座学 ①
文字数 4,023文字
翌朝は前二日とは異なるルートでランニングをした。
村の外に広がる農地の外周を走った。農地の外側となる山の斜面は放牧地となっており、牛や羊やヤギが早朝でも自由にしていた。眠っている者もいれば、草を食んでいるものもいた。好奇心の強そうな牛が、走っているアレックスをじっと見ていた。穏やかな目をしている。ストレスなく育てられているのが分かった。
森の中に比べれば起伏や障害物が少ないため、スピードを上げて距離を長くすることで、自分の体に負荷を掛ける。
この時間はまだ広がる畑に人気はなく、山々に囲まれているといえども空は広大に広がっていた。早朝の空気が気持ちいい。ソラやニナは見飽きた光景だろうか。ソラはもう戻らないと断言していたが、こんなに豊かで穏やかな大地は世界広しと言えど早々にないのではないのかと思われた。
城へ戻ると、今朝もタルソムたちがアレックスを待ち構えていた。さらに、ニナの弟、王子のカイルまでもがそこに加わっていた。昨日参加できなかった悔しさを伝えてくる。ソラと同じで祭りの晩に明け方まで飲み明かしていたのだという。今日こそは、という意気込みを感じたが、アレックスは悪いけど今日は座学にする、と伝えた。
「ええっ」と、王子は不満を隠さなかった。やる気満々で腰に模造刀を差してきたのだろう。加えて慣れない早起きもしたのに、とでも言いたげだ。
「もしかしたら俺を倒す方法をそれぞれで考えてきたかもしれないけど、悪いけど昨日と同じ結果になる。でも、おたくらが強くなりたい目的は俺を倒すことじゃないだろ?がむしゃらに剣を振るだけじゃ、外敵には絶対に勝てない。敵を知って、頭を使う必要がある。」
昨日の図書館を借りてもよかったが、朝の空気がせっかく気持ちいいので、湖畔の広場に連れだって出た。ステージや客席、屋台のテーブルなどはきれいさっぱり片付けられていた。
「今日はどこを走ってきたの?」
王子が目を輝かせてアレックスに聞く。農地の外周を一周してきたと答える。東は新しくできたトンネルの前を通って農地と牧草地の境に沿って南を抜け、西に向かってブドウ園を抜け、その先の森を突き抜けて滝を見て、湖畔沿いに戻ってきたといえば、地元の人間なら大体の距離感がわかるだろう。
「ほんとか…。」
王子は軽率に質問したことを若干後悔しているようだった。とりあえず、彼らを浜のその辺に並んで座らせた。座りきる前に、待ちきれずにタルソムが口を開いた。
「貴殿は先ほど、外敵には絶対勝てないと言い切った。私たちはそんなに弱いのだろうか。」
タルソムさんは真面目だよね、というソラの昨日の言葉が蘇る。兵長としての責任感から真面目にならざるを得ないのかもしれなかった。いずれにしてもこんなにのんびりと平和の続いている小国でここまでのモチベーションを維持できているのは、尊敬に値する。
「…まず、現代において外の敵がどのような戦い方をしているか、あなた達は把握している?」
15年の鎖国だけの話ではない。その前から、この国は幸いにも長い間他国と争っていない。
「…銃、か。」
流石に銃の存在は知っているようだった。
「そうだな、彼らは主に銃を使う。弾が切れたり、追い詰めて集中力を切らさせるくらいにならないと、彼らの間合いにも入れないだろう。個人技の話をする以前の問題だ。」
剣だけを携えた大の男が固まっていたら、標的にされて終わりだ。
「この村にも銃は何丁か用意がある。私やジュネが扱い方を知っている。」
いつの時代のものを言っているのか想像もつかないが、まあ、ないよりはましくらいのものだろう。口にはしないが、仮に外からの強襲があったとしたらそれすら構えることもなく勝敗はつくとアレックスは想定している。
「はいはい、僕も使える~。よく父上と猟にでるからね。」
彼が高貴な身分であると改めて自己紹介された。
「それなら金のないビギナー野盗くらいは追い払えるかもしれないな。」
アレックスは素直な感想を述べた。一同が黙る。
「もし仮に外部のどこかの国や組織がこの村を襲う、となったら正直に言って勝てる見込みはない。村人のためにさっさと降伏するのが一番賢いやり方だ。おそらく王もその判断をするだろう。」
襲われるとしたら、目的はこの水源の略奪となるだろうか。
ソラの話が本当なら近年はニナの存在があって、聖樹教、引いては王都の庇護下にあったということになる。ニナは実質人質に近い存在だった、ということになろう。彼らは間もなくそれを失う。現在の国際情勢で露骨に戦争を仕掛ける国などはないだろうが、危機感を持っておくのは悪いことではない。
「お主はそんな講釈をするために我らをここに並べたさ!?」
バートンが少しいらだった様子で声を上げた。
「いや、申し訳ないが自分たちの力量と相手のそれの違いを知ることは基本の一歩だ。」
アレックスは冷静に返す。精神論だけでがむしゃらに戦って散ることを美学としがちな騎士道的な精神がこの国にもあるとすれば、時にはそれは弱点になろう。
「大前提はそこだ。それを踏まえて、外敵を迎え撃つ場合の想定をしてみる。兵は集められて100くらいになるか?」
アレックスがタルソムに問う。
「老兵も集めたら、そのくらいには…」
タルソムは歯切れ悪く答えた。
「オーケー、100として話を進める。実戦の経験のない男が老若合わせて100人。武器は剣と前時代の銃がいくつか。あとは農具あたりか。」
自分だったらさっさと逃げ出す状況だな、と思いつつも彼らの熱意の前では口にしない。
「敵側の指揮官だったらどう攻めると思う?こっち側の戦力は隠すまでもなくばれてる。」
ほぼ無いものとされるだろうとも言わないでおく。
「同じくらいの兵を集めて、トンネルを通ってくるら。大きな…自動車か何か数台で。向こうのほうが最新の武器を持っているから、こちら以上の兵は必要ないと判断するら。」
ヘルマーがおずおずと口を開いた。それ以外にあるのか、とでも言いたげだ。
「そうだな、人数はともかくトンネルは手っ取り早い手段の一つだ。」
アレックスは足元の砂地に落ちている枝切れで楕円を描き、実際にトンネルがある方向に線を伸ばした。この村の簡素な地形を表したつもりだ。
「その場合は、待ち伏せの攻撃ができる…。なんなら村に入る前にトンネルを封鎖して一気に吹っ飛ばすことも可能だな。たぶん、あのトンネルにはそれなりの防衛機能を備えているんだろ?」
おそらく、聖樹教/王都の予算で。ソラの話を聞くまでは、そこまでは読み切れていなかった。ただ昔ながらの生活を守っていた小国が、経済的な理由などで運営が立ち行かなくなって開国を決めたのだろう、くらいにしか考えていなかった。もしかしたらニナに関係なくその一面もあるかもしれないが、聖樹教、もしくは王都が絡んでいるとなるとそれくらいの設備を予め設けていると見ても考えすぎとは思えない。
おそらく、彼らはこの国は自分たちの植民地くらいにしか考えていないと思っていたほうがいいだろう。基本は泳がせておいて、いざというときには我が物顔で利用する用意をしているはずだ。
「それは…。」
タルソムが口籠る。図星らしい。外部もしくは村人にも口外禁止とされているのかもしれない。そこは要点ではないので、追及はしない。
「待ち伏せは子供でも考えられる戦略だな。わざわざ敵が犬死にするためにそんな手を使うだろうか。」
つまりトンネルの防衛設備は、実際に使われることはなくても存在するだけで意味があるともいえる。ヘルマーが確かにそうだ、と言って考え込む。素直すぎて若干心配になる。敵がトンネルを突破してくる可能性も考えられなくはないが、話が複雑になるので今回は割愛する。
「じゃあ、空からじゃない?トンネルができる前は、物資の定期船は空から来ていたもん。」
カイルがたった今思いついた案をそのまま口にしてくれた。
「そうだな、トンネルよりは迎撃されにくいな。この国には対空設備がないからな。空からなら侵入し放題だ。物資船は旧型船(=浮船)か?」
つまり、動力が蛍石の船のことだ。
「うん、なんでわかるの?」
カイルが目を見開いていう。航空機と言えば、いくつか選択肢があると言いたいのだ。
「例えば回転翼機などはここの高度までは飛べない。それにこの村には滑走路がない。」
ただの簡単な消去法だ。アレックスは続ける。
「そうだな、空からくる場合は浮遊船を使うだろうな。飛行機で畑にランディングしようと思えば可能だろうが、わざわざ(この小国を襲うために)そんな面倒な選択はしないだろう。」
アレックスは先ほど描いた楕円の中に湖の位置を書き足して、城の位置に石を置いた。
「浮遊船は大型のものでも50人くらいしか乗れない。そしてそんな大型船は王都くらいしか持っていない。20人程度のが2機か、来るとしてもその程度だな。」
「多くても40人程度ってことか!」
先ほどのトンネルより半数以上の60人減って、ジュネが嬉しそうに言った。勝機が見えたのだろうか。
「そうだな、多くても40人だな。」
おそらく、もっと少数でも数分で叩ける。
「ここまででひとつ、この国の重要な強みが見えたと思う。」
アレックスが全員の顔を見る。が、誰もピンときていないようだった。
「この国の最大の強みは、この高地にあるってことだ。それだけで、攻めるほうは兵数を少数にせざるを得ない。」
長年抗争なく存在し得たのも、この立地のおかげだろう。水源という資産は魅力だが、それだけしかないというのも長生きの秘訣かもしれない。要は、労力をかけてまで侵攻する利点がない。王や参謀ならそれを自覚しているはずだ。そのため、今後も侵略に対してそこまで神経質になる必要はないと思われる。が、国際情勢もいつまでもこのままというわけではないだろうから、準備するに越したことはないのだが。
村の外に広がる農地の外周を走った。農地の外側となる山の斜面は放牧地となっており、牛や羊やヤギが早朝でも自由にしていた。眠っている者もいれば、草を食んでいるものもいた。好奇心の強そうな牛が、走っているアレックスをじっと見ていた。穏やかな目をしている。ストレスなく育てられているのが分かった。
森の中に比べれば起伏や障害物が少ないため、スピードを上げて距離を長くすることで、自分の体に負荷を掛ける。
この時間はまだ広がる畑に人気はなく、山々に囲まれているといえども空は広大に広がっていた。早朝の空気が気持ちいい。ソラやニナは見飽きた光景だろうか。ソラはもう戻らないと断言していたが、こんなに豊かで穏やかな大地は世界広しと言えど早々にないのではないのかと思われた。
城へ戻ると、今朝もタルソムたちがアレックスを待ち構えていた。さらに、ニナの弟、王子のカイルまでもがそこに加わっていた。昨日参加できなかった悔しさを伝えてくる。ソラと同じで祭りの晩に明け方まで飲み明かしていたのだという。今日こそは、という意気込みを感じたが、アレックスは悪いけど今日は座学にする、と伝えた。
「ええっ」と、王子は不満を隠さなかった。やる気満々で腰に模造刀を差してきたのだろう。加えて慣れない早起きもしたのに、とでも言いたげだ。
「もしかしたら俺を倒す方法をそれぞれで考えてきたかもしれないけど、悪いけど昨日と同じ結果になる。でも、おたくらが強くなりたい目的は俺を倒すことじゃないだろ?がむしゃらに剣を振るだけじゃ、外敵には絶対に勝てない。敵を知って、頭を使う必要がある。」
昨日の図書館を借りてもよかったが、朝の空気がせっかく気持ちいいので、湖畔の広場に連れだって出た。ステージや客席、屋台のテーブルなどはきれいさっぱり片付けられていた。
「今日はどこを走ってきたの?」
王子が目を輝かせてアレックスに聞く。農地の外周を一周してきたと答える。東は新しくできたトンネルの前を通って農地と牧草地の境に沿って南を抜け、西に向かってブドウ園を抜け、その先の森を突き抜けて滝を見て、湖畔沿いに戻ってきたといえば、地元の人間なら大体の距離感がわかるだろう。
「ほんとか…。」
王子は軽率に質問したことを若干後悔しているようだった。とりあえず、彼らを浜のその辺に並んで座らせた。座りきる前に、待ちきれずにタルソムが口を開いた。
「貴殿は先ほど、外敵には絶対勝てないと言い切った。私たちはそんなに弱いのだろうか。」
タルソムさんは真面目だよね、というソラの昨日の言葉が蘇る。兵長としての責任感から真面目にならざるを得ないのかもしれなかった。いずれにしてもこんなにのんびりと平和の続いている小国でここまでのモチベーションを維持できているのは、尊敬に値する。
「…まず、現代において外の敵がどのような戦い方をしているか、あなた達は把握している?」
15年の鎖国だけの話ではない。その前から、この国は幸いにも長い間他国と争っていない。
「…銃、か。」
流石に銃の存在は知っているようだった。
「そうだな、彼らは主に銃を使う。弾が切れたり、追い詰めて集中力を切らさせるくらいにならないと、彼らの間合いにも入れないだろう。個人技の話をする以前の問題だ。」
剣だけを携えた大の男が固まっていたら、標的にされて終わりだ。
「この村にも銃は何丁か用意がある。私やジュネが扱い方を知っている。」
いつの時代のものを言っているのか想像もつかないが、まあ、ないよりはましくらいのものだろう。口にはしないが、仮に外からの強襲があったとしたらそれすら構えることもなく勝敗はつくとアレックスは想定している。
「はいはい、僕も使える~。よく父上と猟にでるからね。」
彼が高貴な身分であると改めて自己紹介された。
「それなら金のないビギナー野盗くらいは追い払えるかもしれないな。」
アレックスは素直な感想を述べた。一同が黙る。
「もし仮に外部のどこかの国や組織がこの村を襲う、となったら正直に言って勝てる見込みはない。村人のためにさっさと降伏するのが一番賢いやり方だ。おそらく王もその判断をするだろう。」
襲われるとしたら、目的はこの水源の略奪となるだろうか。
ソラの話が本当なら近年はニナの存在があって、聖樹教、引いては王都の庇護下にあったということになる。ニナは実質人質に近い存在だった、ということになろう。彼らは間もなくそれを失う。現在の国際情勢で露骨に戦争を仕掛ける国などはないだろうが、危機感を持っておくのは悪いことではない。
「お主はそんな講釈をするために我らをここに並べたさ!?」
バートンが少しいらだった様子で声を上げた。
「いや、申し訳ないが自分たちの力量と相手のそれの違いを知ることは基本の一歩だ。」
アレックスは冷静に返す。精神論だけでがむしゃらに戦って散ることを美学としがちな騎士道的な精神がこの国にもあるとすれば、時にはそれは弱点になろう。
「大前提はそこだ。それを踏まえて、外敵を迎え撃つ場合の想定をしてみる。兵は集められて100くらいになるか?」
アレックスがタルソムに問う。
「老兵も集めたら、そのくらいには…」
タルソムは歯切れ悪く答えた。
「オーケー、100として話を進める。実戦の経験のない男が老若合わせて100人。武器は剣と前時代の銃がいくつか。あとは農具あたりか。」
自分だったらさっさと逃げ出す状況だな、と思いつつも彼らの熱意の前では口にしない。
「敵側の指揮官だったらどう攻めると思う?こっち側の戦力は隠すまでもなくばれてる。」
ほぼ無いものとされるだろうとも言わないでおく。
「同じくらいの兵を集めて、トンネルを通ってくるら。大きな…自動車か何か数台で。向こうのほうが最新の武器を持っているから、こちら以上の兵は必要ないと判断するら。」
ヘルマーがおずおずと口を開いた。それ以外にあるのか、とでも言いたげだ。
「そうだな、人数はともかくトンネルは手っ取り早い手段の一つだ。」
アレックスは足元の砂地に落ちている枝切れで楕円を描き、実際にトンネルがある方向に線を伸ばした。この村の簡素な地形を表したつもりだ。
「その場合は、待ち伏せの攻撃ができる…。なんなら村に入る前にトンネルを封鎖して一気に吹っ飛ばすことも可能だな。たぶん、あのトンネルにはそれなりの防衛機能を備えているんだろ?」
おそらく、聖樹教/王都の予算で。ソラの話を聞くまでは、そこまでは読み切れていなかった。ただ昔ながらの生活を守っていた小国が、経済的な理由などで運営が立ち行かなくなって開国を決めたのだろう、くらいにしか考えていなかった。もしかしたらニナに関係なくその一面もあるかもしれないが、聖樹教、もしくは王都が絡んでいるとなるとそれくらいの設備を予め設けていると見ても考えすぎとは思えない。
おそらく、彼らはこの国は自分たちの植民地くらいにしか考えていないと思っていたほうがいいだろう。基本は泳がせておいて、いざというときには我が物顔で利用する用意をしているはずだ。
「それは…。」
タルソムが口籠る。図星らしい。外部もしくは村人にも口外禁止とされているのかもしれない。そこは要点ではないので、追及はしない。
「待ち伏せは子供でも考えられる戦略だな。わざわざ敵が犬死にするためにそんな手を使うだろうか。」
つまりトンネルの防衛設備は、実際に使われることはなくても存在するだけで意味があるともいえる。ヘルマーが確かにそうだ、と言って考え込む。素直すぎて若干心配になる。敵がトンネルを突破してくる可能性も考えられなくはないが、話が複雑になるので今回は割愛する。
「じゃあ、空からじゃない?トンネルができる前は、物資の定期船は空から来ていたもん。」
カイルがたった今思いついた案をそのまま口にしてくれた。
「そうだな、トンネルよりは迎撃されにくいな。この国には対空設備がないからな。空からなら侵入し放題だ。物資船は旧型船(=浮船)か?」
つまり、動力が蛍石の船のことだ。
「うん、なんでわかるの?」
カイルが目を見開いていう。航空機と言えば、いくつか選択肢があると言いたいのだ。
「例えば回転翼機などはここの高度までは飛べない。それにこの村には滑走路がない。」
ただの簡単な消去法だ。アレックスは続ける。
「そうだな、空からくる場合は浮遊船を使うだろうな。飛行機で畑にランディングしようと思えば可能だろうが、わざわざ(この小国を襲うために)そんな面倒な選択はしないだろう。」
アレックスは先ほど描いた楕円の中に湖の位置を書き足して、城の位置に石を置いた。
「浮遊船は大型のものでも50人くらいしか乗れない。そしてそんな大型船は王都くらいしか持っていない。20人程度のが2機か、来るとしてもその程度だな。」
「多くても40人程度ってことか!」
先ほどのトンネルより半数以上の60人減って、ジュネが嬉しそうに言った。勝機が見えたのだろうか。
「そうだな、多くても40人だな。」
おそらく、もっと少数でも数分で叩ける。
「ここまででひとつ、この国の重要な強みが見えたと思う。」
アレックスが全員の顔を見る。が、誰もピンときていないようだった。
「この国の最大の強みは、この高地にあるってことだ。それだけで、攻めるほうは兵数を少数にせざるを得ない。」
長年抗争なく存在し得たのも、この立地のおかげだろう。水源という資産は魅力だが、それだけしかないというのも長生きの秘訣かもしれない。要は、労力をかけてまで侵攻する利点がない。王や参謀ならそれを自覚しているはずだ。そのため、今後も侵略に対してそこまで神経質になる必要はないと思われる。が、国際情勢もいつまでもこのままというわけではないだろうから、準備するに越したことはないのだが。