第27話 春からの手紙

文字数 922文字

オサムくん、いえ、はるくん。
元気ですか?
いくつか、謝りたいです。
嘘ついちゃったから。
まず、晴海は私が病気で去年死んだって言ったと思うけど、わたしは死んでなんかないよ。
でも、はるくん諦めたから、ある意味死んだのかな?
わたしは今、ずっとプロポーズしてくれてた人とアメリカで暮らしてます。
もひとつ、晴海ははるくんの子どもじゃないよ。
わたし、人工授精したんだ。
なるべくはるくんに似た人の選んで。
あの日ついた嘘をホントにして、はるくんの前に現れてやろうと思ってたの。
お金も時間もかかったし、何より育児が大変で、それどころじゃなくなっちゃった。
はるくんの動向は、ずっとバンドやお店のブログで追っかけてたよ。
アメリカ人の元カレの話は嘘。
横浜のいとことたまたま行ったはるくんski captainだった時のライブで、初めてはるくん見たの。
もう、びっくりしちゃった。
こんなに、何もわからないまま生きてる人が居るんだ、って。
なのに、文香ちゃんが望む彼氏してたり、何かにならなきゃと必死に頑張ってる。

あれから、はるくん以外見えなくなっちゃった。
文香ちゃんは心配だったけど、一生懸命ギター練習して、一緒にバンドやれた時は嬉しかったし、付き合えた時はもっと嬉しかった。
けど、本当のはるくんに、してあげられなかった。
いっつも自分が嫌いで、何かになろうとしてるはるくん。
わたしと付き合ったら、わたしが望むはるくんになろうとし始めちゃった。
わたしは、はるくんでいてほしくて、だからオサムくんって呼んだの。
ただ、そのまま生きてるはるくんと、一緒に生きてたくて、音も光も邪魔になっちゃった。
欲張りになっちゃった。
ごめんね。

わたしが他の人の奥さんになったのは、今のはるくんの幸せはわたしには与えられないと思ったから。
でも、ちょっと仕返ししたくなっちゃった。
晴海には、はるくんきっとまるっきり騙されちゃうから、ちゃんと説明して謝ってね、って言ってあるけど、心配だから手紙書きました。

最後にはるくん。
何かになろうとしてたら、何にもなれないよ。
わたしも文香ちゃんも、きっと奥さんも、はるくんを知ってるよ。

知らないのははるくんだけ。
そのままのはるくんは、とっくにみんなを幸せにしてるんだよ。

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