【1】神族の赤子
文字数 1,497文字
ある夜、騒がしい声がしたので声の主を探しに行くと、竜族ではない赤子が独りで泣いていた。賢蒼竜イリオス、この人里離れた岩山に住み着いて四千年ほど経ったが、このような経験は初めてである。周囲に他の生命の気配も無く、ただむなしく朽ち果てるのを待つことしか出来ない事を悟り泣いているのだろうか。
儂はこの赤子を自らの娘として迎え入れ、自分の子供達と同様に育てることにした。
大半の竜族が有するブレス攻撃など、竜は種族によって数々の異能を有する。戦いを好まないため数回しか戦闘経験がなく、使う機会が無かった自身の異能、装備作成・錬成術が衣服のために使えたので、奮発して様々な物を作った。だが赤子に使えるものはまだ衣服代わりの鎧しかなく、邪魔に思われないよう体にちょうど合わせた軽量の物を着せるのみとなった。
そして5年ほど経ち、この娘――レクシアはこれといった問題もなく健やかに育ち、儂や子供たちとも会話が出来るようになった。
「問題はないが苦労はあったな。だが、その苦労も変わらない生活の中でなかなか新鮮な経験だったよ」
「ふーん。おとうさん、どうして竜じゃないわたしを助けてくれたの?」
隣のレクシアが儂を見上げる。儂は作業を終了し、座って体を揺らす娘の高さまで頭を下げた。
「種族の違いに意味は無い……そして、命の価値もまた然りだ」
レクシアは首を傾げて困惑している。
「少し、難しい言い回しであったな。ほれ、望みの物が出来たぞ」
「わぁ!ありがとうおとうさん!えへへ、どうかな?」
「よく似合っている。以前から思っていたが、お主は自分を着飾る術を私が教えずとも知っているようだな」
今回娘に贈ったのは髪飾りだ。我ら竜族と同じような角が欲しいというので、儂は頭に一本の蒼色と二本の黒色の二種類の角があり、その黒の角と同じ物が生えている胸から突起を少し削って、加工して角のようにした。装備作成の異能では作れない貴重な物だ、喜んでもらえたのなら、儂も文字通り身を削った甲斐があったというものだ。
以前も長い髪の一部を結わえたいと言うので、異能で髪を通す鉄の環っかを作ったが、髪を短くしたりまとめたりなどはせず、ただ両耳の後ろのごく一部だけ結わえて、全体の形を特に変えなかったので驚いたものだ。実用性以外で、見た目や雰囲気を少し変えるだけのために装備を作るなど考えもしなかったため、こちらも学ばされた気分だった。
「他のみんなにも見せてこようかなー!あ、そうだおとうさん、その羽も少しもらっていい?」
「ああ構わぬぞ。次はどこに使うつもりか興味が湧いてくる」
「ありがとう!この髪を結んでる環っかにね……はい!」
「おぉ……!」
環を飾る発想もそうだが、今回は突然強まったように感じたレクシアの力に驚いた。元気になれると言って跳ねる娘も、感覚の違いには気付いているのだろう。
「レクシア、試したい事がある。この杖を握り、その力をこめるのだ」
「うん、わかった、やってみる」
赤子のレクシアを拾ってすぐ作り、使う予定もなく放置していた長い杖だ。先端に魔力を持つ石があり、魔法などを手軽に使えるようになるこの世界の武器のひとつだ。
しばらくすると杖の石が光り始めた。そして我らの目の前の何もない場所で、光が集まって小さな爆発を起こした。レクシアは驚いて尻もちをつき、杖を両手で握ったまま儂を見た。
我ら賢蒼竜の異能に近い魔法だ。人間が開発した魔術とは違うもので、儂はついに娘の種族を確信した。
「どういうことなの?おとうさん?」
「レクシア、お主はどうやら、神々の子……神族のようだ」
儂はこの赤子を自らの娘として迎え入れ、自分の子供達と同様に育てることにした。
大半の竜族が有するブレス攻撃など、竜は種族によって数々の異能を有する。戦いを好まないため数回しか戦闘経験がなく、使う機会が無かった自身の異能、装備作成・錬成術が衣服のために使えたので、奮発して様々な物を作った。だが赤子に使えるものはまだ衣服代わりの鎧しかなく、邪魔に思われないよう体にちょうど合わせた軽量の物を着せるのみとなった。
そして5年ほど経ち、この娘――レクシアはこれといった問題もなく健やかに育ち、儂や子供たちとも会話が出来るようになった。
「問題はないが苦労はあったな。だが、その苦労も変わらない生活の中でなかなか新鮮な経験だったよ」
「ふーん。おとうさん、どうして竜じゃないわたしを助けてくれたの?」
隣のレクシアが儂を見上げる。儂は作業を終了し、座って体を揺らす娘の高さまで頭を下げた。
「種族の違いに意味は無い……そして、命の価値もまた然りだ」
レクシアは首を傾げて困惑している。
「少し、難しい言い回しであったな。ほれ、望みの物が出来たぞ」
「わぁ!ありがとうおとうさん!えへへ、どうかな?」
「よく似合っている。以前から思っていたが、お主は自分を着飾る術を私が教えずとも知っているようだな」
今回娘に贈ったのは髪飾りだ。我ら竜族と同じような角が欲しいというので、儂は頭に一本の蒼色と二本の黒色の二種類の角があり、その黒の角と同じ物が生えている胸から突起を少し削って、加工して角のようにした。装備作成の異能では作れない貴重な物だ、喜んでもらえたのなら、儂も文字通り身を削った甲斐があったというものだ。
以前も長い髪の一部を結わえたいと言うので、異能で髪を通す鉄の環っかを作ったが、髪を短くしたりまとめたりなどはせず、ただ両耳の後ろのごく一部だけ結わえて、全体の形を特に変えなかったので驚いたものだ。実用性以外で、見た目や雰囲気を少し変えるだけのために装備を作るなど考えもしなかったため、こちらも学ばされた気分だった。
「他のみんなにも見せてこようかなー!あ、そうだおとうさん、その羽も少しもらっていい?」
「ああ構わぬぞ。次はどこに使うつもりか興味が湧いてくる」
「ありがとう!この髪を結んでる環っかにね……はい!」
「おぉ……!」
環を飾る発想もそうだが、今回は突然強まったように感じたレクシアの力に驚いた。元気になれると言って跳ねる娘も、感覚の違いには気付いているのだろう。
「レクシア、試したい事がある。この杖を握り、その力をこめるのだ」
「うん、わかった、やってみる」
赤子のレクシアを拾ってすぐ作り、使う予定もなく放置していた長い杖だ。先端に魔力を持つ石があり、魔法などを手軽に使えるようになるこの世界の武器のひとつだ。
しばらくすると杖の石が光り始めた。そして我らの目の前の何もない場所で、光が集まって小さな爆発を起こした。レクシアは驚いて尻もちをつき、杖を両手で握ったまま儂を見た。
我ら賢蒼竜の異能に近い魔法だ。人間が開発した魔術とは違うもので、儂はついに娘の種族を確信した。
「どういうことなの?おとうさん?」
「レクシア、お主はどうやら、神々の子……神族のようだ」