第8話

文字数 711文字

数年企画ライブをするうち、僕らは年齢を重ね、各々仕事でバンドメンバー全員のスケジュールが合わなくなって来た。

特に春のバンドはメンバーの入れ替わりも激しく、先に分解して行った。

しかし、僕と付き合ってからの春は、バンドより僕との時間を優先したがった。
僕が諫めると、あからさまにふてくされ、文香を持ち出す様になった。

「文香ちゃんに盗られちゃう。あの子、そういう感じするもん」
こちらも鋭かった。
「春が好きって、釘刺してあるから」
と言えば、やっぱり、そういう話してるじゃない、いつ会ったの?と責める。

そのうちに彼女は横浜で一人暮らしをすると言い出した。
僕は職場の寮に入っていた為、ずっと一緒に居られる時間がない事が、目下の彼女のいちばんの不満だった。
バンドは横浜でメンバー集めれば良いと言い、確かにその当時は横浜に住んでいる春のいとこがサポートベーシストとして在籍、もう一人は結成当時からの埼玉在住のギタリストだったから、ギタリストを替えれば良いという理屈はもっともらしかった。
そのギタリストも仕事で練習に参加出来ない事が多かったわけだし。

けれど、ギターも上手いし何より寡黙ないいヤツだったから、僕は猛烈に反発した。

「コウちゃん切るなら僕も辞める。そんなの、ダメだよ」
しかし、春にバンドへの情熱はもう無い様に見えた。

企画ライブでも、僕が2バンドで出るから一緒に居られないとボヤいた。
彼女にとって、ライブは僕とのデートになっていた。

折衷案として、引っ越してもリハーサルは池袋でやろう、僕はなるべく春の部屋に居るから、と説き伏せて、彼女は横浜に引っ越して来た。

程なくして、コウちゃんは自らバンドを去り、僕にも立て直す情熱は残らなかった。
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