第18話 タケちゃん

文字数 1,104文字

◇◇ タケちゃん ◇◇


タケちゃんは、ほんとうは、勇ましい名前があるのだが、小学生時代、ずいぶん、いじめられたそうだ。
だいいち、盆栽を愛する小学生なんて、めったにいないだろう。

小学校の行事で、森林公園でオリエンテーリングしたときのこと。
グループの仲間たちは、コンパスと地図とでポイント探しに躍起になっているなか、タケちゃんだけは団体行動そっちのけで、冬虫夏草を2つも見つけた。
わたしだったら、1つ見つけるのも不可能だろう。
ともかく、目線と意識のベクトルが、独特なのだ。

そんなコセイテキなタケちゃんには、独特の間合いもあって、どこか、人を惹きつけるところがある。

盆栽センターにタケちゃんが行った時のこと。
社長さんにずいぶん気に入られ、何万もする盆栽をただで、幾鉢かもらってきたのだそうだ。
それだけでも驚きなのに、全然、武勇伝じみた話し方をしない。タケちゃんによれば、「フツーに社長さんと話をした」とのこと。
おそらく、社長にすれば、小学生にもかかわらず自分と呼吸が合い、この子なら次の世代にとっときの盆栽の養育を任せられる――とみたのだろう。

そんなタケちゃんに私も惹かれ、二段咲きのオシロイバナ―――ラッパの花弁の付け根部分を、フリルの襟のように花弁がとりまいている―――と、それから五つ葉のクローバーとをプレゼントした。

五つ葉のクローバーは、数年前、牧場の片隅でみつけたもので、以降、ランナーの伸びる時期に鉢を増やしてきたものだ。
五つ葉―には、「財運」に恵まれるという意味があるそうだが、あいにく、わたしには、とんと、無縁である。


ある日のこと、タケちゃんが庭の盆栽をみていたら、突然、巨大なUFOが100mほどのところに浮いていたのだそうだ。
タケちゃんは、恐怖で泣きながら、家に駆けこんだ。その間の様子は、タケちゃんのお母さんから直接聞いたので、確かである。
その数時間後、タケちゃんが、珍しく、仲間に絵をかきながら、上気した顔で一生懸命に説明している場に、私はちょうど居合わせた。

「円盤の形をしていて、窓が6つくらい並んでいて、銀色で、100メートルくらいあって...」

タケちゃんにしては、珍しく、みんなの前で饒舌である。
わたしは、タケちゃんが将来、大人物になるから、未来から過去のタケちゃんを観察しに来たんだよ..と茶化した。


それにしても、常人とはちょっと違う時間軸に生きているとしか思えないタケちゃん。


タケちゃんの夢は、沖縄のほうの大学に入って、熱帯の植物について研究することだそうだ。

なんか、偶然と運とで、フィールドワークで大発見をしそうな気配である。

ひょっとしたら、あのUFOは、やはり未来からの...?


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