何度やってもいとも簡単にあしらわれた。
僕は3つ目の部屋に吹き飛ばされ、その壁をバネに敵に一直線に飛び上がる。砂ぼこりが巻き上がるよりも速く一撃、二撃と確実に彼の鎧を狙って攻撃を仕掛ける。
膝、鎧、右腹。各部位に攻撃箇所をしぼって鉾を突きつけ、上に飛び上がって攻撃を仕掛ける。
けれど、黒鎧さんは全ての攻撃を、僕の考えを既に知っていたかのように全て剣で受け止める。僕は彼と1つ部屋を境にする距離を取り、態勢を立て直す。
いままで見た中でもなかなかいない存在。攻撃がどんなものかはわからないけれど、これだけは言える。彼は、黒鎧さんはガードのスペシャリストであると。
見たこともないハズの僕の攻撃を全て受けきった。本来ならそこまで簡単にはいかないだろうに、彼は僕の攻撃を全て弾いた。
僕の体力は気がつけば、少しでも足場が崩れれば水に触れてしまいそうな距離にあるロウソクだった。
息は砂ぼこりをまき散らすほどに強く、顔には勝手に汗が流れていく。面白い。僕は思わずそんな考えが頭の中に生まれていた。相手は強い。けれど僕もなぜだかそんなところに行ける気がする。
自信なんてない。ただの妄想さ。けど、身体はなぜか元気だ。まだ暴れ足りていないのかいくらでも力の入るような自信がある。ちょっと困ったものだ。僕の心はこんなに疲れているのに。
確かにその通りかもしれない。僕は勝っているから今がある。勝っているからすぐそこにエイビスがいる。負けていれば僕の右手は治りもしなかったかもしれない。
なら証明しよう。勝利は何よりも強いのだから!
僕は黒鎧さんに向かって飛び、鉾を構える。黒鎧さんの刃と僕の刃の衝撃が砂をまき散らし、砂ぼこりを起こす。
見えなくてもわかる。僕の戦いだけの勘はよく当たる。僕は彼の兜を鉾で飛ばし、彼の素顔を見る。さっき戦った人とは違い、頭から1,2cmほどの少ない黒髪。そして目立つ顎にこびりついたエイビスに教えてもらった海苔という食べ物、のようにも見える黒色の目立つ逆三角形の髭。
僕は顔を見てただ彼の顔に鉾を振り上げる。彼女のようにはいかないだろうけれど、これが僕の努力の形だ。
「シオンならできるよ」 そんな声が頭から聞こえてくるような気がする。
彼のお腹を狙うように腰を低くし、体重を後ろから一気に前へと持っていく。
僕の作り出した衝撃波は黒鎧さんの刀を断ち、鎧を貫き、窓を突き破った。ミカロの鎌鼬を見ていてよかった。この一撃は僕だけのものじゃない。
僕は気が付いた時には、蹴り上げたように右足の裏を僕に見せる黒鎧さんがいた。僕は壁にたたきつけられ地で体を丸めた。
僕はぼやけていく視界のなか、彼を見つけ鉾を構える。手も、足も、目も、身体全体が震えている。
けれど彼は僕から目を逸らし背中を向ける。
そう言うと、黒鎧さんは部屋を後にした。
僕の言葉を聞くことなく、彼は奥へと歩いていく。まだだ。まだおわってはいない。
目の前は真っ暗になっていく。