7-2

文字数 728文字

 岸は流歌と並んで境内の石垣に腰掛けた。
 その目の前の地べたに座って、子供たちが金を数えている。金はある程度貯まったらコンビニのレジ袋に移していたらしく、実際の金額は段ボールに入っていた金額の何倍もあった。
「八万ちょいか、今日は少ないな」
 ツインテールの女の子が不服そうに言って売り上げの中から五千円札を一枚抜くと、「これで二人でうまいもんでも食ってよ」と言って流歌に手渡した。
 残りの金が入ったレジ袋をピンクのリュックに仕舞って、三人の少女たちはふらふらと境内を出て行く。
 少女たちの背中を優しい目で見ている流歌に、岸は話し掛けた。
「いまはどこに住んでるの?」
「ホテル。あの子たちといっしょに暮らしてる。他にも何人かいて、いつもだいたい五人ぐらいで寝てる」
 流歌はそう言って、大きなあくびをした。
「そっか。そりゃたいへんだ」
「そう。お金を持っていなくなっちゃう子ばっかりだけど。なぜかみんな、また戻ってきて泣くの」
 拝殿の裏に沈みかけた夕日の光線が、まだ十五歳の流歌を大人びて見せた。
 いつの間にか誰もいなくなった境内で、岸は赤くなった空を見上げて言った。
「来るのかな。pp」
「どうでしょうか。ゆりさんでも恐いんですか?」
 機動隊員と対峙したときの恐怖が、頭に浮かんだ。
 流歌の指先が、優しく岸の背中に触れた。
「私もハグしてもらっていい?」
「もちろんです」
 流歌が開いた細い腕の中に、岸は身を委ねた。
「やばい。泣いちゃいそう」
 行列ができる意味が、体験してみて分かった。心が少女に戻って、魂が泣き出そうとしている。
「私もです」
 流歌の苦悩が、岸の意識と混じり合う。
 あなたは何も悪くない——。
 流歌の瞳から大粒の涙が零れて、岸の首筋で次々と爆ぜた。
(了)
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