二人の少女が指差す先

文字数 1,061文字

ひとり電車に乗っていた。車内に人はほとんどいない。今は平日の昼下がり。この時間帯に移動する人は少ないだろう。外の景色は車窓に流れていく。青空に少しばかり白い雲が浮かんでいる。席に座って、なんとはなしに窓の外を眺めている。何の変哲もない光景。それが延々と続いている。

「おい、てめえ」
「起きろよ、おい」

物騒な声にはっとした。どうやら居眠りしていたらしい。

おずおずと顔を上げると、そこには二人の女の子がいた。いや、女の子、と言ってしまうにはどうにも殺伐としていた。ひとりは制服。もうひとりはパーカーにだぼだぼのズボン。どちらも陽に良く焼けている。ぱっと見はどこにでもいそうな二人だったが、なぜかそこはかとない凄みを感じる出で立ちだった。そんな二人が僕をにらみつけている。威圧し、射すくめようとする視線。

「えっと、いったい何でしょうか……」

僕の問いかけに彼女たちは答えない。ただひたすらにじっと睨みつけている。どうしたものかと僕はあたふたする。そんな僕の様子を面白がるわけでもなく、かといって蔑むこともなく、にらみつけている。

この娘たちはいったい何がしたいのだろう。

どうしたものかと僕は狼狽している。
困ってしまって、視線を窓の外にやると、そこには窓はなかった。いや、窓どころか、席もつり革も、広告もなかった。電車の外だった。そしてよく見ると、僕はどうやら船に乗っているようである。6人ぐらいの乗客を乗せたボートは、川をゆっくりゆっくりと上流に向かって昇っていく。水の色は、不自然に、絵の具でも溶かしたような鮮烈な青色。遠くを見やると、そこには見たこともないような白い建物がいくつもそびえていた。大きな電波塔、無機質な高層ビル、たくさんの煙突とパイプを備えた工場群。

さっきまで僕をにらみつけていた不良少女たちは、いつのまにか真っ白なワンピースを着て、その裾と髪を風にそよがせながら、船首にすくっと立っている。その二人が川岸の向こうにそびえる、ひと際大きな、威圧的な建物を指差して「あれがハイパー教育センター」と何度も何度も連呼している。声は大きくもなく小さくもなく、ただどこまでも感情の欠落した透明な調子で、不自然なくらいに耳に明瞭に聞こえた。

それにしても、この船はいったいどこへ向かうのだろう。僕は、その「ハイパー教育センター」とやらに連れていかれるのだろうか。そこに、いったい何があるのだろう。ただ、この不自然に無機質な光景と、教育という言葉から感じる印象としては、なんとなくあまり愉快なことにはならなさそうだなと不安に思った。
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