第28話

文字数 2,522文字

「ん~。君がシオンか。ミランから聞いている。私はワインズハット。君には生贄になってもらうよ」
 攻撃を仕掛けてくる雰囲気はない。僕は鉾を背負い両手を自由にした。
「生贄? ならどうしてあなたはこんなことを?」
「それは君が知る必要はないさ。さてと、さっそくだが始めようか」
 僕の目の前にワインズハットが移動する。鉾を構えたが僕は壁にたたきつけられる。エイビスは剣を構え警戒を見せた。
「君にはこれがお似合いだ」

 目が紫色に光った。なんだこれ、だんだん視界がぼやけ......



☆☆☆


「ねぇ、シオン......私とじゃ、ダメ?」
 見慣れないピンク色の宿舎。いや、正星議院とは関係なさそうだ。僕は彼女を両手で距離を保たせ彼女の目を見る。
「ダメですよ、いろいろ段階がありますし」
「シオンにだったらいいよ。それだけじゃダメ?」

 いつになく彼女のことが魅力的に見える。触れたときにしかわからないずっしり重みのある胸の感触、艶々しい唇、そして純粋な目。僕を動揺させるには十分すぎるものだった。


 どうして? その言葉を繰り返すたびに疑問が湧く。敵はどこだ。

「シオンさまー!」

 その言葉と共に僕は目の前にいた黒帽子黒外套マントの敵に気が付く。足は考えるまでもなく走り始めた。


 彼女の剣を交わし距離を取ろうと後退する。エイビスさんの星は未知数だ。怪我人に無理を強いるわけにもいかない。回転と同時に鉾を引き抜き距離を作る。


 武装発光ウェポンライトで視界を奪い距離を詰め自分の空間に持ち込む。気づけば壁に激突していた。


 彼のステッキがしなり僕に攻撃を仕掛ける。距離を一定に取り僕の攻撃の瞬間を止めようと動く。動きが読まれている。


 エイビスが進もうと動く。それを手で拒否する。僕の手は衝撃を受け痺れが身体じゅうを走った。

「呼んでおいてそれは礼儀がなってないんじゃないの?」

 僕の頭は真っ白になった。目の前にいるのは誰だ? 僕が憶えていたのはミカロと違い乱暴でなくて麗らかで礼儀正しい彼女だ。視界には乱雑に敵に斬りかかる彼女が見えた。


 女性は恐ろしい。僕は立ち上がることを忘れていた。

「何してんの? 手伝いなさいよ」
「は、はい!」
 エイビスさん、そう呼ぶことにしよう。そうでもないと彼女と区別がつけにくい。見口調はわかりやすいけど。
「やっぱり何か仕込んでいたようですわね......」

 剣は姿を消し、彼女は地に膝を着いた。彼女を連れ戻し際、僕は彼の剣をもろに受けた。足から血が流れていく。


 エイビスさんは気を失っている。急いで戦闘を終える必要が出てきた。姿が視界を外れた瞬間、上空に飛び位置を確認。


 お気に入りに右手で押さえる帽子を狙う。

「単純な策に引っかかるとでも?」
「思ってましたよ!」

 敵の地に蜘蛛の糸が張られる。この好機チャンスを僕は逃さない。敵をきり刻み壁に吹き飛ばす。


 鉾を振り下ろした瞬間、彼は完全に動きを停止させた。


 よし。あとはエイビスさんを連れて行けば。


 いない。悲鳴が耳に入る。ワインズは彼女の首元に剣を向けていた。



---



 敵はフォメアを見た瞬間、標的を変えた。だが俺の身体は動きを見せなかった。フォメアでも無理か。



永変水ウォームアイス!」

 フォメアの声で氷柱は姿を消した。手のうちから氷が形成される。厄介だな。フォメアは固まった状態の俺とナクルスに首を傾げる。


 全身に力を入れ、踏み出す。これでわかんだろ? 首を元に戻した。よし。


 敵は俺を標的に突き進む。拳をこちらに突き付けると同時に武器は姿を消した。


 動く。拳を弾き腹に一撃を叩きこむ。入った感触がねぇ。距離を取られ俺は動きを止める。ナクルスが近づき敵は氷柱を用意する。ナクルスが止まったかと思いきや氷は水に変わりナクルスはヤツを壁の中に吹っ飛ばす。


 体までは氷じゃねぇみたいだな。おかげで何とかなりそうだ。


 敵はこっちに笑顔を見せ氷柱を両手に構える。フォメアは首を振った。


 ナクルスが俺の方向に飛び上がり俺たちに重みがかかる。

「不死鳥の焦乱フェニックス・セアチャス!」
 無数の火の粉が俺の足元ぎりぎりに飛びかかる。敵は氷の壁でそれらを防ぐ。着地まで間に合わないか。体は言うことを聞かなかった。
「ボルムは調子者だな。冷静に案ずれば誰でも勝利が手に入ることを知らないとは」

 ナクルスが地に付いた瞬間、体が軽くなった瞬間とともに、俺は体を屈めた。目に穴が開くかと思った。あと少しで目線がドーナツになるところだった。


 敵は氷柱を投げ俺を囲もうと動く。ナクルスが動こうとするが、そのときにはフォメアが俺の隣にいた。

「人数の差があろうとも、攻撃力に違いがあろうとも、一人においては力量はそこまで変わらん。この実力であればアイツ・・・を倒すのは難しくないさ」

 違ぇ。一番辛ぇのは誰かを捨てなきゃいけないことだ。どうしてこんなときばっかりあいつらのことを思い出しちまう。俺がそれを望んでんのか? それが俺の、俺たちの運命なのか?



☆★★

「何かを捨てられないやつが変革を起こせない。ただのホラ吹きになり下がる。お前はそれだけは勘弁しろよ」
「そんな言葉......お前が成し遂げてからにしろよ!」

★★☆



 お前があれ・・を残した意味が分かった。変革を起こしてやるよ。




上空に飛び上がり態勢を整える。俺が不思議な空間に進入すればどうなるかは気になるがそんなこと言ってられねぇ。敵の頭を狙い、拳を振り上げ飛びかかる。


 スピードが跳ね上がり俺は敵のつららに突っ込んだ。ナクルスは倒れている。そういうことかよ。敵は吹き飛び俺は肩からつららを引き抜く。

「氷結陣の範囲に気が付いたか。だがそれでもお前たちの勝利は完全に途絶えている。例え氷を一瞬無力化されようともな」
巨人のギガント......」
氷壁アイスウォール!」
「波状炎!」
 氷は姿を消した。サンキュー、おかげでこいつの顔がはっきりと見える。お返し分、きっちりと返してもらうぜ!
鉄撃アイアンパンチ!」

 鉄は氷も砕く、ってな。とっさに自分を変化させたみてぇだけど、防御してないのと変わらねぇな。


 俺はグッドサインを送った。

「ケケケ......フリアス、お前も同じじゃねぇ、かっ」
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登場人物紹介

 シオン・ユズキ。過去の出来事を失ってしまった主人公。


 困っているところをミカロに助けられ、天真の星屑(スターダスター)に加入した。


 鉾星の能力で敵を上空に打ち上げ連撃で仕留める戦い方をする。

正星議員のセレサリアから援助を受け、記憶探しを始めている。

 ファイス・ミッテーロ。天真の星屑(スターダスター)のリーダー。


 リーダーの割に考えなしに敵に突っ込むことが多い。そのせいで彼は様々なトラップや反撃をくらうことも多いが、そのおかげで敵の能力が把握できることが少なくない。


 時々考え事を姿を見ると、メンバーは明日の天気に不安する。


 イタズラ好きでシオンとミカロが2人でいるのを見るとよくからかいミカロの不機嫌を誘う。寛容であり能天気でたいていのことは考えずにうなずく。


 剛傑星で膨らんだ両拳で敵を吹き飛ばす。本気でやりすぎて海に飛ばしてしまった黒歴史がある。 

 ミカロ・タミア。天真の星屑(スターダスター)のメンバー。


 星霊星で星霊を呼び出し共闘する。(2人まで・金と銀の2種類いる)本人は扇を持っているので、風の攻撃でとどめをさすことも多い。彼女の前で星霊のことをモノのように話すとものすごい怒る。


 明るく他人と話すことを躊躇わない。素直で思った考えをすぐに口に出すが、怒りっぽいのがたまにキズ。


 シオンを自分のチームに引き入れた。彼の強さに動揺を隠せないが、むしろこんな人物がどこに姿を消していたのか、それとも黒歴史があるのか、興味がある。


 バストサイズが特徴的なせいか知らない異性からの視線を多く受けているが、本人は着られる服が限られるので、誰かにあげたいくらいだという。この言葉が裏で幾人もの恨みを買っていることを彼女は知らない。


 フォメア・ザブレット。

年齢は19でファイスと同年齢でシオンとミカロの1つ上。

チームの司令塔として動き、クエストでの時間短縮に貢献している。ケンカを始めたファイスやミカロに混ざって中立の立場を取っていたりする。


 明晰星を使用し、データやインターネット画面の出現やデータ上の武器を出現させて攻撃する。


 恋愛にあまり興味はない。

 ナクルス・フリズム。年齢はチーム最高齢の20。


 ファイスたちの会話に混ざることはほとんどなく、よっぽどのケンカでもない限りは気にしていない。


 仲間たちは彼を信頼しており、よく頼られる。


 火拳星を使用し、炎の一撃をくらわせる。

 セレサリア。星の有無は不明。


 7人いる正星議員の1人。シオンを支援すべく彼に情報提供をしている。


 女性の人気が多く正星議院ではよく囲まれている。

 リラーシア・ペントナーゼ。


 ミカロと同期で彼女とは親友。セレサリアの元で活動している。

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