第44話
文字数 3,266文字
僕たちはミカロのお父さんのいる家中に侵入し、彼のいる場所を探すことに3人で決めた。今は入ってすぐある玄関の部屋に来ている。本来なら靴を脱ぐところだけど、今はそんなことを言ってはいられない。
4つの柱が部屋の隅に位置し、それぞれの一番下には暖炉がありものすごく暖かい。おまけにリラーシアさんがいつも着ている騎士の鎧や、何本も刀が各入口に1つずつ飾られていた。僕とは全く違う世界を生きている。そんな感じがする。
正直なところ、これだけ大きい場所となると何人の敵がいるかわからない。僕たちは確実に彼を見つけるために、全員で行動することにした。
エイビスは目を下に向けて不安げな表情で僕のことを見つめてきた。彼女は初めて自分が戦おうとしていることに緊張しているのだろう。僕も初めは戸惑っていた。誰だって初めては怖いものだ。
エイビスは僕の言葉を聞くなり、勢いよく僕の顔に近づいてきた。彼女の予想できない動きは、なんだかんだ心臓に悪い。いつかとんでもないことに巻き込まれてしまいそうな、そんな気がする。
エイビスは僕に不思議な言葉を残し、階段のある後ろの方向へと振りむく。そこには、白い上着物に、僕らとは少し違う柔らかい感触のようにふわっとした印象のする灰色に近い下衣。そして手から放たれている桃色の光、その色に劣らぬ美しさの桃色の短髪。エイビスよりも少し年上だがシワのない女性と顔が角のない悪魔のようにも見える、黒い鎧を身にまとい、背中の剣の鞘を右手で力強く握った男が僕たちを見ていた。
黒鎧の人物から男のような低く僕にとっては聞き取りやすい声が聞こえた。桃色髪の彼女はそんな彼の言葉を注意する。やっぱり年上なだけある。警戒心が強い。僕たちの言葉を聞いてくれそうにないか。
僕が最後まで話をしようとした瞬間、桃色髪の女性が僕のすぐ近くに現れた。距離を取らないとまずい。そう思ったが、既に彼女の桃色に光る手は僕の目の前に大きく掲げられていた。
僕が後ろに逃げず敵の攻撃から防御するために、腰を低く構えたとき、桃色髪の女性は飛び上がり、一番奥の道へと続く場所まで移動し身を隠した。
僕の目の前には、鞘の尾にある白く、見ていると不思議な感覚になる細長い衣が見えた。これは間違いない。人の言うことはあまり聞いてはくれないけれど、しっかり仕事をする彼女だ。
碧色の目は紫へと変わり、自然と体全体が緊張を感じてしまう感覚。そう、その異質を感じさせることがエイビスさんのすごいところでもある。
僕はエイビスさんの正し過ぎる表現に、思わず苦笑いで場を治めようとした。確かに悪い意味で今回の問題とミカロの性格は少し似ている。
まぁそれは時にいいことなのはさておき、行こう。
実戦経験豊富なエイビスさんは本当になんでもお見通しだ。彼女の実力とエイビスの知識。2人の個性が合わされば、完璧すぎて僕は何も言い返す言葉が浮かばない。
ここは彼女の指示に従おう。ようは時間が稼げないから、できるだけ早く決着をつけないと!
彼女の合図とともに僕とエイビスさんは黒鎧の男の元へと駆け、ナクルスは桃色髪の女性の元へと向かう。
エイビスさんが僕より先行し、男に斬りかかる。けれどその瞬間、彼の姿はなかった。いったい、どこに行った。まさか逃げたのか?
僕の背中から桃色髪の女性の声が聞こえてくる。エイビスは僕を外へと弾き、台頭する。
僕が2階へと飛び上がった瞬間、エイビスさんの周りには紫色の光が飛び上がった。互いの勢いは均衡している。お願いします。そのまま保っていてください、エイビスさん。今すぐこんな戦いを終わらせますから。
僕は彼女の目を見てうなずき、その場を後にした。上の階にはさっきのような貴重そうなものはまるでなく、むしろ何もなかった。庭の見えるガラスが家の一面じゅうに敷き詰められている。これは60mぐらいあるのではないか?
いや、そんなことはどうでもいい。僕は左右の道の右を選び、上へと向かう階段を見つけるために走り出した。
困ったときは自分の利き手を信じろ! そうファイスが言っていたっけ。そう考えていた瞬間、僕の元に4本の矢が四角形の4点を描くように飛んできた。
全てを鉾で薙ぎ払い、腰を低く落として敵を警戒する。すると、僕の目の前に木でできた弓をもち、白いワイシャツに、鳥のようにも見える体格ぴったりに着こなされた、太ももの後ろに2つ分かれた尻尾のようなものがある黒い服。
その姿には明らかに不釣り合いな矢の入っている木でできた籠を持った絶えず自分の白い髭を、矢を持っていた右手で確認する身長165の少し小柄に見える短黒髪おじいさんが僕の目の前に現れた。
「ホッ、ホッ。面白いことを言う。それは吾輩がただの“臆病者”と挑発しているということでよいか?」
おじいさんの眉間のシワが深くなっていく。まずい、怒らせてしまったか。けれどむしろその方がいい。怒ると力は倍増してしまうけれど、その分判断が鈍る。そこをうまく狙えればチャンスになるはずだ。
思わず出てしまった、という顔をしておじいさんは矢を僕に放った。今度は三角形を描くように3点の矢が僕の元へと近づいてくる。
けれどそこまで威力も強くなく、気が付いた時には僕は彼の目の前に位置していた。そのままいつもの店舗にもっていく。まずは一撃っ!
おじいさんは僕の鉾の横振りだけで簡単に隣の壁に突き進んでいった。ちょっとやりすぎちゃったか。さすがにもう年齢が高齢なだけにかつての力も衰えてしまっていたのだろう。
先に進もう、そう思い歩こうとした瞬間、僕は右肩を叩かれる。
おじいさんは僕の鉾の横振りだけで簡単に隣の壁に突き進んでいった。ちょっとやりすぎちゃったか。さすがにもう年齢が高齢なだけにかつての力も衰えてしまっていたのだろう。
先に進もう、そう思い歩こうとした瞬間、僕は右肩を叩かれる。
僕は彼のデコピンで勢いよく、階段とは反対の方向に吹き飛ばされた。今の攻撃はなんだ? ただのデコピンじゃないか。もしパンチだったら、どうなっていた。考えるだけで手が震え始める。おちつけ! 攻撃はそこまで強くない。突破口はあるはずだ。