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文字数 604文字

 歌舞伎町交番に新しく配属されてきた二人組の警察官は、巡回中にその光景を見て足を止めた。
 新宿インシデントの影響で人通りの少なくなっていたセントラルロードに、一本の長い行列が出来ていた。二人は目を合わせて警戒心を強め、行列に近付いた。驚いたことに、それは靖国通りの角にある大型量販店の先まで続いていた。
 ゲリラ的に有名人の握手会のようなことが行われているのではないか。列を遡りながら二人はそう考えた。しかし、行列に並んでいる者の人着は共通の有名人を支持する集団には見えなかった。ホストのような者もいれば、水商売風の女性もいる。家出少女のような者や、会社帰りのサラリーマン風の者、まるで歌舞伎町にいる者を無作為に選んでそのままの比率で並ばせたようだった。
 警察官の思った通り、行列の先ではフリーハグが行われていた。
 大柄な男が覆い被さるようにして、背の低い痩せた少女に抱き付いている。
「ちょっとすいません」
 声を掛けた警察官の作り笑いが、凍り付いたように固まった。
 周囲を警戒していて数秒遅く気付いたもう一人の警察官も、ぎょっとなって対応策を見失った。
 大柄な男はどう見ても、やくざ者だった。歌舞伎町交番に配属されたばかりの二人であっても、堅気ではないと想定するに十分の特徴がある。
 前から歩いてきたら誰もが道を避けるようなやくざ者が、少女に抱き締められながら、顔をくしゃくしゃにして、子供のように泣いていた。
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