第25話

文字数 998文字

フェスは大盛況だった。
出演者達が呼んだ客、もともとのロック喫茶の客に加え、ハルとしゅうくんの巡業の成果で近隣村からの客。

人で溢れ返った夢の敷地に、まみはずっと笑顔だった。
入場料に加え、キャンプサイトやバーベキューの食材に薪や炭、しゅうくんが集めてくれたキッチンカーの場所代に満員となった宿泊棟の売上。

この山里の短い夏の終わりに、素晴らしい1日を作る事が出来た。

ハルとしゅうくん、僕の子どもたち、友人達が手伝ってくれて、僕は主に来てくれた知り合いへの挨拶に追われた。

なかでも日が暮れかかった頃始まったハルのステージは圧巻だった。

みんな、彼女の歌に酔いしれ、この素晴らしい1日が終わるのを惜しんでいる様に見えた。

スター誕生。
そんな予感すら感じさせるステージだったが、彼女はこの日で目的を達したかの様に、ギターを放り投げてしまった。
彼女の母親と同じように。

この日のトリは、僕のバンドだった。
とはいえ、ハルとしゅうくん、僕の弟による即席バンドだった。
バンド名は、ontournowthruforeverとした。

あの忌まわしいdoorsのbreak on through。
僕は、あの日と同じところを、やはりミスった。
しかし、温かく盛り上がる客席。
ハルもそうだけど、上手けりゃ良いってわけじゃないんだ。
積年の鬱憤が晴れた気がした。
built to spill/the plan
sloan/i hate my generation
dodgy/so let me go far
mogwai/christmas steps
僕の青春を飾った曲たちのカヴァーからオリジナル曲へ。
broken promises
the granada thiater kids
closer
と続き、a thousand reasons

「well, I'll give you a thousand reasons that tonight i should grant you this one wish」
僕は、誰に向けて歌ってるんだろう。

感謝を込めたMCをはさみ、ラスト、theピーズの「短い夏は終わっただよ」
みんなもみくちゃになって盛り上がる。

どこへ行っても見当たらねんだよ 短い夏は終わっただよ
に被さる最後の7thの白玉を鳴らし終えたハルは、その余韻のなか僕に近づき
「おとうさん」
僕を真っ直ぐ見つめて言った。
夢から覚めたみたいだった。
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