第18話

文字数 930文字

ハルはフェスの数日前からしゅうくんとともに前乗りして、準備を手伝ってくれている。
しゅうくんの敏腕マネジメントで、夜な夜な近隣の飲食店や商業施設に出向き、弾き語りを披露し投げ銭を集めながら、フェスの宣伝までしてくれてる。

妻は「たいしてギャラもあげられないし、手伝ってくれてるお礼だってごはんと寝床だけなのに、ありがとう。ごめんなさいね。フェスの収益多かったらお礼するからね」と労ったが、しゅうくんは
「いえいえ、こういうとこでこんな風に過ごせるの、逆に有り難いです。それに僕、パソコンあれば自分の仕事も出来るんで」
ハルも、「しゅうくん、こう見えて頼りになるんですよ。安心して嫁入りできます!」
とノロけ、笑った。

「まあ、うらやましい。苦労しらずね。でもね、苦労も良いものよ。はるくん、ぜーんぜんお金稼げないんだけど、わたしの心の栄養なの。わたしが頑張るんだって。ほら、あれ見て、またズッコケてる。わたしが居ないとダメなの。わたしもはるくん居ないとダメ。ふたりでやっと一人前、だから離れらんない」
「わたしの母も、わたしの父にあたるヒトのこと、そんな風に言ってたな。でも、しゅうくんしっかりし過ぎてて、今はわかりません!」
ドッと笑い。

全部聞こえてた。
聞こえないふりした。
妻とは一度離婚している。
僕の事業の不振のせいで。
それでもまた一緒になろうと言い、離れて子どもたちを育てあげ、まだうだうだしてる僕をこうして手伝ってくれている。
こんなひとは後にも先にも居ない。
完全に信頼している。
だから、隠し事はしたくない。
けれども、ハル、いや、晴海が僕の娘だと知った時、彼女は傷つかないだろうか?
僕の過去が、彼女を辛くさせないだろうか?
わかってる、まみちゃんは賢くて、肝が据わってて、何より僕を愛してる。
けど、しゅうくんがハルにしてるみたいに甘えさせてやった事がない。
隠し事は悲しむだろう。
けど、言えない。

「おとうさん」
ギクっとした。
ハルの声。
「娘さんたち手伝いに来ましたよ、はるさん」
2人の娘たちが、手を振っている。

ハルの瞳に、意地悪い輝きを見た気がした。

いよいよフェスは明日。
続々と前乗りの出演者が到着し対応に追われる中、ハルと娘たちが何を喋ってるのか、気になって仕方がなかった。
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