第22話
文字数 3,210文字
彼女も動きを止めた。なんだこれ? ストップモーション?
いやいや何をバカなことをしているんだ。僕はミカロの手を取りいつもの分かれ場所と決めているエレベーターの前まで彼女を連れていく。
彼女の手は尖ったような感覚をしたが、何も言ってくることはなかった。考えたいことの1つや2つ、ミカロにも当然あるのだ。
目的地に到着し彼女の手を放しても、彼女はいつも通りではなかった。まだ何かを決めかねている様子だった。ひょっとして僕と同じことを考えて......
白い大理石の床にそれを叩くような奇妙な音が聞こえる。探検家? その音はスコップでもピッケルでもなく、黒色のマンゴーのような物体だった。
僕は彼女を引き寄せ壁に飛び込んだ。衝撃が弾けだし僕たちは壁に吹き飛ばされる。まさかこの中に侵入してくるなんて。
気が付いたときには僕は彼女の全身を持ち上げてしまっていた。柔らかい太ももの感触が僕の手を固まらせる。僕はミカロに謝ったが、彼女はそんなことよりも早く降ろしてほしかったようで気にしている様子はなかった。
騎士団の兵士が自動昇降台前に突き飛ばされる。それを見て僕とミカロは変現し黒煙に包まれたロビーの状況を確認する。突き進む兵士に向かって飛んでいく砲弾。聞こえてくる水を叩く音と足蹴りの衝撃。考えるまでもなく僕たちの目の前にはいつかの彼らがいた。
何よりロビー奥の町でも同じような光景が広がっていた。家は燃え上がり逃げ惑う市民たち。気が付いた時には手から血が流れそうな感覚がするほどに力を込めていた。
彼女はいつものようにアクエリオスを召喚し準備を整える。外で小さな爆発が目に入る。僕たちは兵士の人たちに消火を頼み、僕を見つけてうれしそうに笑みを浮かべるユースチスと対峙する。
空が暗くなってきている。うまくいけば......いや、事後になるだろうか。
僕は目線を燃え盛る町に合わせ、彼女に意見を伝える。彼女も理解してくれたようで笑顔でピースサインを送ってきた。僕は笑みを浮かべつつ鉾を構える。
けれど彼が砲撃を開始した瞬間、戦況が変化した。彼の恐れが実態となって姿を現した。僕たちはその瞬間、安心して窓ガラスに突っ込んだ。
僕はミカロを引き寄せ彼女をガラスから守ろうとしたが、アクエリオスさんのいる彼女には不要だった。けれど彼女の心のこもった“ありがとう”は不思議と僕の心を安心させた。
降りる最中黒いローブを着た人たちが気になった。僕たちは分かれて窓ガラスに爆弾を投げ込む彼らを捕らえることにした。
ミカロは両手に力を込めアクエリオスさんとともに壁を伝いローブの敵を追いかけて行く。彼女の服に思わず注目してしまったが、今回はショートパンツだ。誰かに見られても何の問題もない。
そんなのんきなことを考えている場合じゃない。僕も目線の先に見えた黒いローブの敵を追いかける。後ろ、左右に同じ敵たちが姿を見せる。不敵な笑みを浮かべているようにも見える。囲まれてしまった。
彼らが爆弾を放った瞬間“武装発光”で全員の目をくらまし彼らを背後に建物の中に姿を消す。ミカロは大丈夫だろうか。アクエリオスさんにヴィエンジュさんもいるんだ。問題ないか。
僕は鉾で飛び上がり敵の一人を吹き飛ばしたが、彼は最後の抵抗で持っている爆弾すべてを僕たちの方へと投げつける。
命に興味はない。そんな戦い方だ。煙が空をどんより黒く塗りつぶし灰色に染めてゆく。銃弾が視界と注意を奪い人数の力差を広げていく。隙を埋めては隙を作る。それを見て敵は機械のように連続行動を取る。その戦い方に僕は画竜点睛の成れを見た。
銃弾を水平に弾き返し敵の注意を崩す。崩壊は一瞬だった。一筋の考えが人数の差を翻し、攻撃が終了したとき立っていたのは俺だけだっ......
グッ。なんだ今のは。知らない何かが流れ込んでくる。僕という意識が煙と共に空に吸い取られているような感覚がする。雲を見れない。視界に入れてしまえば僕が消えてしまう。恐ろしい。
手足は機能を忘れ考えを鈍らせる。砲撃に気が付いたとき、体は勝手に対策を案じていた。目に入った砲撃船の姿に僕は立ち上がらせられた。心の源をお腹いっぱいに取り込み態勢を修正する。
腕は滑らかに、足は軽やかになってゆく。6つの弾丸が僕の注意を逸らし、周りを火の色に染め僕の動きを収縮していく。頭に不可思議が宿る。俺を目的に爆弾が必......落ち着け! 今の状況に集中しろ!
飛び出す弾丸と敵の動きに着目し、赤レンガの天井を舞台に1つを敵に弾き返す。それに乗じ注意のなくなった僕は離れ走る彼に背後から鉾をたたきつける。煙が僕らを包み、迷いを生ませる。経験の差か、記憶の差か、僕はレンガにたたきつけられ鉛玉が目にこんにちはをした。
鉾で視界を遮りユースチスと距離を取り、前のめりに敵の動きを手に取る戦い方を取る。武装発光の合図とともに敵の後頭部に襲い掛かる。さながら獲物を喰らおうとする獣のように。僕に見えたのは彼の背中が海へと飛んでゆく姿だった。
やらせない。レンガを地面に押し込み天井を飛び移る。リラーシアさんのためにも足を留めるわけにはいかない。
☆★☆
私はローブの敵を地面に横たわらせて、水使いの女の子と対峙していた。足がふっくらと水を含んでいて、むくみに悩まなそうなのはうらやましい。
敵の口は動かない。ほっぺをつねってやりたいところだけど、それよりも先に親友の光が彼女の姿をかすめる。飛び上がるのと同時にアクエリオスが地上の自由を奪う。
私は“これで話してくれるかな?”って自信満々の顔をする。けど彼女の表情は変わらなかった。むしろ私のことを瞬きせずしつこく見つめている。顔疲れないのかな?
せっかくのチャンスだけど脅しを使うわけにもいかない。私は彼女と一緒に気味の悪い雲から遠ざかろうとした瞬間、風が変わったのを見逃さなかった。
扇越しに体が吹き飛ばされる。目の前には足を開いてアクエリオスの水を弾いた彼女が見える。理由を考えるよりも早く彼女は私に近づく。
接近戦は私にとって死。距離を取ろうにも彼女は私の頬を擦り余裕のある笑顔を見せる。このままじゃダメだ。そう思ったとき私は彼女に押し倒され両足を抑えつけられていた。
そのときの彼女の嘲笑うような笑みを私は睨み返す。おかげで服がびしょびしょにさせられた。絶対に許さない。
彼女は私に曇った表情を見せる。心の中にモヤモヤがこもる。足蹴りが私の頬を擦りレンガの欠片が髪に絡まる。アクエリオスの水球で彼女の視界を奪い脱出する。けど考える暇もなく私に足蹴りを仕掛けてくる。
髪は宙を踊り散ってゆく。扇で攻撃しようにもスキが大きすぎる。2人で攻撃してもらおうにも私のことを心配してきっと全力では攻撃してくれない。逃げ戸惑い、気が付いた時にはいくつもの水たまりが1つの池になっていた。あの子がいてくれたらなぁー。うんうん、これ以上は時間をかけてらんない。
シオンは大丈夫かな? その油断が私の目の前を真っ暗にした。同時に私は笑顔で指を振り下ろした。水の滴る音と熱が勢いよく飛んでゆく音が聞こえる。
凹凸の目立つ地面の痛さで立ち上がって目を開いたとき、私にだけ青空が見えた。