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文字数 948文字

 神様を信じている人がいる。神様なんている訳がないと言いながら、神社に行けば「神様お願いします」と手を合わせる人も多い。神様なんかいるものかと思っていた流歌は、限りなく神に近いものの存在を感じている。
 病院を出た流歌は父親の火葬に立ち会うこともなくそのまま歌舞伎町に戻った。新宿に向かう電車の中ではすでに自分の意思で触手をコントロールできるようになっていた。老若男女の見境なく、他人の心を読んだ。善人も悪人も今のところ善人に留まっている悪人もまだ産まれたばかりの幼い魂も、何の区別もなく、流歌の読んだ情報は拡張された透明な脳に保存され、流歌の体と一緒に移動した。
 不思議なことに、他人の情報が増えれば増えるほど、自分自身の自我がはっきりと確率していくのを感じていた。自分がこれからやろうとしていることに、何の迷いもなくなっていた。
 新宿駅の東口に向かう通路はまだ通行禁止になっていて焦げ臭い臭いがしていた。西口から地上に出て、新宿インシデントの事件現場を回り込むようにして、流歌は歌舞伎町に向かった。歩きながら、擦れ違う人々の魂を読んだ。読みながら、天空に何かの存在を感じていた。何かから真っ直ぐに、見えない光線が伸びていて、流歌を導いている。
 一番街のアーチを抜けて歌舞伎町を進むとシネシティ広場もフェンスで封鎖されていた。あれだけの事件が起こった場所に、まだ未成年の家出少女がたまっていたら、警察の面子が立たないのだろう。シネコンの入ったビルを挟んで広場の反対側に向かうと、見知ったピンクのニット帽が見えた。
 この街には仲間はいるけど友達はいない。超多重人格者のようになったいまでも、その気持ちは変わらなかった。流歌はただ、誰かの話を聞いてあげたかった。誰かに分かって欲しがって泣いている魂を自分の体で受け止めたかった。
 流歌に気付いて駆け寄ってきたアポロの体を両手で抱き締めた。
 あなたのことをぜんぶ聞かせて——。
 透明な触手が何本も伸びて、アポロの小さな体を包み込んだ。
 流歌の知らない女の子が、抱き合う二人を見ている。その少女の名前はハヅキで、この街に来たばかりの小学六年生だ。流歌は手招きして、片手でハズキの肩を引き寄せた。ハズキの幼い魂は傷だらけで、助けて欲しいと全力で叫んでいた。
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