第1話 酸化銀
文字数 667文字
◇◇ 酸化銀 ◇◇
とあるフルート演奏家のネット動画に、いたく感動し、ン10年ぶりにフルート演奏を思い立った。
多忙になると余計なことをしたくなる悪い癖が、また、むくむく頭をもたげたのだ。
学生時代、荒川の○○大橋の下で、人目を避けて練習して以来だ。
久しぶりに、フルートを引っ張り出し、手にしてみる。
情けないことに、一部、酸化銀化が進んでいる。
ウーン...
後で、銀磨きで磨こうか...などと思いながら、唄口に唇を添えてみる。
おっ、いけるぞ!
一瞬の希望。
と思った矢先、顎の下が―――吊った。
ウッ!
アンブシュアに、普段使っていなかった筋肉を使ったからだ。気温が低かったから..というのは言い訳だ。
さらに情けないことに、暗譜していたはずのドレミも一部、忘れていたし、おまけに、一部の運指(キーの押さえ方)すら忘れていた。
どうにも思い出せないのだ。
これは困ったぞ...。
昔の演奏の楽しさが、味わえないではないか。
ホットドリンクを口にし、一息ついてから、試しに、昔吹いた曲を吹いてみる。
ところが、指のほうが覚えていてくれたのだ。
頭ではなく、指のほうが勝手に動いていってくれるのだ!
…へえ、そんなものかあ。
感慨深さと不思議さ、喜びとが入り混じった、なんともいえない妙な気分だ。
それから、あとひとつ、気づいたこと。
昔に比べ、肩の力が抜け、楽に演奏できるようになっていたことだ。
これには、驚いた。ブランクが、退化ではなく、進化をもたらしていたのだ!
きっと、ン10年経って、脱力で生きる術(すべ)を身につけるようになったからに違いない。
銀が酸化したぶん...
とあるフルート演奏家のネット動画に、いたく感動し、ン10年ぶりにフルート演奏を思い立った。
多忙になると余計なことをしたくなる悪い癖が、また、むくむく頭をもたげたのだ。
学生時代、荒川の○○大橋の下で、人目を避けて練習して以来だ。
久しぶりに、フルートを引っ張り出し、手にしてみる。
情けないことに、一部、酸化銀化が進んでいる。
ウーン...
後で、銀磨きで磨こうか...などと思いながら、唄口に唇を添えてみる。
おっ、いけるぞ!
一瞬の希望。
と思った矢先、顎の下が―――吊った。
ウッ!
アンブシュアに、普段使っていなかった筋肉を使ったからだ。気温が低かったから..というのは言い訳だ。
さらに情けないことに、暗譜していたはずのドレミも一部、忘れていたし、おまけに、一部の運指(キーの押さえ方)すら忘れていた。
どうにも思い出せないのだ。
これは困ったぞ...。
昔の演奏の楽しさが、味わえないではないか。
ホットドリンクを口にし、一息ついてから、試しに、昔吹いた曲を吹いてみる。
ところが、指のほうが覚えていてくれたのだ。
頭ではなく、指のほうが勝手に動いていってくれるのだ!
…へえ、そんなものかあ。
感慨深さと不思議さ、喜びとが入り混じった、なんともいえない妙な気分だ。
それから、あとひとつ、気づいたこと。
昔に比べ、肩の力が抜け、楽に演奏できるようになっていたことだ。
これには、驚いた。ブランクが、退化ではなく、進化をもたらしていたのだ!
きっと、ン10年経って、脱力で生きる術(すべ)を身につけるようになったからに違いない。
銀が酸化したぶん...