ニナ
文字数 3,893文字
「…equi?」
少女と視線が合った。アレックスはこの国で多く見た特徴の典型を彼女にも確認している。天然素材の布しか使用していなさそうな、着脱に難儀しそうな、現代の生活では見ない装い。独特の文様がそこかしこに刺繍してあり、袖口や襟には丁寧にレースが施されている。
「失礼した。」
アレックスは踵を返した。踏み込んではいけない領域だった。アレックスとは無縁の世界だ。陽だまりの箱庭から再び外へ出ようとした瞬間、後ろから声を掛けられた。
「ya..o, ma…待って、」
振り返ると、少女が立ち上がるところだった。スカートから、淡い色の花弁や葉などが零れて落ちた。右手には編みかけの花飾りを持っている。緩やかに波を打った明るく長い髪は簡単に纏められ、腰のあたりまで伸びている。髪からとんがり気味の耳の先が覗いていた。裸足だった。傍らに彼女のものらしい小さな靴が転がっている。
アレックスを呼び止めたものの、言葉に困っているようだった。頬を僅かに染めて、言葉を探している。
「yao...ええと…異国の方?」
他の村人と同様にFiol語を発するのは久しぶり、といった感じだ。
「アレックスだ。ここへは仕事できた。」
少女は可憐に微笑んで、軽く辞儀をした。
「ニナです。いつからこちらへ?」
ニナ。事前に渡された資料に同じ名前があった。今度の任務の護衛の対象、まさにこの国の王女の名前だ。まさかな、とは思う。王女が一人、こんな森の奥で共も連れずにフラフラしているとは考えづらい。
「昨日、到着した。」
問いに答える。
「それでもう、此処を見つけちゃったさ。この村の人は誰も知らないところなのに。」
ニナは愉快そうに云った。ソラの言っていた『僕達』とは、彼女のことだろう。年頃もアレックスやソラより少し若いぐらいに見える。一方王女ニナは間もなく20歳のはずだ。アレックスより1つ年上ということになる。彼女はたまたま同じ名前ということだろうと思われた。珍しい名前でもない。ただ『僕達』と形容していたソラが王女付きだ、と考えると判断しあぐねる。聞けば早いが、なんとなく憚られた。
「今夜のお祭りで使う花冠、作っているさ。よかたらどぞ、こちらへ。座ってお話しするら。」
ニナは元の場所へ座りなおした。アレックスは明らかに場違いであったが断ることも出来ずに、言われるがままに、まるで彼女を取り囲む動物のうちの一匹であるかのように、その中に着座した。すぐに大型犬が寄ってきて珍客の匂いを嗅いで確認する。ニナがニルンという名前だと教えてくれた。頭を撫でると、嬉しそうに尻尾を振ってくれた。やわらかい毛質で気持ちがいい。動物に触れたのも久しぶりだ。鶏はアレックスなど気にも止めずに地面を必死に突いている。
ニナはその様子を見て安心したのか、花冠づくりを再開した。鮮やかな手つきで次々に野草や花を編みこんでゆく。既に完成したいくつかは、雄鹿の角に、犬の首に、石垣の縁に掛けられていた。
「部外者にもっと警戒したほうがいいんじゃないの?」
相手に全く警戒されないというのも、アレックスにとっては却って落ち着かない。
「あら、どして?」
ニナは、手を止めずに聞いた。
「どうしてって…、あんたは俺の素性を全く知らないだろう?この国に偵察に来ているのかもしれない。」
「…そなの?」
ニナが初めて手を止めてアレックスをみた。
「違うけど。」
「じゃあ、大丈夫さ。」
ニナは再び手を動かし始めた。
「…そうじゃなくてさ、此処は秘密の場所なんだろ?こんな簡単に他人を迎え入れていいのか?」
「みんなが迎えているから、いいさ。嫌なら、みんな何処かへ隠れちゃうさ。」
彼女が指す『みんな』とは、彼女を守るように取り囲んでいる動物たちのことらしい。
「できた。」
ニナは花冠をまたひとつ仕上げて、直ぐに次に取り掛かった。
「11人分作らなくちゃなのさ。」
お道化たようにニナが言った。それでも十分なほど、この遺跡の祭壇の周りには野生の花が咲いていた。
「今日はね、麦星祭さ。知ってる?麦星様に今年の豊饒のお礼をするら。マーサ小母さんが作るスパークリングライムはすごくおいしいから、飲んだほうがいいさ。早い者勝ちなので、なくなっちゃうさ、すぐ。私は聖歌隊だから特別、とっていてもらうんだけど。」
アレックスは、この少女が苦手かもしれないと思った。おそらくこの村を出たことがないのだろう。何といえばいいのか、上辺だけで接すれば物事が進行するタイプの人間ではなかった。ヴァンサーを目指す者としてアレックスに唯一足りないといわれたのが社交性で、アレックスはそれを克服するつもりはなかったが、それなりの攻略法を得ていた。しかし、彼女のような人間には通用しないだろう。自分が酷く汚れた人間のように思えた。
しかし、この空間の居心地が悪いというわけではなかった。寧ろ、その逆だ。
熱心に花冠を作る少女をアレックスは見据えていた。明るい長い髪が木漏れ日を受けて輝いていた。白く透き通った肌が明るい色の木綿に映える。肩にはいかにも手編みのニットを羽織っていた。学園には綺麗にネイルを塗れる女子生徒は数多くいても、花冠を作れる女子生徒など居なかっただろう。野花を編みこんでいく鮮やかな手つきを見ているのは飽きなかった。
「アレックスは都の人?」
手を止めずに、ニナはアレックスの顔を覗き込む。
「うん、まぁ都市の生活のほうが長い。」
生まれはこの国にも負けないほどの僻地の田舎だ。しかし幼い頃にその村が魔物に襲われ、その事故で唯一の親族である母親を亡くしてからは転々として、最終的に能力を見出されてヴロルトニク王立学院に編入させられた。とは言え、これは自分の記録をなぞっているだけで、事故以前の記憶は失くしていた。そのため、都市の生活以外は知らないと言っても良かった。ヴロルトニク学院は、ヴロルトニク王国の首都ウィンダスクの東に位置する王立の総合学院だ。王都ウィンダスクはこの星の一・二を争う規模の巨大都市。都市の全貌を把握するのにも、暫く生活をしないと無理だろう。いろんな人種、民族が集まる人工の都市だ。
「damietta」
現地語でできた、とでも言ったのだろうか。また一つ完成して、その冠をヤギの角に引っ掛ける。今回は黄色が基調になっているようだ。よく見るとそれぞれの花かんむりは、配色を変えているようだった。
「造る??」
アレックスがニナの手に見入っているのに気がついて、尋ねてくれた。
「作れないよ。」
さすがに無理だ。ニナはそなの?簡単さ?といいながら鮮やかに花を編み込んで行く。
「都会にも、大きなお祭りがあるら?」
熱心に花冠を編みながらも、その澄んだ瞳でアレックスを時おり覗き込む。他の村人同様にFiol語は常用していないようだ。
「うーん、あると思うけど、よくわからないな…」
時折、イベントごとで街全体が落ち着きをなくすことは年に何度かあるが、それがなんなのかアレックスは把握していなかった。なんだか都会が、ひどく退屈な場所という印象を与えてしまったかもしれない。そなの?とニナは言って冠作成を続ける。
そうだークッキー食べる?と言って、傍に置いてある布の包みを開いた。リスとカラスが寄ってくるが、あとでと言ってまずはアレックスに差し出す。ターシャおばさんのクッキーを拝借してきたと言った。この短時間で知らないおばさんがすでに二人も登場した。アレックスはナッツの埋め込まれた一枚を遠慮なくもらった。香ばしい香りがする。この状況で何かが混入されている可能性など考えるほうが愚かしい。だが、これが試験だったらこの行いは減点だろう。
「俺も靴脱いでいい?」
穏やかな陽光となんだか緊張感の欠けた田舎娘を前にして、どういうわけか心身ともにリラックスしてきているのを自覚した。これを言うと多方面に誤解を生むかもしれないが、彼女からはとてもいい香りがする。今まで嗅いだことがないような類の不思議な匂い。それがアレックスを少しおかしくしているのかもしれない。
ニナはもちろんどぞどぞと言ってクッキーのかけらをリスや小鳥にくれてやっていた。アレックスは言葉に甘えて足を解放し、クッキーを咥えたままその場に転がった。ああー、と声が漏れる。草と土の匂いが心地いい。背にしていたどこぞの女神像を見上げる形になった。
「これはおたくらの神様?」
任務は聖樹教の六聖地にこの国の王女を連れて行くことだが、この国が聖樹教を信仰しているわけではないようだった。少なくともこの集落に、聖樹教の教会は見当たらなかった。アレックスの問いに、ニナは違うと答えた。この土地の大昔の女神様だけど、詳細はわからないとのことだった。彼女は勝手に母星(Lulu)様だと思っているとも教えてくれた。
時折木々を揺らして風が抜ける。寝転がって背の高い樹木を見上げている。木漏れ日が目に光が入ったり陰ったりした。知り合ったばかりの他人が横にいるというのに、眠ってしまいそうだった。我ながら無防備が過ぎる。試験だったらすでに赤点で終了という事態だろうが、一応現時点はまだ試験前である。何より、山を越える前から端末が通信と繋がらない区域に入っている。アレックスは束の間の自由の中にいた。ニナは時折鼻歌を歌った。こちらも素性のわからぬ部外者を前に、負けじと緊張感がなかった。
本当にこれから任務が始まるのだろうか。もしかしたら間違えて天国にでも来てしまったのかもしれない。先日雪山で野宿した時にそのまま凍死でもしたのかもしれなかった。
少女と視線が合った。アレックスはこの国で多く見た特徴の典型を彼女にも確認している。天然素材の布しか使用していなさそうな、着脱に難儀しそうな、現代の生活では見ない装い。独特の文様がそこかしこに刺繍してあり、袖口や襟には丁寧にレースが施されている。
「失礼した。」
アレックスは踵を返した。踏み込んではいけない領域だった。アレックスとは無縁の世界だ。陽だまりの箱庭から再び外へ出ようとした瞬間、後ろから声を掛けられた。
「ya..o, ma…待って、」
振り返ると、少女が立ち上がるところだった。スカートから、淡い色の花弁や葉などが零れて落ちた。右手には編みかけの花飾りを持っている。緩やかに波を打った明るく長い髪は簡単に纏められ、腰のあたりまで伸びている。髪からとんがり気味の耳の先が覗いていた。裸足だった。傍らに彼女のものらしい小さな靴が転がっている。
アレックスを呼び止めたものの、言葉に困っているようだった。頬を僅かに染めて、言葉を探している。
「yao...ええと…異国の方?」
他の村人と同様にFiol語を発するのは久しぶり、といった感じだ。
「アレックスだ。ここへは仕事できた。」
少女は可憐に微笑んで、軽く辞儀をした。
「ニナです。いつからこちらへ?」
ニナ。事前に渡された資料に同じ名前があった。今度の任務の護衛の対象、まさにこの国の王女の名前だ。まさかな、とは思う。王女が一人、こんな森の奥で共も連れずにフラフラしているとは考えづらい。
「昨日、到着した。」
問いに答える。
「それでもう、此処を見つけちゃったさ。この村の人は誰も知らないところなのに。」
ニナは愉快そうに云った。ソラの言っていた『僕達』とは、彼女のことだろう。年頃もアレックスやソラより少し若いぐらいに見える。一方王女ニナは間もなく20歳のはずだ。アレックスより1つ年上ということになる。彼女はたまたま同じ名前ということだろうと思われた。珍しい名前でもない。ただ『僕達』と形容していたソラが王女付きだ、と考えると判断しあぐねる。聞けば早いが、なんとなく憚られた。
「今夜のお祭りで使う花冠、作っているさ。よかたらどぞ、こちらへ。座ってお話しするら。」
ニナは元の場所へ座りなおした。アレックスは明らかに場違いであったが断ることも出来ずに、言われるがままに、まるで彼女を取り囲む動物のうちの一匹であるかのように、その中に着座した。すぐに大型犬が寄ってきて珍客の匂いを嗅いで確認する。ニナがニルンという名前だと教えてくれた。頭を撫でると、嬉しそうに尻尾を振ってくれた。やわらかい毛質で気持ちがいい。動物に触れたのも久しぶりだ。鶏はアレックスなど気にも止めずに地面を必死に突いている。
ニナはその様子を見て安心したのか、花冠づくりを再開した。鮮やかな手つきで次々に野草や花を編みこんでゆく。既に完成したいくつかは、雄鹿の角に、犬の首に、石垣の縁に掛けられていた。
「部外者にもっと警戒したほうがいいんじゃないの?」
相手に全く警戒されないというのも、アレックスにとっては却って落ち着かない。
「あら、どして?」
ニナは、手を止めずに聞いた。
「どうしてって…、あんたは俺の素性を全く知らないだろう?この国に偵察に来ているのかもしれない。」
「…そなの?」
ニナが初めて手を止めてアレックスをみた。
「違うけど。」
「じゃあ、大丈夫さ。」
ニナは再び手を動かし始めた。
「…そうじゃなくてさ、此処は秘密の場所なんだろ?こんな簡単に他人を迎え入れていいのか?」
「みんなが迎えているから、いいさ。嫌なら、みんな何処かへ隠れちゃうさ。」
彼女が指す『みんな』とは、彼女を守るように取り囲んでいる動物たちのことらしい。
「できた。」
ニナは花冠をまたひとつ仕上げて、直ぐに次に取り掛かった。
「11人分作らなくちゃなのさ。」
お道化たようにニナが言った。それでも十分なほど、この遺跡の祭壇の周りには野生の花が咲いていた。
「今日はね、麦星祭さ。知ってる?麦星様に今年の豊饒のお礼をするら。マーサ小母さんが作るスパークリングライムはすごくおいしいから、飲んだほうがいいさ。早い者勝ちなので、なくなっちゃうさ、すぐ。私は聖歌隊だから特別、とっていてもらうんだけど。」
アレックスは、この少女が苦手かもしれないと思った。おそらくこの村を出たことがないのだろう。何といえばいいのか、上辺だけで接すれば物事が進行するタイプの人間ではなかった。ヴァンサーを目指す者としてアレックスに唯一足りないといわれたのが社交性で、アレックスはそれを克服するつもりはなかったが、それなりの攻略法を得ていた。しかし、彼女のような人間には通用しないだろう。自分が酷く汚れた人間のように思えた。
しかし、この空間の居心地が悪いというわけではなかった。寧ろ、その逆だ。
熱心に花冠を作る少女をアレックスは見据えていた。明るい長い髪が木漏れ日を受けて輝いていた。白く透き通った肌が明るい色の木綿に映える。肩にはいかにも手編みのニットを羽織っていた。学園には綺麗にネイルを塗れる女子生徒は数多くいても、花冠を作れる女子生徒など居なかっただろう。野花を編みこんでいく鮮やかな手つきを見ているのは飽きなかった。
「アレックスは都の人?」
手を止めずに、ニナはアレックスの顔を覗き込む。
「うん、まぁ都市の生活のほうが長い。」
生まれはこの国にも負けないほどの僻地の田舎だ。しかし幼い頃にその村が魔物に襲われ、その事故で唯一の親族である母親を亡くしてからは転々として、最終的に能力を見出されてヴロルトニク王立学院に編入させられた。とは言え、これは自分の記録をなぞっているだけで、事故以前の記憶は失くしていた。そのため、都市の生活以外は知らないと言っても良かった。ヴロルトニク学院は、ヴロルトニク王国の首都ウィンダスクの東に位置する王立の総合学院だ。王都ウィンダスクはこの星の一・二を争う規模の巨大都市。都市の全貌を把握するのにも、暫く生活をしないと無理だろう。いろんな人種、民族が集まる人工の都市だ。
「damietta」
現地語でできた、とでも言ったのだろうか。また一つ完成して、その冠をヤギの角に引っ掛ける。今回は黄色が基調になっているようだ。よく見るとそれぞれの花かんむりは、配色を変えているようだった。
「造る??」
アレックスがニナの手に見入っているのに気がついて、尋ねてくれた。
「作れないよ。」
さすがに無理だ。ニナはそなの?簡単さ?といいながら鮮やかに花を編み込んで行く。
「都会にも、大きなお祭りがあるら?」
熱心に花冠を編みながらも、その澄んだ瞳でアレックスを時おり覗き込む。他の村人同様にFiol語は常用していないようだ。
「うーん、あると思うけど、よくわからないな…」
時折、イベントごとで街全体が落ち着きをなくすことは年に何度かあるが、それがなんなのかアレックスは把握していなかった。なんだか都会が、ひどく退屈な場所という印象を与えてしまったかもしれない。そなの?とニナは言って冠作成を続ける。
そうだークッキー食べる?と言って、傍に置いてある布の包みを開いた。リスとカラスが寄ってくるが、あとでと言ってまずはアレックスに差し出す。ターシャおばさんのクッキーを拝借してきたと言った。この短時間で知らないおばさんがすでに二人も登場した。アレックスはナッツの埋め込まれた一枚を遠慮なくもらった。香ばしい香りがする。この状況で何かが混入されている可能性など考えるほうが愚かしい。だが、これが試験だったらこの行いは減点だろう。
「俺も靴脱いでいい?」
穏やかな陽光となんだか緊張感の欠けた田舎娘を前にして、どういうわけか心身ともにリラックスしてきているのを自覚した。これを言うと多方面に誤解を生むかもしれないが、彼女からはとてもいい香りがする。今まで嗅いだことがないような類の不思議な匂い。それがアレックスを少しおかしくしているのかもしれない。
ニナはもちろんどぞどぞと言ってクッキーのかけらをリスや小鳥にくれてやっていた。アレックスは言葉に甘えて足を解放し、クッキーを咥えたままその場に転がった。ああー、と声が漏れる。草と土の匂いが心地いい。背にしていたどこぞの女神像を見上げる形になった。
「これはおたくらの神様?」
任務は聖樹教の六聖地にこの国の王女を連れて行くことだが、この国が聖樹教を信仰しているわけではないようだった。少なくともこの集落に、聖樹教の教会は見当たらなかった。アレックスの問いに、ニナは違うと答えた。この土地の大昔の女神様だけど、詳細はわからないとのことだった。彼女は勝手に母星(Lulu)様だと思っているとも教えてくれた。
時折木々を揺らして風が抜ける。寝転がって背の高い樹木を見上げている。木漏れ日が目に光が入ったり陰ったりした。知り合ったばかりの他人が横にいるというのに、眠ってしまいそうだった。我ながら無防備が過ぎる。試験だったらすでに赤点で終了という事態だろうが、一応現時点はまだ試験前である。何より、山を越える前から端末が通信と繋がらない区域に入っている。アレックスは束の間の自由の中にいた。ニナは時折鼻歌を歌った。こちらも素性のわからぬ部外者を前に、負けじと緊張感がなかった。
本当にこれから任務が始まるのだろうか。もしかしたら間違えて天国にでも来てしまったのかもしれない。先日雪山で野宿した時にそのまま凍死でもしたのかもしれなかった。