第50話

文字数 3,380文字

「え、エイビス!?」
「シオンさまっ!?」

 僕が扉を開けると、そこにはいくつもの茶色のタンスが壁周り全体に配置され、エイビスが彼女のもちっとした柔らかく膨れた白い肌を自慢するように無防備な背中を僕に見せていた。


 僕は彼女に話しかけるうんぬんより、勢いよく扉を、鉾を振るときの感覚のように勢いよく向こう側にたたきつけ、それに体をよりかからせた。はぁ。ビックリした。なんでこんなところで彼女は着替えているんだ。

「すっ、すみませんエイビス! その着替え中だとは知らなくて......」


「い、いえっ! わたくしが悪いのです。周りの目も考えずに自分の体をさらけだすなんてこと、するべきではありませんから」

「あ、あのっ早く着替えてもらえますか! 敵がやってくるかもしれないですし!」
「は、はいっ!」

 思わず彼女が着替えている様子を、想像してしまう。戦場の場で何を興奮しているんだ僕は。頬に拳を1発。少し痛みが残る。

「ほぅ、そこに貴様の仲間がいるのか」

 僕の右の方向に前にエイビスとナクルスと分かれたときにいた、上半身に重たそうな黒鎧をまとい、足にも紫色の鎧をまとった人が僕の考える暇もなく、剣を鞘から抜き僕の方向へと走り出してきた。


 僕は鉾を構え、敵に攻撃を仕掛けるためにその攻撃と重なるように刃を対称に重ね合わせる。


 けれど、時間が経ちすぎてそろそろ限界が来てしまっているのか、僕の力は押し返されエイビスへとつながるドアは勢いよく僕とともに倒れた。


 黒鎧さんの力は留まることなく、今にも僕の身体を裂こうと鉾を斬ろうとカタカタ揺れながら僕の力と均衡していた。

「し、シオンさま!?」
「ぬ、どうやら貴様、仲間の覗き見が好きなようだな」
「そんなわけないでしょうが! ただの事故です、よっ!」

 僕は背中が地についた状態から足で地面を蹴りあげ鉾に力を加える。黒鎧さんの剣は弾かれ、彼の胸前の位置に戻った。

「エイビス、こっちに!」
「はい!」

 僕はエイビスを自分の背中の位置に呼び、彼女の前についた。なんとか時間を稼いでどうにかエイビスが着替えを完了できるようにしないと。1人じゃ時間が足りるかどうか不安だけど、やるしかない。


 エイビスはシャツを少し着られて程度で、ボタンは留められなかったようでうっすらと下着が目に止まる。


 戦いのときになんてこと考えているんだ! 今は目の前の敵に集中しないと!


 黒鎧の人は僕に勢いよく飛びかかり剣を僕に向ける。僕はエイビスを右にずれるように指示し、鉾でガードする。


 けれど勢いを止めることはできず、僕は隣の部屋へと突っ込んでしまった。

「シオンさま!」
「エイビスは早く着替えてください!」

 そうじゃないと僕の心が落ち着いていられない。そう言いたいところだけど、今は我慢だ。そんな冗談を考えていたら、いつ斬られてもおかしくない。


 黒鎧の人は剣を鞘にしまい、エイビスの方を見た。


「バジェスを倒したというから少し期待はしていたが、どうやらたまたまだったらしい。アイツも年を取ったな。かつての栄光が懐かしく見える」

「ちょっと待ってくださいよ」

 黒鎧の人がエイビスのいる部屋から出ようとしたとき、僕は瓦礫がれきをどかして立ち上がる。たぶんだけれど、今日会った中では一番の本調子で一番強い。そんなことが嫌でも思い浮かんだ。


 僕はエイビスに合図をして、黒鎧の人に飛びかかる。それと同時に彼女は僕のいた部屋へと駆け、扉を開きその場を後にする。


 けれど、黒鎧の人の剣は飛ばすことはできなかった。ただ単に力の差なのか、それとも星の力の差なのか。彼はびくともせず、僕にもわかるように紫色の目で僕を睨んでいた。


「どうやら相当修行を積んできているみたいですね。僕はそんな重たい装備で装備の少ない僕よりも速く動けた人は見たことがないです」

「称賛には感謝を。けれどもそなたが敵であることに変わりはない。一閃たりとも手を抜きはしない。バジェスを倒した実力の持ち主だからな」


「ええ、構いませんよ。その方が僕も心がモヤモヤしなくて済みますから」

 倒せるかとかそんな冷静なことは問題じゃない。これはお互いの意思のぶつかりあい、地を荒らし、砂を、水を浮き上がらせその音が止んだとき立っているただ1人のものが勝者だ。


 今の状況で言えば、どちらが互いの攻撃を押しとどめられるかに勝負はかかってくる。一時でも油断をすれば、どうなるかわからない。エイビスの助けが来る前に、勝負を決めよう。


 僕は黒鎧さんが剣を鞘から抜くのと同時に彼に襲いかかる。僕の攻撃は残念ながら彼の速さを勝ることはなく、僕の攻撃は何度やってもいとも簡単にあしらわれた。


 僕は3つ目の部屋に吹き飛ばされ、その壁をバネに敵に一直線に飛び上がる。砂ぼこりが巻き上がるよりも速く一撃、二撃と確実に彼の鎧を狙って攻撃を仕掛ける。


 膝、鎧、右腹。各部位に攻撃箇所をしぼって鉾を突きつけ、上に飛び上がって攻撃を仕掛ける。


高速三連刄トリプルスイング!」

 けれど、黒鎧さんは全ての攻撃を、僕の考えを既に知っていたかのように全て剣で受け止める。僕は彼と1つ部屋を境にする距離を取り、態勢を立て直す。


 いままで見た中でもなかなかいない存在。攻撃がどんなものかはわからないけれど、これだけは言える。彼は、黒鎧さんはガードのスペシャリストであると。


 見たこともないハズの僕の攻撃を全て受けきった。本来ならそこまで簡単にはいかないだろうに、彼は僕の攻撃を全て弾いた。


 僕の体力は気がつけば、少しでも足場が崩れれば水に触れてしまいそうな距離にあるロウソクだった。


 息は砂ぼこりをまき散らすほどに強く、顔には勝手に汗が流れていく。面白い。僕は思わずそんな考えが頭の中に生まれていた。相手は強い。けれど僕もなぜだかそんなところに行ける気がする。


 自信なんてない。ただの妄想さ。けど、身体はなぜか元気だ。まだ暴れ足りていないのかいくらでも力の入るような自信がある。ちょっと困ったものだ。僕の心はこんなに疲れているのに。

「ここまでお部屋を壊してしまうと、さすがにあなたの主が怒るんじゃないですか?」


「ものの心配はしていられぬ。そんなことよりも重大なのは勝利か否かだ。この世ではそれが一番ものを語るのだ」


 確かにその通りかもしれない。僕は勝っているから今がある。勝っているからすぐそこにエイビスがいる。負けていれば僕の右手は治りもしなかったかもしれない。


 なら証明しよう。勝利は何よりも強いのだから!


 僕は黒鎧さんに向かって飛び、鉾を構える。黒鎧さんの刃と僕の刃の衝撃が砂をまき散らし、砂ぼこりを起こす。


 見えなくてもわかる。僕の戦いだけの勘はよく当たる。僕は彼の兜を鉾で飛ばし、彼の素顔を見る。さっき戦った人とは違い、頭から1,2cmほどの少ない黒髪。そして目立つ顎にこびりついたエイビスに教えてもらった海苔という食べ物、のようにも見える黒色の目立つ逆三角形の髭。


 僕は顔を見てただ彼の顔に鉾を振り上げる。彼女のようにはいかないだろうけれど、これが僕の努力の形だ。


 「シオンならできるよ」 そんな声が頭から聞こえてくるような気がする。


 彼のお腹を狙うように腰を低くし、体重を後ろから一気に前へと持っていく。

斬破一振ざんぱいっしん!」

 僕の作り出した衝撃波は黒鎧さんの刀を断ち、鎧を貫き、窓を突き破った。ミカロの鎌鼬かまいたちを見ていてよかった。この一撃は僕だけのものじゃない。

「カハッ......」


 僕は気が付いた時には、蹴り上げたように右足の裏を僕に見せる黒鎧さんがいた。僕は壁にたたきつけられ地で体を丸めた。

「努力は認めよう。けれど今回ばかりは相手が悪い。力量はどうにかなろうとも、ここの差は埋まらん」

 僕はぼやけていく視界のなか、彼を見つけ鉾を構える。手も、足も、目も、身体全体が震えている。


 けれど彼は僕から目を逸らし背中を向ける。

「いまさら......怖気づいたんですか?」

「剣が断たれた今、我に戦う資格はない。その無理矢理な状態を叩くことができないのは気に入らないが、仕方あるまい。次は覚悟せよ」

 そう言うと、黒鎧さんは部屋を後にした。


「待て!」

 僕の言葉を聞くことなく、彼は奥へと歩いていく。まだだ。まだおわってはいない。


 目の前は真っ暗になっていく。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

 シオン・ユズキ。過去の出来事を失ってしまった主人公。


 困っているところをミカロに助けられ、天真の星屑(スターダスター)に加入した。


 鉾星の能力で敵を上空に打ち上げ連撃で仕留める戦い方をする。

正星議員のセレサリアから援助を受け、記憶探しを始めている。

 ファイス・ミッテーロ。天真の星屑(スターダスター)のリーダー。


 リーダーの割に考えなしに敵に突っ込むことが多い。そのせいで彼は様々なトラップや反撃をくらうことも多いが、そのおかげで敵の能力が把握できることが少なくない。


 時々考え事を姿を見ると、メンバーは明日の天気に不安する。


 イタズラ好きでシオンとミカロが2人でいるのを見るとよくからかいミカロの不機嫌を誘う。寛容であり能天気でたいていのことは考えずにうなずく。


 剛傑星で膨らんだ両拳で敵を吹き飛ばす。本気でやりすぎて海に飛ばしてしまった黒歴史がある。 

 ミカロ・タミア。天真の星屑(スターダスター)のメンバー。


 星霊星で星霊を呼び出し共闘する。(2人まで・金と銀の2種類いる)本人は扇を持っているので、風の攻撃でとどめをさすことも多い。彼女の前で星霊のことをモノのように話すとものすごい怒る。


 明るく他人と話すことを躊躇わない。素直で思った考えをすぐに口に出すが、怒りっぽいのがたまにキズ。


 シオンを自分のチームに引き入れた。彼の強さに動揺を隠せないが、むしろこんな人物がどこに姿を消していたのか、それとも黒歴史があるのか、興味がある。


 バストサイズが特徴的なせいか知らない異性からの視線を多く受けているが、本人は着られる服が限られるので、誰かにあげたいくらいだという。この言葉が裏で幾人もの恨みを買っていることを彼女は知らない。


 フォメア・ザブレット。

年齢は19でファイスと同年齢でシオンとミカロの1つ上。

チームの司令塔として動き、クエストでの時間短縮に貢献している。ケンカを始めたファイスやミカロに混ざって中立の立場を取っていたりする。


 明晰星を使用し、データやインターネット画面の出現やデータ上の武器を出現させて攻撃する。


 恋愛にあまり興味はない。

 ナクルス・フリズム。年齢はチーム最高齢の20。


 ファイスたちの会話に混ざることはほとんどなく、よっぽどのケンカでもない限りは気にしていない。


 仲間たちは彼を信頼しており、よく頼られる。


 火拳星を使用し、炎の一撃をくらわせる。

 セレサリア。星の有無は不明。


 7人いる正星議員の1人。シオンを支援すべく彼に情報提供をしている。


 女性の人気が多く正星議院ではよく囲まれている。

 リラーシア・ペントナーゼ。


 ミカロと同期で彼女とは親友。セレサリアの元で活動している。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色